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キ○レツ大百科に関するとある考察

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「キテレツのオープニングあるでしょ?」
 俺の家のリビングで、ふてぶでしくソファに寝転ぶこの少女はいきなりそんなことを呟いた。
「コロッケ作るヤツ? それとも睡眠不足?」
 俺は目を落としている漫画雑誌から顔をあげることもなく、そんな風に聞き返す。
「いやごめん、睡眠不足知らない。コロッケの方ね」
「知らないの?」
 俺は実に三十分ぶりに雑誌から外した視線で、そのまま彼女を睨みつける。
「……知らないの?」
「いや、知らないものは知らないよ……。やめてよ……」
「まあ、今回は不問にしといてやるけど……。で? それがどうしたっていうんだ?」 
「そんなに重罪なの……? ま、まあいいけど。それで私がいいたいのはさ、あのコロッケの歌って深いんだよっていう話」
 よっこいしょと、親父臭くそう漏らしながらその女はむくりと起き上がる。コイツは俺と同級生でありながら、どこか達観しているというか……いや。行き過ぎて時折オッサン臭ささえも垣間見えてしまうような、非常に悪い方向にませたクソガキだ。
「深いの?」
「それはもう」
「まさか、あの歌詞の通りにやればガチなコロッケが作れる、とでも言いたいのか?」
 対して、別段目立ったキャラを秘めている訳でもない俺はと言えば、既に再び、燃える少年漫画の世界に視線をシフトさせていたのだった。
「ふん、馬鹿な! アバウトすぎて無理ね。大体、分量とか明記されてないじゃない。ガサツな奥様が下手にあの通りに作ろう物ならとんでもないモンスターを生み出しかねないわ……」
 芝居がかった口調で嘲るように言うと、彼女は首を振った。達観しているというより、変なキャラを意識してるだけかもしれない。
「じゃあ、何が深いのさ」
「恋よ」
「は?」
 俺は度々ながら顔を上げざるを得なかった。
 ぱたん。そのまま観念して雑誌を畳んで傍らに置くと、もう一度繰り返す。
「はあ?」
「だ、だから二回言うなよぉ……。い、いやあの歌ってさ、甘酸っぱい恋を示唆してると思わない?」
「いや、思わないよ。モロに『コロッケを作ってるだけの人の歌』じゃん。それ以上でも以下でもないだろ」
 またコイツの行き当たりばったりな謎トークが始まった……。この女は沈黙が支配する空間と言う物が耐えられないのだろうか? つき合わされるこっちはいい迷惑だ……。
「笑わせてくれるわ。この世に意味の無い詩なんて一つも存在しないのよ。例のコロッケの歌だってそう。何かしらのメッセージが込められていると考える方が自然じゃなくて?」
「ちなみに、正式には『お料理行進曲』ね」
「そ、そう……」
「二度とコロッケの歌とかいうな」
「ごめんなさい……」
 何やら自慢げにほざいていやがったが、ちょっと話の腰を折ってやると彼女はしゅんと顔を俯かせるのだった。
「まあいちいち突っかかるのもなんだから、今回は大目に見るけど……。じゃあ、詳しい解説を願おうか」
 俺は足をあぐらに組みなおすと、彼女に向き直った。
「なんかキテレツの話題に厳しくない……? まあ、別にいいけど……。とりあえず、最初の歌詞ね」
「『いざ進めやキッチン。目指すはじゃがいも』か」
「そう、それそれ。まず『いざ、進めや!!』と勇ましくキッチンに向かうでしょ? つまり、恋を始めるにはそのステージに立たないことにはお話にならないぞ、ってことなのよ」
 いや、そんな『いざ、進めや!!』なんて戦地に向かう指揮官みたいなニュアンスじゃないと思うが……。若干気分消沈気味のご様子なので、まあとりあえずは言わせたいように言わせておこう……。
「で? 『目指すはじゃがいも』っていうのは?」
「考えて分からない?」
 ふむ。
 俺は少しだけ考えている素振りを見せてやってみたり。
「う~ん……。まあ、じゃがいもを好きな人に見立ててるとか?」
「アンタ好きな人をじゃがいもに見立てるのはあんまりでしょ」
「というと?」
「じゃがいもは布石よ」
 ぴくり。俺は自身の眉が微かに動いたのを感じた。
「…………まさか!」
「そう、意中の女子を落すための予行演習よ。つまり、その辺のブスを引っ掛けろということね。そもそも、何のスキルもないポッと出の小童が、キッチンと言う名のステージ上で、いきなりカワイコちゃんを落せる訳ないでしょうが」
「じゃがいも=ブス!? 非情だな!! しかもその後、『茹でたら皮を剥いてグニグニと潰せ』だぞ!?」
「一通り事が済んだらゴミのように捨てろと言う事でしょうよ」
「最低だな!!!!」
「そしてここからが本題。『さあ勇気を出し、みじん切りだ包丁』……。つまり、タマネギを意中の女子と見立てていよいよビターな本気ラブが展開していくのよ」
 気分が乗ってきたのか、妙にシリアスなトーンと面持ちで野菜について語り始める少女。
「タマネギが意中の女子……? じゃがいもとそんなに変わらないと思うけどな」
「バッカ……大違いでしょ!! あんなイモい連中と一緒にするな!!」
「イモいっていうか、まさしく芋だから」
 わかっちゃいない。とでも言いたいかのように、この女はぶんぶんと大げさに首を振った。
「『タマネギ目にしみても、涙こらえて』よ!? 極上の女と接していくってのは、そりゃ何度と無く泣きを見る羽目になる! 素直にゃみじん切りさせてくれやしないのよ!! つまり、そのくらいの覚悟で挑めと言う警告なのよ! 『タマネギ』!! こんなに的確な『女』の形容があって!?」
「な、なんかちょっと説得力があるのが怖い……」
 少し息を荒げながら、そこまで言って彼女は乱れた髪を軽く整える。何を熱くなっているんだこの女……。
 だが……その熱にあてられたか? 若干続きが気になっている自分もいるような、いないような……。
「しかし、次はどうだ? 『炒めよう、ミンチ。塩コショウで』と来たぞ」
「関係ないけど、アンタもしかしてキテレツ詳しくない?」
「関係ない話をするな!!」
「ご、ごめんってば!! ……なんで時々怖いの……」
「さあ、次はどう来る?」
 腕を組む俺の顔を伺うようにしながら、それでも虚勢を張って彼女は続けるのだった。
「か、簡単な話よ。ミンチは『自分』なのよ」
 ふむふむ。炒められ、塩コショウを振りかけられるのは自分……。ん?
「自分だって? ちょっと待てよ。タマネギはどこ行った? 今更自分に塩コショウ振りかけて、男磨きってか? もう恋は成就したんじゃないのか?」
「うふふ……青年よ。なかなかこの世界観に慣れてきたようだが、その考察は違うねえ。冷静になって考えてみなさい? 実際にコロッケを作るとして、ね」
「実際に作るとして?」
 気づけば、少し身を乗り出して俺はこいつの気取った声に耳を傾けていた。
「さっきはアンタはタマネギはどこへ行ったと言ったね? ほら、その時点で違和感があるでしょうに」
「……はっ! そ、そうだ! ミンチを炒めるだけじゃダメじゃないか! 本来コロッケを作ろうというなら、ミンチとタマネギを混ぜて、それを炒めるはずだ!」
 そうだ! 『コロッケを作る歌』が、その行程を間違えるなんてありえない!! とすれば、だ……! 歌詞が『炒めよう、ミンチとタマネギ』になっていないその理由とは……!!