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ネメシスの微睡み~接吻~微笑

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ネメシスの微笑 2 



「なぜ、君は教皇に歯向かうような真似をするのかね?一刻も早く聖域を訪れ、詫びの一つでもいれるべきであろう。たとえ、アリエスの聖衣を纏う資格のある君とて、一介の聖闘士でしかない。従うべきは――」
「女神でしょう?」
「今は不在であられる。ならば、代行者である教皇に従うのが筋ではないのかね?」

 ムウは真っ直ぐに据えていた視線を泳がせ、うっすらと口元を吊り上げて見せる。寒々しい笑みを示すことで、ムウは無言で異を唱えていた。

「もう少し聡明な方かと思いましたが、残念ですよ。でも、まぁそれも仕方ないことでしょうか。あなたは昔から『あの男』の子飼いでしたものね」
「どういう意味かね」

 明らかに侮蔑の色を含んだ眼差しで刺のある言葉を吐き出すムウ。心底からの憎悪を感じた。だがムウがどうしてそのような感情を私に向けるのか、まったく理解できなかった。吐き出された言葉の意味も含めて。

「おやおや……わかりませんか?……ご存知ないとは意外ですね。なるほど、これは面白い」

 まじまじと愉快そうにムウが眺める。ムウは私の知らぬ何かを知っているのだろうか。不愉快さよりも不気味さを感じた。

「上手く誤摩化しているのか、上手く騙しているのか――それとも嘘、偽りに縋り付いているのか……哀れなものですね。結局、なにもその手に掴む事などできないままとは」

 私に、というよりは別の誰かに囁いているように見えるムウの手が伸ばされた。あまりにも自然であったため、避ける事もしなかった。冷たく見えたムウの指先が私の頬に触れる。意外にもそれは温かなものだった。

「ムウ?」
「ねぇ、シャカ――しばらく此処に滞在しませんか?」

 ムウの不意打ちのような提言に訝しむ。

「なぜそのようなことを?私の役目は君を聖域に連れ帰ること。此処に滞在するということはまったくの逆の行為になる」
「今の聖域は本来の聖域などではありませんよ。そのような所に私たちが居る必要などないでしょう。私たちは聖域の……教皇の聖闘士ではありません。女神の聖闘士なのですから。あなたが女神の聖闘士だというのならば、早々に離れるべきだと思いますが違いますか」
「私は……」

 きっぱりと女神の聖闘士だとは云えない自分がいた。女神の存在すらわからないのだ。人伝に聞いただけの存在であり、むしろ今の自分が黄金聖闘士の一人としてあるのは、ただサガに願われたからでしかない。探るようなムウの眼差しから顔を背ける。

「なるほど。そういうことですか……残念ですよ。その希有な力は女神のために揮われるわけではないのですね」
「では教えてくれ。君は――女神のために闘い、女神のためだけに生きて、死ぬのかね」
「当然でしょう?それが聖闘士としての運命であり、至福なのですから。女神の盾となり、剣となって闘う。唯一絶対、揺らぐ事のない信念。幼き頃から教え導かれたこと。アルデバランもミロもカミュもアイオリアも……十二宮を守護する者ならばね。ああ、でも――あなたは少し異質なのでしたね」

 黄金聖闘士ならば当然なのか。ごく自然に、骨の髄まで女神への忠誠を誓うことが。ならばサガもまたムウと同様、女神の盾となり剣となるのか。何よりも、誰よりも代え難い存在として、サガのすべてを抱く者……それが女神だということなのか。

「シャカ?」

 ムウの言葉にひどく衝撃を受けている自分がいた。今頃になってわかるなんて。サガにとって何よりも大切な存在は女神だということに。
 私にとって何よりも大切な人はその存在すら希薄な女神を至高とするのだろう。ずくりと身体の奥で得体の知れない感情が産まれた。冷たい産声が細胞のひとつひとつを掠め凍らせていく。

「――確かに私は君たちとは違うようだ。女神のために生きて、死ぬつもりなど、さらさらない」
「ほう。随分と不届きなことをさらりとおっしゃる。ではお尋ねしますが、あなたは誰のために、そして何のために存在するのか」

 ムウは呆れたように肩を竦めたが、どこか楽しげにも見えた。

「さて、な。いずれ時がくればわかることだろう。私が生き残った意味も、与えられた生命の意味も、そしてバルゴに捧げたこの生命の意味も――いずれ、きっと」
「ふふふ。面白い男ですね、あなたは。思った以上の収穫を得られましたよ。シャカ、あなたはとても素敵だ」
 にっこりと優しげに微笑みを浮かべたはずのムウ。だが、何故だかその微笑みはとても禍々しく映って見えた。