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【どうぶつの森】さくら珈琲

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43.強がり(とまとside)


 さくらさんがずるいと思ってしまった。それがいやだった。
 どうしてあたしって、いつまで経っても自分のことしか考えられないんだろう。
 あたしはヴィスくんが好きで、ヴィスくんはさくらさんが好きで、さくらさんは別れたみしらぬネコさんを想い続けてて。
 こんな複雑な関係、どうしろって言うの。

……頭ではわかってるんだ。
 恋で傷ついているさくらさんを、ヴィスくんなら救えるかもしれない。
 それにあたしだって、こんな惨めな片思い、さっさとあきらめた方が楽なんだ……。


 あれからあたしは、家族の誰に会うのも気まずくって、何日も自分の部屋でふさぎ込む日々だった。
 さくらさんはあたしが取り乱したことには触れないでくれて、なんとか話せてるんだけど、ヴィスくんにはついよそよそしくしてしまう。
 ため息をついていたら、ぐいっと髪をひっぱられた。

「いったーい!!」

 振り返ると、ほら出た大馬鹿リク!!
 ほんっとにデリカシーゼロ! 普通女の子の部屋に勝手に入る!?

「ちんちくりん! チョコくれるんだよな!」
「は?」

 思った以上にトゲトゲしい返事をしてしまったが、リクはお構いナシ。この人のこういう図太いところは、たまに見習いたくなるくらいだ。
 カレンダーをちらりと見て、思い出した。
 そういえばもうすぐバレンタインだ。
 毎年この時期になると騒いでたんだけど、最近はそれどころじゃなくてすっかり忘れてた。
 そっか、チョコ……。

「どうしようかな……」

 これはもちろんリクに向けてではない。しかしリクは「ええ〜〜〜くれよー!!!」とごろごろと人のベッドの上で転がりだした。しかしあたしは考え事に夢中で、怒る気にもならない。
 この間までのあたしだったら、ヴィスくんに作るーって張り切ってたんだろうな。リクにももちろん義理チョコ作るけどさ。
 それでね、さくらさんもみしらぬネコさんのために作って……さくらさんのことだから、義理本命関係なく村のみんなにあげるんだろうけどね。

「なんでヴィスのこと避けてるんだー?」

 リクの指摘に、物思いにふけっていた顔を上げる。

「……あんたには関係ないでしょ」

 明らかに動揺を隠せない返事に、リクは「ふーん」と怪しそうに言った。

「前はしょっちゅうヴィスくんヴィスくんってまとわりついてたのに。らしくねえぞー?」
「何その言い方、ほんとに無神経!」

 ヴィスくんのことになると、つい言い返してしまうことに気が付いて、思わず強がりを言ってしまう。

「あたし、もうヴィスくんのことはいいんだから」

 きっとさくらさんのことを気にしてしまうのも、ヴィスくんを避けてしまうのも、みんなの迷惑になる。傷ついたさくらさんに気を遣わせるのも最低だ。
 だったら、消えてしまえ、こんな気持ち。

「嘘つき」

 リクがはっきりと言った。あたしは「嘘じゃない!」と駄々をこねる子どもみたいに叫んでいた。
 あと少しで、リクに甘えてしまいそうだった。
 どうすればいいのって、誰かに聞きたかった。
 でもあたしのちっぽけなプライドが、それを邪魔する。

「大丈夫かよ? 最近おかしいぞ」

 おかしいって、わかってるよ。
 あたしらしくないってわかってるよ、こんなの。
 前はどうやって「とまと」でいられた?
 どうやって人に甘えられた?
 何も知らなくても、無謀でも、がんばっていられたの?

 よっぽど途方に暮れた顔をしていたのか、リクはあたしの頭にぽんっと手を置いた。
 リクはあたしより頭一つ分も背が高い。自然と見上げる形になる。
 普段は絶対振り払っていた手だけれど、今回はそうしなかった。

「まあいいや、お前がどんなんでも。」
「……何、それ。」
「だってオレっちどんなとまとも大好きだからなー!」

 自分の言った発言に照れ笑いを見せる。
 ばか。
 惑わさないで。リクは勘違いしてるだけ。
 こんな汚いあたしを好きだなんて、どうかしてる。

「まあ、ちんちくりんがしたいようにすればいいんじゃねーか?」

 ありふれた言葉なのに、すっと心に染みた。
 今にも泣き出しそうなのを必死に堪えて、あたしはうなずいた。
「よしよし」とリクは満足そうだ。
 悔しいけれど、今はこのまっすぐな言葉に従うのが一番いい気がした。