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幻の月は空に輝く2・修行の章・【お弁当を持って会いに行こう】

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お母さんに協力してもらってのお弁当作り。おむすび4つ。たこさんウィンナーにアスパラのベーコン巻き。たまご焼きにからあげミニトマト。
 豪勢な感じのお弁当をリュックにいれて、私は小さな手足を動かして歩き出す。首元まですっぽりと隠れる蒼と白と黒の服。勿論長袖長ズボン。銀色の長い髪は後ろで無造作に一つに縛っているけど、それを縛ってるゴムと特殊仕様。
「ふぁ。いい天気」
 空を仰げば晴天。
 ちなみに、お弁当は持ってるけどピクニックじゃない。今日はナルトの所に行こうかと思って気合をいれてみたのだ。
 天華は私の左肩にとまってキョロキョロと辺りを見回してた。お父さんから私に近付く害虫を退治してくれ、なんて言われてたけど…。

「テン。お父さんの言う事は真に受けなくていいからね」
《む?》
「害虫駆除って…害虫はいないからね。それに俺でも対処出来るし」
《むぅ。そうなのか?》
「そうなのですよ。どんだけ親馬鹿って話しになるから」
《……そうなのか》
 真面目な口調の天華に、思わず苦笑を漏らしながら歩いてく。赤ん坊の頃からずっとこうして2人でいるから、天華といるのは当たり前だし息をするのと同じぐらい自然な事になってる。
 だから、初めての事でも天華と一緒なら不安もない。
「こっちだっけ?」
 漫画の中でナルトの家を見た事はあるけど、実際里を歩くとよくわからないんだよね。
《ふむ。どうやら家にはおらぬようだ》
「何処かわかる?」
《こちらだ》
「へぇ…」
 道を逸れて、少し山の方に行くみたい。修行なのかな。そんな軽い気持ちで山の方へと進路を変えて……歩きにくい。
 仕方ないから枝に飛び移って、枝から枝へと移動する。
 あれ? 結構山奥。
 本当に山奥。
 ドンドンと奥に進む事に不安を覚えて天華を見てみるけど、どうやらもっと奥みたい。
「スピードあげるよ」
 距離がありそうだと、私はチャクラを纏わせスピードをあげた。瞬身、といってもいいと思うんだけど、それだとちょっとスピードが遅いかな。
 まだまだだなぁ、なんて呟く私に、天華が突然肩から飛び立つ。おや?
《ラン》
「ん?」
 一回枝を蹴り、くるりと回って勢いを殺した後、蹴った枝へと着地する。気配を消しながら辺りを伺うと、気配を垂れ流した人間が一人二人三人四人…結構多いな。
「何だ?」
 幹に身体を隠すようにして様子を伺えば、忙しなく動く影。
「……」
 怪訝そうな表情を浮かべながらも更に様子を伺う。何かがおかしい。
《ラン。ナルトだ》
「は?」
 思わず間抜けな声を漏らしたけど、見えるのは大人だけ。
 けれど目を凝らしてみれば、ちらちらと金色が視界を掠めた。一瞬呆けたらしい。自分の中では在りえないと思っていただけに、状況把握に数秒要した。
 忍の世界を生きる予定の身としては、この数秒は命取り。だけど、それぐらい私の目には信じられない光景が飛び込んできている。
 忙しなく動く大人たち。見慣れない動きだなと思ったけど、その感想は当たり前。さっきから私よりも小さい子供を囲んで蹴る為に足を動かしているのだ。

「──ッ。何だあれ。何をやってるんだ、子供に!」
 あれがいい年した大人のする事かッ!?
 口々に、キツネが、とか。人殺し、とか。死ね、とか。とても子供に聞かせられる内容じゃない事を叫びながら、動かない子供に暴行を続ける。
「テン。変化だ」
《うむ。それと転写の術だろう?》
「うん」
 印を組み、暗部の忍姿になる。面は今の天華をイメージして鳥の面。
 準備を終えた私は、更に印を組み風を巻き起こした。

「なっ、なんだぁ?」
「このキツネがなにかしたんじゃ!?」
「化け物がっっ!!」
 明らかに別の場所から吹いた風なのに、何故か口々にナルトの所為だと叫ぶ男たち。
 一人の男が恐怖に顔を引き攣らせたまま、右足を持ち上げ勢いよく小さな身体を蹴り上げようとした。馬鹿じゃないだろうか。私がいるのに、そんな事させるわけがないだろうと遠慮なく針を投げつけた。
 脅しなんかじゃない。勿論、貫通させる為だ。
 男の足を貫通してもまだ余裕がある長針。
 突如身に起こった痛みに、男は足を押さえつけ転げまわる。
「ぅああああああああ」
「なんだ! 何が起こった!?」
 毒を塗ってないだけ有り難いと思えと思ってしまう思考回路には一時蓋をしながら、こういう集団をパニックに落とすのは容易いなぁ、なんて冷静に考える。
 けれど更に追い討ちをかけるように、転写の術を発動させた。デジカメの術バージョンって所かな。紙に景色を写しこむんだけど、今写したのは勿論暴行現場だ。
 それを空から放り投げ、なんて可愛い事はしない。紙にチャクラを練りこみ、男たちの顔に叩き付けた。
「ぶあっ」
「ぐっ」
 ただの紙。しかしチャクラを練りこめば立派な凶器だ。
 顔に叩き付けた時に頬や額を切ったみたいだけど、気にならない。この現場を見て、この程度の事で罪悪感は芽生えない。
 しかし、ここまできて漸く第三者の存在を思いついたのか、呻き声をあげながら辺りを見回す男たちに、私は感情を読ませない淡々とした音を降らせた。

「里の禁を破った愚か者」

「「ッ!!」」

 顔を押さえつけ、ナルトに対して暴行をしていた男を腕で払いのけ、鳥の面を見せる。
 これ見よがしに見せた暗部の鳥面だったけど、どうやらちゃんと誤解してくれたらしい。その証拠に、私の全身を捉えた途端に歪んだ顔を真っ青なものへと変えた。

「なっ。人殺しを庇うのか!?」
「コイツはキツネだろう!!」
 けれど、次の瞬間には震えながらも私に対していかにも自分たちが正しいと、そう主張しだす男たちに、面の奥でクク、と笑いを漏らす。
 目に冷たい色が宿るが、それも仕方ないだろう。久々に腹がたった。

「封印という役目を負っただけの赤子に罪があると、そういうか?
 ならば、お前の腹に封印してやろうか? それとも、お前の孫がいいか?」
 口調はあくまでも淡々と、怒りを押し秘めた。
「な…なにを言って…」
「自分たちが正しいと思うならば、火影様にも同じ事を言うんだな。これと、お前たちが何を言ったのか。今の事は全て報告させてもらった」
 男たちの顔色が今までにない程かわる。
 先ほど叩き付けた紙には男たちの暴行現場というこれ以上ない程の証拠。
 嘘だとは思わなかった男たちは、ヒィィと情けない声をあげながら、一目散に逃げ出す。足を長針で貫いた男も痛みを感じないのか逃げたんだけど…。
「針回収」
 チャクラの絃をつけといて良かった。
 針を抜く時に手に伝わった感触に顔を顰めながら、針を使用済みの場所へと移動する。家に帰ったら熱湯消毒をしよう。思いの他人を傷つけたのに罪悪感がないなぁ、と思ったんだけど、やはりこの現場を見たら仕方ない。
 変化の術をといて、私は蹲ってるナルトに駆け寄った。治療道具を持ち歩いてて良かった。竹筒に入ってた水でてぬぐいを濡らし、ナルトの顔を拭こうと腕を伸ばしたけど、瞬間背筋に寒気を感じてその場から距離を取ってしまう。

 何だ?
 今の寒気は。
 首を傾げながらナルトを見る。
 まさか…。
 まさか……?

《ラン。油断するな。こやつは…》