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痴人夢を説く

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コーヒーとフルーツパフェ。

それは750円のいつもと同じ組み合わせ。
コーヒーは未だにゆらゆらと湯気を漂わせている。
擦った手は冷たい。慎重に注いだミルクが溶け込んで、やがて色を変えてゆく。くるり、くるり。スプーンで混ぜればとてもよい芳香が鼻腔をくすぐった。その馨しさから上等のものであることがわかる。
古泉はそのコーヒーの温度が下がるのを待ちながら目の前に座る彼女が退屈そうに、しかしおいしそうにそのフルーツパフェを食べるのを微笑ましく見ていた。

店内の軽快なジャズサウンドを聞きながら、窓辺から往来を眺める。世間はそろそろクリスマスだからなのか、恋人ばかりが目に付く。傍から見たら古泉達だって健全な高校生同士のデートのように見えているのかもしれない。否、そうであればいいのにと古泉は頭の片隅でそんなことを考えていた。古泉は涼宮ハルヒに好意を寄せている。もっとシンプルに言えば、好きだとか、更にお付き合いしたいとすら思っている。しかしこれが一方通行で、そんな煩悩にまみれているのは古泉だけに過ぎないことは重々判っていた。
ここのところ、毎日学校帰りにいろんなところをぶらぶらとしている。・・・なんといっても彼女にとってはこの道草の大義名分が「不思議な出来事を探すの」ときたものだから、まったく苦笑するしかない。ただ、その苦笑にも諦めや呆れというより大分古泉自身も楽しんでいるという節があることは本人もよく分かってはいる。いる、のだが古泉だって高校生だ。なんだかんだといってもおんなのこと二人で並んで歩いて、道草をしてみたい年頃だった。しかし、こともあろうに彼女は本気でそんなことをのたまっているのだからどうしたことか。冗談だったらいいのに、と思ったところで何も変わりはしないことも、古泉はよく判っている。
屋上、垣根、裏通り、空き地、商店街。そうしてそんな不思議などがそのあたりに、ましてや高校生の登下校ルート上に存在などするはずもなく。おかげさまで不思議らしい不思議が見つかった試しは一度も無いのだが、それが気に入らないらしい彼女は大抵別れ際にはご機嫌ななめ状態だった。

出会って半年程経った今でも日に日に彼女の顔色は退屈の色合いが濃くなるばかりで止まることを知らない。不機嫌に次ぐ不機嫌・会話のない帰路・生気のない相槌・理不尽な叱咤エトセトラエトセトラ。
もはやはじめて会った頃に比べて古泉の扱いはとてもぞんざいなものになってしまっていた。夏の向日葵を彷彿とさせる満面の笑みも、ここのところずっと見ていない。
そうして窮鼠が猫に直談判を持ち込むように、不機嫌な彼女を宥めるためにこの喫茶店に逃げ込んだのだった。勿論古泉の奢りである。
そうしてオーダーされるコーヒーとフルーツパフェ。
正直パフェのひとつであのむすっとした顔が笑顔になるのだったら安いものだ。そうして笑っていてくれれば、たとえそれが古泉のためでなかったとしてもそれでいいと思っている。そうしてそれが古泉にとっても彼女にとっても一番しあわせな事なのではないだろうか、とさえ思っている。不機嫌モードの彼女を持て余し気味だというのも、若干含まれてはいるけれど。
しかし幸か不幸か、この作戦は案外うまくいっているようだった。おんなのこが甘いものがすきなことはもはやデフォルトであるように、彼女も例に漏れずそうであるらしい。
その根拠にどんなに不機嫌な彼女も食べている最中はとてもしあわせそうな顔をするのだ。(すべてが古泉の奢りである、ということも一因であると思うが)
どうやら古泉がクラスの女子から聞きだしたおすすめのカフェテリアは、彼女のお気に召したらしかった。

真冬なのにつめたいものなんか食べてお腹を冷やしたりしないのだろうか、なんて無用そうな心配を寄せている古泉をよそに彼女はアイスの溶け出したそのフルーツパフェを最初はつつきながら口に運んでいた。見ていて、まるで小動物か何かを眺めているようなあたたかな気持ちになる。おんなのこ、という生き物はかくもかわいらしいものだっただろうか。

「ねえ古泉くん、どうしてあなたは超能力者じゃないの?」

パフェ用の華奢な銀のスプーンの先を古泉に向けながら、彼女が面白くなさそうに口を尖らせた。一体どこへその華奢な体に入っているのか、いつのまにかほとんどパフェの中身は消えていた。
それに苦笑交じりの微笑を湛えながら、古泉はまるで強盗犯に投降するように小さく両手を挙げてさてどうしてでしょう、と返した。
そして付け加えるようにそうだといいですね、とも。

作品名:痴人夢を説く 作家名:えの