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【C83サンプル】エチュードを一緒に

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あれは先週の土曜日のことだ。仁美はほむらから相談に乗ってほしいと呼び出された。いつもは四人で行くショッピングモールの喫茶店。その中に入った仁美は店の奥で手を振るほむらを見つけるとすぐにその向かいに座った。
「予定よりも早くききたつもりでしたが、もうお見えになっていたのですね」
「お願い事でわざわざきてもらうのに自分が遅れるわけには行きませんから……と言いつつ本当は時間を間違えて一時間早くついちゃったんですけどね」
悪戯な笑みを浮かべる。仁美は改めて彼女はかわいらしい娘だなと思った。ウェイターに合図してロイヤルミルクティーを注文し、一通り雑談をした後、頃合いを見て仁美の方が切り出した。彼女は少しまじめな表情で聞いた。
「二人きりでなんて。ほむらさん、今日はどうしたんですか?」
ほむらは少し緊張した表情でそれでも一生懸命笑顔を作りながら本題に入った。
「あの。この間、仁美さんは『何でも相談に乗ってくださいね』って言ってくれましたよね」
「ええ。今日は何か相談事ですの?」
母親のように穏やかな笑顔を向ける仁美に向かってほむらはこくっとうなずくと続けた。
「あの。……恋の相談を……」
すこし口ごもってそう言うとうつむく。なんだか意外だなと仁美は思った。もう長い間友達のような気分でいるけれど、そもそも彼女はこの間転校してきたばかりなのだ。もう誰かいい人を見つけて一目惚れでもしたのだろうか。
確かにわたくしはほぼ毎日と言うほど、それこそうんざりするくらいの数のラブレターをもらっていたから、彼女は恋の相談相手に選んだのだろう。でも実際のわたくしは……。
「恋の相談?」
「……はい。でも私のではないんです」
自分の相談ではない?どう言うことだろう?
「あの……さやかちゃんは上条君を好きなんですよね?」
何の悪気もないストレートな質問。しかしその言葉を聞いた仁美は目の前が真っ暗になった。それは自覚しているが故に目を背けていた事実。さやかさんは彼の幼なじみでもあるし本人はそれを言い訳にしているけれど、彼女自身の性格からしてそう言うことを隠し通せるものではなく。
そうなのだ。そんなにつきあいが長くないほむらさんにだってそれがわかってしまうぐらい彼女の気持ちはあふれだしているのだ。だが「友達が彼女の幼なじみのことを好きだ」からといってわたくし自身がショックを受けるのは理屈に合わないことだときっと思われるだろう。ただ一点の可能性――仁美自身が上条君を好きな場合をのぞいて……。
仁美は上条君が好きだ。だがそれは心の奥底にしまっている事柄だった。いままでいろいろな男子から、それこそいいなって思うような男子からも告白されていたけれど、それを全部断っていたのは、中学生に恋愛はまだ早いって思っていたわけでも学校の規則が――などと思っていたわけでは決してない。理由はただ一つ。心に決めた人、上条恭介君が仁美の心の中にもうすでにいたからだ。
でも、それはまだ心の奥底にしまっておかなければならない。でもなぜしまっておかなければならないの?いつかチャンスが巡ってきたとき、何かうまい具合に行動が起こせるようにするため?それを最大限に利用できるように切り札としてとっておきたいから?いえ違う。友達の好きな人を横から奪うようなマネしたくないからだ。ただそれだけだ。
だからそのことはまだ誰にも知らせてはいなかった。仁美が「上条君を好き」という事実を知っているのは世界中で仁美自身だけなのだ。
内心そんなことを考えてたのに、仁美は表情を変えなかった。もう身に染み着いたついた習慣。物事を自分の都合のよいように動かす為にきちんと根回しがすむまで、ことを悟られない技術。それが仁美の表面に見る姿を支えていた。

「私、さやかさんにはいろいろお世話になったし、彼女のことが……なんて言うか大好きで。だから絶対に幸せになってほしいんです」

知らないことは最大の武器なのだなと仁美は思った。ほむらは当然ながら仁美もまた上条君を好きなのだとは知らないはずだ。だから彼女は「大切な友達を思う仲間に純粋に相談している」にすぎないのだ。その言葉が鋭く仁美を突き刺そうとも、そこに的があると明かしていないのだから、仁美は自分自身以外は責められなかった。
彼女は。ほむらは次に「さやかと上条がうまく行くように手伝ってほしい」と言うだろう。ただ自分の仲間と作戦を練りたいと主張するだろう。

わたくしは。仁美はどう受け答えるべきだろうか。

もし仮に「わたくしも上条君が好きだから協力できません」と言ったところで状況が好転するだろうか?ほむらなら「そうなんだ。気がつかなくてごめんね。こんなお願いしちゃってごめんね」というだろうか。そして「そう言うことなら私、仁美さんも応援します」と言うだろうか。もしかしたら彼女はそう言うかもしれない。がんばって社交的に振る舞ってはいるけれど、長い間病室という籠の中で純粋培養されていた打算のない心の動きは、ある意味予想がつきすぎて怖い。彼女はそんな事態になったとしても驚きはすれども、ちゃんとわたくしも暖かく応援してくれるはずだ。けれども彼女がそう振る舞うことで事実はいっぺんに白日にさらされる。本当に友情を感じていて、だからこそ下手に関係を壊せなくて、今まで悩みに悩んでゆっくりと事態を変えようとわたくしは努力している。でもその話が広まった瞬間、クラスのみんなは「仁美はただ好きな人を奪うためにさやかに接近していた嫌な女」だと思うに違いない。それが仁美仁美には耐えられなかった。わたくしはそんな下世話な人間だと思われたくない。もやもやした心を抱えながら現にこれだけ悩みながら努力しているのに、それが一瞬にして水泡に帰すなんてあんまりだ。

結局今突きつけられているこの事実に今の状態でできることはまさに一つしかなかった。
『ほむらと一緒にさやかの親友として彼女の恋の成就に奔走すること』
たとえそれが自分の本心に逆らうことであっても今のこの関係を崩すにはあまりにも準備ができていない。

「ほむらさんは優しいですわね」

葛藤を見せないように笑顔で答える。相手がほむらでよかったのかもしれない。彼女になら自然な笑顔を見せられる。

「優しいなんて……そんな。私は自分によくしてくれた人にちゃんとお礼がしたいから」
はにかんで視線を落として答えた。そしてさっと顔を上げてた。満面の笑みの中にある種の決意を秘めた声だった。
「私はせっかく仲良くなったこの四人とずっと一緒にいたいから」
その言葉が仁美の心に突き刺さった。一瞬言葉に詰まる。
「……わかりました。わたくしもさやかさんとは中学に入ってからのおつきあいですから、知っていることもあまりないかもしれませんが……。それでもほむらさんと一緒にがんばりましょう。さやかさんが幸せになれるように」
ほむらは今までの緊張した雰囲気を引っ込めて聖母のような優しい笑顔を見せた。そして一筋涙を流した。
「ありがとう。仁美さんありがとう」
見つめる仁美は笑顔の下に未だ葛藤を隠していた。本当にこれでよかったのだろうか。いやこれでよかったはずだ。
今はこの四人の素敵な関係を護るように行動してもいいと思うことにした。