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月の出を待って 前編

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 翌日からの数日は、互いに手探り状態での同居生活だった。

アインの朝は早く、日の出と共に覚醒し、活動を開始した。
私は比較的夜型人間であった為、ねむい目を擦りながら起床し、彼の世話をやいた。

アインは、トイレがリビングにある事を嫌った。
鼻でトイレを動かすので、私は何処が良いのかと問うた。すると彼は不自由な足を動かしながらも、人間用のトイレへと足を向けたので、私はそこにアインのトイレを設置しなおした。
また、えさは生肉はお気に召さないらしく、私の調理している足元に来ては、下からじっと見詰めてくる。

「味の濃いものは、君達の体に良くないとガトーに厳しく言われているのだがね」
と言いつつも、向けられる視線の愛らしさについつい絆されて、自分が食べるのと同じ物を与えてしまう。

 アインは三本の足で動き回るのに慣れたのか、それなりに広い家の中をピョコピョコと走ったりするので、私は慌てて追いかけて、まるで追いかけっこの様に運動をしたりしていた。
その現場にガトーが鉢合わせて、目を丸くした後に二人(?)あわせて雷を落とされてしまったが…。

 そして日が暮れると、アインは入浴を好んだ。
私がシャワーを浴びていたら、バスルームの扉を軽く前足で掻いてきたのだ。
最初こそ戸惑ったが、出会いの時に彼の毛並みがあれほど綺麗だったのも毎日の入浴によるものだったのだと納得し、その後はシーネをビニール袋でカバーし、一緒に体を洗うようにし、ドライヤーで乾かした。
彼の体から私と同じ香りがする事に、不思議なまでに安堵する自分が居る。
「家族」という単位になれたような安心感なのだろうと私は理解していた。


 そうして、蜜月のような時を重ねていたが、痺れを切らしたキシリアから有休終了要請が入ったのは、四六時中一緒に過ごした9日目であった。

「まだ有給はごっそりとあると思うのだが?」

『わかっている。しかし、情報部門の活動が些か停滞気味なのだ。率先して動くお前さんが居ないと、気合が入らないらしくてな。ガルマの甘々坊々な声かけでは馬どもが走らん。助けると思って復帰してくれ』

「その駄馬を、名馬にすべく調教するのが、上司たる貴女の仕事だと思うのだが?」

『嫌味を言うな!暫くは定時退社も認める。頼む』

電話口で髪を振り乱さんばかりになっているだろうキシリアの姿が脳裏に浮かび、私は腹の底から溜息をついた。

「了解だ。明日から現場復帰する。しかし、定時退社の件は厳守してくれたまえよ。まだ病人が自宅にいるのだからな」

『病人?お前さんが体調を崩したのではないのか?妹のセイラかね?』

「いや…。ま、ここでその話をした所で意味はない。とにかく明日から出社しよう」


『助かる。では、明日。待っているぞ』
ほっとした調子の声を最後に電話は切れた。

私は仕事部屋として使っている書斎で携帯電話を使用していたのだが、電話を切るなりがっかりと肩を落とした。
アインとの毎日は楽しく、新たな発見に満ち満ちており、近年にない有意義な日々だったのだ。
そのふれあいの時間が朝方と夜に限られてしまう事に、私は激しく落胆した。
気乗りはしないながらも、アインに明日からの事を話さなくてはならない。
私はトボトボと書斎を出ると、アインのいるリビングへと向かった。

 アインは広い窓から外を眺めていた。

すらりとした首筋から背中のラインが美しい。
シーネで固定された左後足はまだしっかりと曲げられない為にずらしているが、それによる腰の捻じれに妙な色気を感じてしまう。

“おいおい、シャア・アズナブル。しっかりしろ。何を血迷っているんだ。相手は獣でオス、なんだぞ。こっちが発情してどうする”

私は自分に言い聞かせると、軽い足取りでアインの傍らに近づき膝を折った。

「アイン。私は明日から出社しなくてはならなくなった。非常に不本意ながら、君を日中一人ぽっちで残して措かなければならない。水は十分に準備しておくし、定時退社をしてくる。ガトーにこの部屋のカードキーを預けて、君の様子を見てもらうようにするから、心配しないで今まで通り快適に過ごしておくれ」

私は寂しくなるのだとはっきりと言葉に含ませて告げた。
私が傍らに来るなり顔を向けてくれたアインは、私の言葉をじっと視線を合わせながら聞いてくれた。
そして言い終った私の腹に頭を寄せると、スリスリとしてくれる。

「慰めてくれるのかい?君は本当に賢くて優しいね。私は君が大好きだよ。君も私を好きになってくれると、もっと嬉しいのだが…」

私はアインの耳の後ろや首筋、背中をくしゃくしゃとかき混ぜるようにして撫ぜた。


こうして私とアインは日中別々の生活を始める事となった。
 
彼の骨折が治ってから、思いがけない出来事が起こるなど、この時の私達は思いもしなかった。

2009/04/21
作品名:月の出を待って 前編 作家名:まお