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マヨネーズ生卵β
マヨネーズ生卵β
novelistID. 38947
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愛し子1

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なんだい、なんだいこれ。
これが大人になるということだったら、俺は大人になんかなりたくなかったぞ。

世界はおおむね平和になった、特にここ数十年間は主要なメンバーが変わることも誰かが消えることもなく、なんとなく同じ面子で踊るような会議を繰り返している。お互いの関係も、昔のように単純な敵味方に分けられるようなものでもなくなった。世界的に広がる経済活動は時に病を引き起こすものの、網の目のように絡み合う利害関係の糸が、決定的な決別と戦いへ進まぬようストッパーの役割を果してもいた。下手に諍いを起こせば、直接関係の無い国まで巡り巡って病に倒れるのだから、過去よりもお互いの為に、助け合わなければならないことにもなる。

世界は以前に比べて格段に平和に、そして比べられないほど複雑になっていた。派手に血を流す事は無いが、皆それぞれに病を抱えている。国としては、戦いの疲弊や国民の血と涙よりも、いまや慢性的となった体調不良をなんとかやり過ごす方が、ずっとずっとマシだ。そんな諦めに近い認識で、病を受け入れているのだけれど、辛いものはやっぱり辛い。

「ああもう、最近どうも調子が悪いんだぞ」

ベッドの中で大きく背伸び、次に欠伸を一つして、アメリカは起き上がった。3日続いた風邪の症状も、軽い微熱だけを残してどうにか収まったようだ。風邪をひき慣れていないアメリカにとって、他国が見ればなんてことない軽い症状でも、ひどく重く感じられて憂鬱になる。思わしくない体調とは裏腹に、外は抜けるような晴天の青空。朝の澄み切った空気と眩しい日差し、どこからとも無く聞こえる鳥の囀りと、窓枠の外をテトテトと横切ったのはリスじゃないか。今日一日何も悪いことなんておこらない、楽しいことしかないという気がする、アメリカが最も好む最高の朝。
アメリカの為に整えられたアメリカの本宅は、昔ながらの古き良き邸宅だった。落ちついた調度品と美しい芝生の庭を春の日差しが照らしている。キッチンからはメイドが用意している暖かな朝食の匂いがするし、もう暫くすれば、馴染みで人の良い笑顔を浮かべた初老の執事(執事を雇う柄でもないのだけれど、彼の人柄を気に入って傍に置いている)が新聞を片手に体調をたずねて来るに違いない。

ニューヨークにもアパートを持っているし、来賓用に構えたもっと豪華で派手な家もある。各主要都市に別宅はあるけれど、体調の悪い時はいつも、ここで過ごすよう決めていた。ワシントンの本宅は、ふらりと帰ってきても変わらず丁寧に暖かく迎えてくれる。初めて与えられた家でもあり、アメリカにとっては実家のようなものだった。

差し出される新聞を開けば、自分の体調が悪い理由なんていくらでも見つけられるのだけれど、とりあえずは、光に溢れる素晴らしい休日だ。久々のオフだし、今日は人に混じって桜まつりを見に行くのも悪くないかも知れない。

最低限の身支度を整えて適当にシャツを羽織って、マグにコーヒーを注いだら、もう100年は使っているソファーに腰掛ける。野生のリスがせわしなく庭を駆ける様子をなんとなく眺めていた時、胸に鈍い痛みが走った。

「・・・あッ!ああもう、本当に」

痛みに気をとられて取りこぼしたコーヒーが、シャツの胸元を盛大に染め上げていく。それがなんだか自分の病巣を示しているように思えて、ひどく惨めな気持ちになった。

情けない。ヒーローが体調不良なんてかっこ悪いよ。

胸の痛みの理由はわかっている。ここ最近アメリカでは貧富の差が激しく、怒りと不満を感じた民衆が大きなデモを起こした。国民の感情はアメリカの胸を痛みで締め付ける。いっそ過去にロシアがそうしたように痛みの元を断って回れば楽になるかも知れないが。

俺はヒーローだからね。そんなことはしないんだ。

今までずっと子供で、体は大きくても若いからと言われて、俺はヒーローなのに馬鹿にされるのが悔しくって、成長すること、大人になることを、夢見ていた。早く早く、大人になりたい。一人前と言われたい。大人になれば、全部手に入るような気がしていた。だからイギリスに背を向けて独立を勝ち取ったし、色々あったけどその後も成長を続けて、世界のヒーローになったんだぞ!うん。努力もしたしね、頑張ったしね。一番強くて大きくてカッコイイヒーロー!世界中がヒーローの俺を中心に回っているんだ。他の国より歴史は短いけど、そんなのはこれから積み重ねたらいいことだろう?気分は最高さ!

いや、気分は最高、だったさ。知らなかったんだよ。老いるっていうことをさ。つまりは、いつまでも若くないってことが、どういうことかってことをね。

俺は最近、俺の中に積み重なっていく時間と歴史の重みと痛みに耐えられないと思うことがある。
過去に繁栄して打ち捨てられた都市は今自分の中に輝かしい思い出と痛みの空洞を作っている、同時に新しく発展していく都市もあるんだけど、過去の痛みは消えない。自分の中を虫が這うみたいにどんどん歴史が刻まれていって、抜け落ちていって、残っていく。過ぎ去った過去が虫食い穴のように自分に穴を開けていく。
国は人のように簡単に老いたりしない。何百年も人の若い姿を保ち、中年ぐらいまで成長したら最後は静かに消えていく。国で老人の姿をした者はいない。中国なんて若作りにも程があるし、日本だってティーンにしか見えない。そんな国のあり方だけれど、やっぱり老いはあるんだ。積み重なる痛み。今まで俺が無縁であり続けたもの。

痛い、痛い、痛い。

他の国はどうやってこの痛みを背負っているのだろう。諦めているのだろうか。慣れているのだろうか。だんだんとガタがくる自分の体を、恐怖をもって感じているのだろうか。日本あたりはどうしているのだろう?ダイエットの時も助けてくれたから、こういうのも日本に聞けばわかるのかな?日本はあれでも千年生きているし。相変わらず何を考えているのかわからない時もあるけど、友達だから良くしてくれるに違いないんだぞ。

体調不良を心配した上司が一週間の休みを用意してくれているから、日本で過ごす時間は十分にある。日本も震災からだいぶん落ち着いたようで、花見の誘いも来ていたところだ。

うん、そうしよう。今年はワシントンではなく、日本で本場の桜を見るんだぞ♪

「アル?起きていたのかい?」
「ああ、おはよう。丁度来てくれて助かったよ!コーヒーをこぼしちゃったんだ」
「!」

顔色を無くした執事が、親しげな笑みを捨てて駆け寄ってくる。
堅苦しいのは嫌いだからと、年の離れた友人のように接するよう指示をしていたのはアメリカ自身だ。
彼は自分をアルと呼び、甥っ子を可愛がるように振舞うけれど、職務と立場を忘れることはない優秀な人材だ。
慌てて駆け寄って脱いでいたシャツを受け取り、火傷の確認をしたかと思うと、メイドを呼んで迅速に指示を出す。

そういえば、前にもこんなことがあった。あれは・・・イギリスの家だったかな。
作品名:愛し子1 作家名:マヨネーズ生卵β