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月の出を待って 前編

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 アムロの正体が明確になってからの私は、月齢が早いうちは残業もそこそこに帰宅し、逆に満月を過ぎてからは夜遅くまで仕事や接待に時間を費やした。
そうしなければ人型のアムロと話が出来ないからだ。

 あの晩
4時位まで話し込み、今日も仕事があるんだろう?少しでも体を休めないと駄目だよとアムロに言われ、互いにシャワーを浴びて眠りについたのはうっすらと空が明るくなってからだった。
1時間半ほど眠って目覚めると、アムロは既に狼の姿になっていた。

彼曰く、どんな天候であろうとも、日の出と共に狼の姿となり、日没時に月が出ていれば人型になれるのだそうだ。
確かに、太陽があるうちに月が出ていても、アムロは変化しない。太陽の姿が消え、月の姿が見えると、ジワリジワリと変化が始まる。

私は彼の体にあう洋服を買い込んでおいて、いつでも着られるように準備して仕事に出掛けた。
彼が私のコーディネートした洋服を着ている事だけで幸せな気分になれる。なんて単純なのだろう。
そして休日はアムロを連れて広い公園や河川敷へと出掛けた。
アムロは狼型でいる時にはその性質が顕著になるのか、走り廻る事を好んだ。
フリスビーやボールで遊んだり、アジリティー紛いの事をして、疲れると一緒に寝転がって午睡したりして過ごした。
彼の存在は注目を集めてしまいがちなのでなるべく人目の少ない所を選んでいたが、それでも彼の姿を認めて声をかけてくる輩が居る。
彼の姿の美しさと高貴さが羨望の的となるのは当然だろう。
この私ですら見とれてしまうのだから…
だが、第三者が彼に触れてくる事に不愉快になるのは如何ともし難い。

私はここに来て、初めて自分の独占欲の強さと激しさに驚いた。
『彼に触れていいのは私だけだ!!』と、何度叫びたくなった事か。
そんな日は、帰宅してからアムロが人型になっても腕の中に閉じ込めて柔らかな癖毛を撫で続けていた。
アムロは困ったように溜息をつきつつも、それを甘受してくれた。そのお蔭で私の心は平安を保てていたのだ。

 そうやって過ごしているうちに、季節は夏へと移行していった。
アムロは、夏になるとぐったりとしている事が増えた。
彼曰く。暑さがこたえるのだそうだ。
それはそうだろう。彼の故郷は山の中で、夏でも涼しい風が山や川からふいているのだから
私は一日中冷房を部屋に入れ、窓に遮光性の高いカーテンをひいたが、アムロの食欲は低下し、元から華奢だった体は強く抱きしめたら折れてしまうのではないかと思うほどに痩せてしまった。
それでも、アムロは山に帰るとは言い出さなかった。

「すまないね。住み難い環境で…」

私が謝ると、狼姿のアムロが頭を私の胸に摺り寄せてくれる。
最近では人型になるのも辛いらしく、ほぼ一日中狼の姿で過ごしているが、尻尾に感情を込めてくれる。
今もうれしそうにぱさぱさと尻尾が振られ、私を慰めてくれるのだ。

「盆休暇には涼しい地方へドライブしよう。別荘を借りて気兼ねなく過ごせるようにするから、もう少し我慢してくれたまえ」

冷却シートに伏せているアムロを優しく撫ぜながら、早く休暇にならないものかと苛々と待つ日々を過ごし、ようやく8月の盆休暇がやってきた。

私はガトーから借りたRangeRoversport(レンジローバースポーツ)に着替えやアムロのトイレ用品を積み込み、一路山間部へと車を走らせた。
都心から3時間。広い敷地を持つ別荘を、キシリアからの伝手で1週間借りたのだ。

私達はその屋敷の前に着いて驚いた。
門から玄関が見えない。
それどころか、斜面に敷地を有しているせいか、何処までが別荘の土地で何処からがそうでないかが判明しない。
鬱蒼とした木々が林立し、気温は都心と比べて明らかに5度程低いのではないかと感じた。

「これは・・・・・」

私は驚愕に言葉を失ったが、アムロは車の扉を開けるなり別荘の建物には目もくれず、敷地の中を走り出した。

「あっ、アムロ!!」

私は置いてきぼりを食わされるだけでなく、そのままアムロが何処かに行ってしまうのではないかと慌てて彼を追いかけた。
が、藪を潜り抜け、小さな池を飛び越えて走り廻る狼のアムロに人間の私が追いつけるはずも無く、あっという間に彼の姿は木々の間に消えてしまった。
膝に手を当てて上がる息を整えようと休む私の耳に、アムロの遠吠えが聞こえた。
それだけでなく、遠くからそれに答えるかのような犬の遠吠えが返され、彼らが私に理解できない会話をしている事に、胸が絞られる。
私はアムロを追いかけることを諦め、とぼとぼと車に戻ると、荷物を別荘――邸宅と言った方が似つかわしい――に運び込んだ。

別荘は靴を脱がないで過ごせるようになっていた。

「この別荘の持ち主は西洋式の生活をしている人物か?しかし、アムロの足には迷惑だな」

つい、アムロを基準に生活様式を考えるようになっている自分に苦笑してしまう。
事前に配送を依頼しておいた食材を、大人二人が入り込めそうな大きさの冷蔵庫に納め、空気を入れ替える為に全ての窓を全開にし、着替えなどを二階最奥の主寝室のクローゼットに片付ける。
アムロのトイレは寝室内の専用トイレに設置したが、この大自然の中では必要無いかもしれない。
この別荘は、二人で過ごすには広すぎの感がある。

「もう少し、こじんまりしたログハウス調で良かったのだが…」

私は無駄に広い空間が、アムロとの距離を広げてしまう様に感じて、つい愚痴ってしまい、ベッドに身体を投げ出した。
高原特有の乾いた爽やかな風が、開け放たれた窓から入ってくる。その風に誘われるように、私は眼瞼を閉じた。

2009/05/29



作品名:月の出を待って 前編 作家名:まお