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「間に合うかな、あかねちゃん」
 自転車を引いて歩きながら私、黄瀬やよいはつぶやいた。
「大丈夫、きっと間に合うよ」
 私の隣で歩いているみゆきちゃんが笑顔で答えた。
「……うん、そうだよね」
 みゆきちゃんがそう言うなら、きっとそうだと思う。
 空港へ向かうあかねちゃんを見送ってから私たちがした会話はそれきりだった。
 夕焼けに染まる帰り道を二人で歩く。
 なんとなく無言で、ただただ歩く。
 ……別に会話のタネがないとか、ましてや仲が良くないから会話が出来ないとか、そういうことじゃないよ? ホントだよ?
 ただ、ねえ……あんな真剣なあかねちゃんを見た後だと、ねえ?
 さっきのあかねちゃんはすごかった。すごすぎた。言葉を失ってしまうくらいには。
 恋をするとあんなに瞳が輝くんだね。知らなかったよ。
「……すごかったね、あかねちゃん」
「はひぇ!?」
「な、なに? どうしたの、やよいちゃん?」
「ううん、な、なんでもないの」
 まるで心を読まれたみたいに、私が思っていたことをみゆきちゃんが言ったからびっくりしちゃった。
「そ、そうなの?」
「うん、そうだよ! なんでもないよ!」
「ならいいけど……」
 それきり、また二人で帰り道を黙々と歩く。ゆっくりと歩く。
 ああ、心臓がドキドキしてるよ……これはびっくりしたせいなのかな、それとも――
「やよいちゃんはさ……」
「うん?」
「……好きな人、いる?」
「ええっ! わ、私!?」
 き、急にそんなこと言われても、その、あの、困る。
「……み、みゆきちゃんこそ、好きな人いるの?」
「わ、私? 私は……ピーターパンが好きだから!」
「ホントに?」
「……ホ、ホントダヨ?」
 みゆきちゃん、目が泳いでる。すっごく泳いでる。
「いるんだね、好きな人」
「……う、うん」
 みゆきちゃんの好きな人、いったい誰なんだろう? 気になる!
「や、やよいちゃんはどうなの!? 私にだけ言わせてずるいよ!」
「ぅえっ?! わ、私は、その……あの……」
「早く、早く!」
「イナイヨ、スキナヒトナンテ」
「いるんだね、好きな人」
「……はい」
 なぜバレたし。みゆきちゃんエスパー?
「ねえねえ、誰なの? 教えてよ!」
「み、みゆきちゃんが教えてくれたら教えてあげるよ!」
「じゃあ私はやよいちゃんが教えてくれたら教えてあげる!」
「ああっ、ずるい!」
「ずるくなんてありませーん!」
「んもう!」
 みゆきちゃんったら……でも憎めないなあ。
 それにしても、気になる。みゆきちゃんの好きな人……いったい誰なんだろう? 教えてほしいような、でも知りたくないような。
 もやもやとしている私の隣で、そうだ、とみゆきちゃんが手を叩いた。
「二人で一緒に、せーので言おうよ!」
「ええっ!?」
「それなら公平でしょ? ね、どう?」
「ええー……」
 確かに公平かもしれないけど……でも、うーん……。
 チラリと隣を見ると、みゆきちゃんが笑顔でこちらを見つめていた。
 うう、仕方ないなあ。
「……じゃあ、かけ声はみゆきちゃんが言ってね」
「うん、わかった。それじゃ、いくよ……」

「せーの!」
作品名:友達以上 作家名:ヘコヘコ