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雪割草

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〈03〉代役決定!



又兵衛は、西山荘に光圀を訪ねた。
少しばかり世間話をした。
 
「…源四郎が怪我をしたとのこと、お聞き及びと存じますが」

「急な事故で驚いたが、命には別状ないそうで良かった。
しかしのう…供の者が一人たりない。弥七とお銀が居るとはいえ、やはり助三郎一人では不安じゃ…」

 本当に不安そうな光圀を安心させるべく、又兵衛は話を切りだした。
 
「御老公、早速代わりを見つけましてございます」

「ほう。お前さんにしては用意が良いの」

 その言葉に又兵衛は恥じ入ったが、少しばかり口答えした。

「…御老公も意地が悪い」

 光圀はその言葉通り、にんまりと笑った。

「本当のことを言ったまで。して、代わりは誰じゃ?」

 興味津々の光圀に、又兵衛は手をついて神妙に言った。

「…実は、その者について御老公にお願い致したき議がございます」

「なんじゃ? 申せ」

 一呼吸置いた後、彼は重大な事実を告げた。

「…実はその者、それがしが娘、早苗でございます」

 一瞬、はて? という顔をした光圀だったが、すぐに又兵衛に問うた。

「助三郎とは許嫁だったのう。…しかし女子の身では危険じゃろう?」

「そうおっしゃるのはごもっとも。…それ故、策がございます」

「…どんな策じゃ?」

 光圀に又兵衛は詳しく説明した。
長生きで博識な光圀にでも到底信じがたい話しが続いたが、さすがの黄門さまは信じた。
 そして上機嫌で言った。
 
「分かった。ここに連れて来なさい。一度話しがしておきたいからのう。その『男』と」

「では、御同行をお許しくださいますか?」

「許す。…女子が居った方が楽しいしのう」

 こそっと怪しい独り言を光圀は言った。
運良く、又兵衛には聞かれなかった。

「はい? なにか?」

「いや、なんでもない。こっちの事じゃ」

 人事問題が解決した又兵衛は光圀に頭を下げた。

「ありがとうございます。出発前日に連れて参りますので、よろしくお願い致します」


 と、そのとき、馬蹄の音が近づき、男が入ってきた。

「御老公!」

「助三郎か。 良いところに来たの」

「何を呑気に言ってらっしゃるのですか!? 源四郎殿の代わりを探さねばならないのですよ!?」

 助三郎は馬を飛ばしたらしく、息が弾んでいた。

「そう慌てるでない、もう見つかった」

「…はい?」

「この又兵衛の親戚の者だそうだ」

「これは橋野様、失礼致しました!」

 義父の姿を見て、彼は慌てて挨拶をした。

「いやいや。もう心配はいらん。お前は自分の支度をすることだな」

「はい…あの、早苗殿は今如何でしょう?」

 助三郎は気になっていたことを義父に問うた。

「と、言うと?」

「少し彼女にきつく当たってしまいまして…」

 心配そうに言う助三郎に、又兵衛は適当に返した。

「…少し拗ねておったが、まぁ、どうってことはない。気にするな」

「では、明日、御伺いしてもよろしいですか?」

 又兵衛はすぐさま断わった。
明日、早苗は居ない。
 急いで断わった
 
「いかん!」

 男に変わった娘に会わせるわけにはいかなかった。
素性を隠すことを娘と約束したばかりだった。

「え?」

 驚いた表情を浮かべる助三郎に、又兵衛は取り繕った。

「…いいや。その、ちょっとな。あれの心配はせんでよい。
それより、心して御老公のお供をするのだぞ。よいな?」

「はっ。心得ました」



 西山荘を出て、馬の背に跨った助三郎は少し胸の閊えがおりた心地がしていた。
しかし、早苗の事は今だ気掛かりだった。
 
「義父上にはああ言われたが、やっぱり会いに行こう」 

 そう心に決めた。
しかし、その道中違うことが頭をよぎった。
 
「…そういえば、義父上の親戚って言ってたな。どんな人だろう?」

 又兵衛の親戚ということは、早苗の親戚にもあたる筈である。
仲良くしなければという思いが起こった。
 その一方で小さな期待もした。

「…歳が近いと良いな」

 そんなことを考えながら助三郎は家へと帰って行った。



 その晩、早苗が寝所に下がった後、橋野家では父の又兵衛を中心に母のふく、兄の平太郎が集められた。
 そこで、一家の主が口を開いた。

「…明日から、しばらく早苗はいなくなる」

 不意の話に、ふくは驚いた様子だった。

「…どういうことですか?」

 兄の平太郎も同様だった。

「早苗を使いにでも遣るのですか?」

 二人に、又兵衛はこう話した。

「早苗は、この家に居る。だが、実際は居ない。代わりに、息子が一人増える。そういうことだ」

 後ろの言葉に、ふくが食いついた。

「息子とは一体どういう事ですか!? 貴方、まさか浮気を!?」

 とんでもない方面に話が逸れそうになった事に気付いた又兵衛は焦った。

「どうしてそうなる!? わしは浮気なんかせん! わしが言いたいのはな、早苗を男に変えるということだ!」

 ふくの誤解は解けたようだが、他のことで怒り始めた。

「なぜ男に変えるのです!? わたしは、娘が欲しくてあの子を産んだのですよ!
今さら男になんてとんでもない!」
 
 すごい剣幕にびくびくしながら、又兵衛は説明をし始めた。

「だから、あれを男にして、御老公の供を…」

「まさか、行かせるおつもりですか!? 嫁入り前の娘を!?」

「だから、息子に…」

 話を聞こうとしない妻に、圧され気味になった又兵衛だったが、腹にぐっと力を込めた。

「一体貴方はなにを…」

 入れた力で、又兵衛は怒鳴り返した。
 
「藩のためだ! わしの言うことに従ってもらう! 口出しはするな!」

 珍しく声を荒げた夫にふくは驚いた。
息子の平太郎も同様だった。
 二人して黙りこくってしまったのを幸いに、説明を続けた。

「…心配するな。男に変えると言っても、本当の男になるわけではない。
…見た所は完全に男になるがな」

 最後まで威厳を保てず、又兵衛はニヤリとした。
その不真面目な夫を見たふくは再び機嫌を損ねた。

「…本当でしょうね? 本当の男なんかになってしまったら、実家に帰りますからね!」

 そう吐き捨て、彼女は寝所に籠ってしまった。
その様子を見た平太郎は父に言った。

「どうするのです? 母上、相当怒ってますよ」

「何とかする。まぁ、ちょっと奥の手を使えば大丈夫だ」

 ボソッと言った言葉に平太郎は引っ掛かった。

「そうですか。…なんだ? 一体、奥の手って?」

 しかし、又兵衛は答えなかった。

「…気にするな。とにかく、明日から頼む。弟に男の基本を教えてやらないといかんからな」

「はい」






 早苗はその頃、寝室で一人、秘薬を前に覚悟を決めていた。

 壺から取り出した秘薬は何の変哲もない形と色。
梅干しと言われても疑いようのない特徴を持っていた。
 そんな物体を見て、不安が再びあたまを過ぎった。
 詳しい説明を父親から聞いてはいたが、不信感を拭い去ることは出来なかった。

 現時点でわかっている秘薬の効能は三つだった。

 ・身につけている物は勝手に変わるということ。
作品名:雪割草 作家名:喜世