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不動と鬼道5

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「なんのことだ……それより、お前に言いたいことがある」


豪炎寺は俺を鋭く睨みつけながらこちらに近づく。


「俺にはねぇんだけど。ってか、なに熱くなってんの?」

一歩退いた拍子に腕を乱暴に掴まれた。

「は、放しやがれ!」



豪炎寺の手に爪をたてる。
しかし、少しも表情を崩さない。

「全然痛くない」

殺気ともいえる感情を向けられて、思わず俺は力を緩めた。


手元を見ると豪炎寺の手にはくっきりと爪痕が残っている。



「円堂は……俺の全てなんだ。だから、アイツが悲しんでいると俺はもっと辛い。
 円堂がお前を好きだとしても、俺はお前を許さない」

豪炎寺は怒りに震えながら声をおしだす。

「すまない不動。俺はお前を……消してしまいたいんだ」



矛盾したように、力無く微笑む。
その表情は、恐ろしく不気味だと思った。


「豪炎寺君」

優しい声音だった。
強張る俺の身体にしっかりと置かれた手はヒロトのものだった。

そして俺と豪炎寺を引き離す。


「あのさぁ、不動君になにするつもりなのかな?こういうの、円堂君は
 望んでいない」

思わず目を開く。
今まで全く口を挟まなかったヒロトが、俺を庇うなんて想像していなかった。


「じゃあ……」

豪炎寺はヒロトに向かって顔を歪ませた。


「俺の、この気持ちは、どうするんだよ」

目が微かに潤んでいる。
ヒロトはため息をついた。

「知らない。誰も悪くないんだ。それでも、不動君を消すつもりなら、
 俺は君を絶対止めてみせる。……誰も他人の一生を奪うのは許されないよ」

最後の一言は自分に言い聞かせるように諭す。


「不動っ」

その時、鬼道が息をきらせながらこちらに向かってきた。


「豪炎寺?どうしたんだ。ヒロト、説明してもらえるか」

顔を伏せた豪炎寺を鬼道は一瞥し、状況を把握しようと質問する。
しかし、ヒロトが答えるまでの僅かな時間にも、こいつの頭は休むことを
知らないらしい。

「あぁ、なんて言えば良いのかな。気を悪くしないでね豪炎寺君。あんまり長く話す
 内容じゃないから。……自分が好きな人を不動君にフラれて彼は怒ってるんだ。
 それで、俺が止めにきたわけ」

「?!そんなこと、聞いてないぞ」


鬼道は俺が告白されたのを黙っていたことが心外だったらしい。

「不動、次からこんなことは全部話せよ。なんのために俺がいるんだ」

真剣な眼差しで鬼道は言った。
俺は直視できなくて目をそらす。

「そういうわけだ豪炎寺。こいつに手をだされると困るからな。不動が憎いなら
 その気持ちが消えるまで俺を殴れ」

鬼道は躊躇いのない動作でスッと豪炎寺の顎持ち上げる。


「服を着ていても見えるところはやめておいたほうがいい。お前がやったと
 バレては困るだろう?」

「やめろよ鬼道!俺だってお前が傷つくのなんか見たくねぇんだよ!」


ヒロトを押しのけて鬼道の腰にしがみつく。
この際、恥ずかしいだなんの言ってられない。

「豪炎寺!こいつに手ぇだしたらお前を一生許さないからな!!」


目を閉じて必死に叫ぶ。
今まで、自分自身が何より大切だったのに、いつから俺は
鬼道が1番大切な存在となってしまったんだろう。



「……すまん。鬼道、不動、ヒロト。俺は、自分のことしか考えられない……
 最低な奴だ」

「え」


呆気にとられて豪炎寺を見ると、頬に涙が伝っていた。

「俺は1度もお前を最低だなんて思ったことはないぞ豪炎寺。
 気持ちは分からないでもない」



鬼道は安堵の息をついて、豪炎寺から手を離す。

「不動、話があるんだが」


次にそう言って俺の頭を軽く撫でた。
ついて来いという意味らしい。



「ヒロト、どうやら誤解していたようだ。悪かったな」

苦笑気味に鬼道は表情をつくる。

「別にいいよ。じゃ、今日は何もなかったってことで」

ヒロトは照れたように言うと、腕を少し振って部屋に戻って行った。
鬼道も歩き始めたので、俺も後ろについて行く。
















豪炎寺がその後どうしたかは、
見ていないので分からなかった。