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雪割草

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 ・仮の男から本来の女へ自由に行き来できるということ
 ・姿は全く男になるが、機能は無いということ。

 早苗は、最後の意味が理解が出来なかったが…。

「早く飲まないと…。もう後戻りはできないんだから…」

 早苗は部屋の明かりを取っていた行燈の火を吹き消し、秘薬をついに手に取った。
そして、これからの仕事に思いを馳せ、最後に助三郎の顔を思い浮かべた。

「…わたしは貴方に付いて行きます。もう、止めても無駄です」

 早苗は秘薬一息に飲み込んだ。
それは甘いような苦いような味だった。





 …早苗は夢を見た。
 夢の中の彼女はまだ幼かった。

 助三郎と他の友達数人で遊びに行った帰り道、彼女は転んで膝を怪我した。
 足を庇ってゆっくり歩いていたが、仲間との距離は徐々に開き、とうとう一人になってしまった。
 日も暮れ、お腹もすいた早苗は心細くなり、涙が出てきた。
 いつしかその涙は、大粒になり、最後は声をあげて泣いていた。
  
 そこへ、一人が戻って来て手を差し伸べた。

「泣かないで…」

 涙を拭い、その眼に映ったのはまだ前髪の幼い助三郎だった。
 早苗は差し出されたその手をギュッと握った。

 助三郎は早苗を立たせ、一言聞いた。

「歩ける?」

 その言葉に、早苗は首を振った。

「ううん…」

「じゃあ、こうするしかないか…」
 
 彼は彼女を背負った。
そして、ヨロヨロしながらだったが、一生懸命、家まで連れて帰った。
 助三郎の背中は、温かかった。

 道端には花がたくさん咲いていた。
 乾ききっていない涙で滲んだ早苗の眼に、ぼんやりとだが、その花々が入ってきた。
 そして彼女はポツリとつぶやいた。

「きれい…」

 助三郎はその言葉に歩みを止め、早苗を背からいったん下ろし、草の上に座らせた。
そして、咲き誇る花の中から白い花を一輪手折り、早苗に差し出した。

「あげる」

「いいの?」

「うん。あ、そうだ、こっちのほうが良いね」

 そう言うと彼は、手折った花を早苗の髪に差した。
嬉しくなった早苗は、小さく彼に礼を述べた。

「…ありがと」

作品名:雪割草 作家名:喜世