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ゆらのと

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山をくだりきり、銀時の背中の向こうに戦場が見えてきた。

息を呑んだ。

なんだ、これは。

現実だと思えなかった。
現実だと思いたくなかった。

仲間が倒れていた。
ある者は首から上を失い、ある者は腹に穴が空いた状態で、また、ある者は別の者の身体の上に覆いかぶさり、倒れていた。
こんなにたくさんいるのに、立っている者はいない。
動く者はいない。
どんな声も聞こえない。

皆、死んでいる。

空は薄い雲が少し浮かんでいる以外は一面青い。
木々の葉は落ちるまえに生命を燃やしつくすかのように赤や黄に色づいている。

美しい世界。
しかし、大地には仲間の亡骸がいくつも横たわっている。

「桂」
声が消えた。
「立て」
そう銀時に言われて、自分が地面に崩れ落ちるように座りこんでいることに気づく。
たが、立ちあがらなかった。
立ちあがる気力がなかった。
「立て」
また銀時が言った。
さっきより強い調子で。
うつむいていた顔をあげ、銀時のほうを見る。
銀時の横顔が見えた。
その頬を流れ落ちるものがある。
眼を見張った。
涙だ。
銀時が泣いている。

胸を衝かれた。

立ちあがる。
そんな気力はないと思っていたのに、身体が動いていた。
距離を詰め、銀時の頬に触れる。
その涙に触れる。
銀時がこちらを向いた。
眼が合った。
次の瞬間、その腕に捕らえられた。
筋肉質の堅く太い腕。
あらがうこともできないまま、引き寄せられる。
抱きしめられた。
強く。
荒々しく、苦しいほど、強く、抱きしめられる。
密着している胸に、その激情が伝わってくる。声にならない叫びが響いてくる。
ああ、と思う。
ぶつけられる激しい想いに、胸を揺さぶられ、心が震える。
息が詰まりそうなぐらい強く抱きしめられる。
求められているのを感じる。
切実に、ほんの少しも余裕のない様子で、子供のように感情をむき出しにして、求めてくる。
その背中に手をやった。
多くのものを背負い、護ってきた背中だ。
多くのものを護れずに失った今、どんなに悲しいだろうか。
その広くたくましい背中を抱く。
その激情を、叫びを、受け止めるように、いとしいものを抱くように、抱いた。




自分が与えられるすべてのものを与えたい。
あのとき、たしかにそう思った。












作品名:ゆらのと 作家名:hujio