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寿ぎ(ことほぎ)

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「殺生丸、少し落ち着かんか」

殺生丸の母がみかねて声をかける。先ほどから殺生丸はりんの部屋の前の廊下をいったりきたり、何十回と往復しているのだ。
「りんにはお産にたけた薬師をつけてある。あれも半妖だから、人間のりんの体にも詳しいはずじゃ」
「しかし、りんは苦しげではないか」
りんの初めての出産を前に、その夫たる殺生丸は、いつもの冷淡ともいえる沈着ぶりはどこへやら、部屋からりんの苦しい声が聞こえるたびに、眉をひそめ、部屋の方を不安げにみやり、ただ、廊下をうろうろしている。
「子を産むことには苦しみが伴うものじゃ」
「やはり、私がそばについておる!」
「殺生丸!やめろ!りんの集中が切れるぞ。りんのお産をかえって長引かせるぞ。早くお産を終わらせるのがりんにとって一番よいのじゃ」
母はりんの部屋の戸を今にも開けようとする殺生丸を押しとどめた。
「母上。りんは人だ。我々よりもろいのだ。このままりんが、苦しみ続けたらどうするのだ!?」
(その苦しみの原因を作ったのはお前だろうに・・)
母は心の中でつぶやいた。
「殺生丸、とにかく待て・・」
そのときだった。

「お産まれになりました!」
薬師の声が部屋の中から聞こえた。
「!!」
殺生丸の瞳が大きく見開かれる。すぐにりんの部屋に飛び込む。母もそれに続く。
「産まれたか!」
「りんっ!!」
りんはひどく疲れている様子であったが、笑顔を浮かべていた。
「殺生丸さま・・母上さま・・・」
「りん、大事ないか?苦しかったか?まだ痛むか?」
殺生丸はりんの汗にぬれた顔をやさしくなでた。
「おう、やはり男であったか!しかも、双子か」
母はにんまりとして、薬師が抱えていた赤ん坊を受け取った。
「ほう、殺生丸によく似ておるのう」
「母上さま・・・」
母の言葉にりんが嬉しそうに微笑む。

母の腕の中には、着物に包まれて、二人の男の赤ん坊がいた。白い髪、金色の目。整った鼻筋。白い肌。額の三日月。まさしく殺生丸の複製といったところだ。二人は泣きもせず、ただその瞳をくるくると動かして周りを見ていた。

殺生丸がりんから目を赤ん坊に移した。
「・・・」
「どうじゃ、殺生丸。お前にそっくりだろう」
「・・・口と耳はりんだ」
「口?耳?」
「そうだ。口と耳はりんにそっくりだ」
耳は確かに人間のように円い。口は・・・どうだろう?果たしてりんとそっくりといえるかどうか・・・。母はおかしげに息子を見た。

殺生丸は自分の二人の息子の顔をじっと見つめた。息子も殺生丸の顔をじっと見返している。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
無言の親子対面である。

「あの・・・殺生丸さま?」

りんが声をかける。殺生丸が息子たちからりんへ顔を向けた。りんのそばに近寄り、りんの小さな手をそっと握った。

「りん。よい子を産んでくれたな」
「殺生丸さま・・・」
「ほほほ。りん、ほんによい子たちじゃ。立派な跡継ぎじゃ。まずは、ゆっくり休むがよい。この子達は母が面倒みておるでな」
母は孫たちを抱いて、薬師と共に部屋を出ていった。


母が出ていくのを見計らったように、殺生丸はりんへ口づけた。そしてりんの小さい体をそっと自分の腕の中へ抱え込んだ。
「殺生丸さま?」
「りん、気が気ではなかったぞ。お前が苦しむ声を聞いて私がどれほど心配したか。お前が無事でよかった」
「殺生丸さま、心配かけてごめんなさい。でも、無事生まれてよかった・・・」
「うむ。りん、立派な息子たちを産んでくれたな。お前を娶ってよかったぞ」
「殺生丸さま・・・」
殺生丸はりんにもう一度口づけた。
「美月丸(みづきまる)と青華丸(せいかまる)だ」
「え?」
「あれらの名前だ」
「名前・・・」
「美しい月と書き、美月丸。青い華と書いて青華丸だ」
「きれいな名前ですね」
「お前を娶った夜、月が美しかった。あの夜お前を初めて抱いたのはあの青い花の咲く野であった」
「殺生丸さま・・・だから?息子たちにあの夜にゆかりのある名を?」
「そうだ。あれらが大きくなったら教えてやろう。名の由来を。私がお前を初めて愛くしんだ夜にちなんでいることを」
「殺生丸さま・・・」
「あれらは知るであろう、私がお前をどれほど愛おしいか・・・」


そう。息子たちは知るであろう。私がどれほど切ない想いで人間であるお前を愛おしんでいるか。どれほどお前を我らと同じ永遠ともいえる永い時間の中にとどめたいと願っているか。

りん。お前の命を我らの時間に延ばすことができるのならば。お前をずっとこのまま変わらず私のもとにとどめておけるのならば。私は何も惜しくない。すべてを投げ出すことができる。ただ一つの願いさえかなえられるのならば。

りんは幸せそうに目をそっと閉じて殺生丸の胸に顔をあずけている。

しかし今は。今は、息子たちの中にお前の命をつないだことを、寿ごう。息子たちの名の中に、お前への想いをこめたことを祝おう。りん。お前に言うべき言葉を今伝えよう。

「りん・・・愛している」


作品名:寿ぎ(ことほぎ) 作家名:なつの