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Aに救いの手を_サイレント・キーパー(仮面ライダーW)

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暴走の船出




「爆せた」という表現は正確ではない。
具体的には、爆発的な速度で、宮部の体が膨張したのだ。
ダブルはその爆発の一瞬手前で、真倉を引っ張りその場を離脱した。
宮部の体はどんどん膨れ上がり、ついには。
「・・・・・・なん、だ、あれは・・・・・・?」

そこにあったのは一隻の帆船だった。

宮部総一の体は肥大し続け、全長50m近くの巨大な船に姿を変えたのだ。
「え? え?? えーーーー!??」
驚きの声を上げる真倉。
「・・・どう、なって、んだ・・・?」
あまりの出来事に翔太郎の思考は追いつかない。
「・・・・・・ふむ。おそらくこれはガイアメモリの暴走現象だね」
ただひとり、この状況を冷静に分析したフィリップは帆船を見ながら呟く。
「・・・・・・メモリの、暴走だと?」
翔太郎がやっとの思いで口を開く。
「ふむ。君だって何度も体験しているハズだ」
フィリップは自分の推論を話し続ける。
「これはいわゆるガイアメモリの暴走。メモリが使用者の意志から離れて単独で能力を肥大化・無制御化してしまった現象だ。宮部はアークメモリの力に意識を飲まれ、その能力を暴走させてしまった」
「いや待て! で、でもよ、さっきのは宮部の意志には無関係にメモリが挿入されていったぞ!?」
翔太郎はフィリップの推論に疑問を抱く。
「まして、ガイアメモリが勝手に動き出して、勝手にひとに挿入されるなんて現象、俺は今までにみたことはねーし、そんな話を聞いたことだって、」
「リジェクトメモリ」
フィリップは翔太郎の疑問をさえぎる。
「今回の事件で使用されたガイアメモリのほとんどは、どれもなんらかの理由で使用不適格の烙印を捺されたガイアメモリ、リジェクトメモリだ。宮部の使用していたアークメモリものそのひとつ。・・・・・・もしも今起きている現象、これこそがアークメモリが拒絶(リジェクト)された理由だったとしたら?」
そう言ってフィリップは今も宙に浮かぶ巨大な帆船を指差した。
「・・・・・・」
翔太郎は黙ってフィリップの推理について考えた。
確かに、納得できる理由かもしれない。
さっきアークドーパントと戦ったとき、今まで戦ってきた他のドーパントよりも「まとも」な戦法で闘ってきたように感じたからだ。
プレスドーパントのように制限の強い能力でもなく、
ライトニングドーパントのように使用負荷が大きいわけでもなく、
ヴァイパードーパントのように極端な狂化もしない。
他の敵と比べて能力の副作用や対価がなかったのだ。
闘いの最中に進化するというイレギュラーもあったが、あれはあくまでアークメモリの能力の応用であり、暴走ではなかった。
それこそ、アークドーパントは過去に翔太郎たちが闘ってきたノーマルなドーパントと同じ性質を持っていると言えた。
「言ってしまえば、アークメモリは自分の意志を持ったメモリなんだ」
フィリップは推論を続ける。
「しかしそれは、武器として使用するにはあまりにも大きなデメリットになる。使用者の言うことを聞かないガイアメモリなんて、いくら流通しているのが人間性の狂っている裏の社会だったとしても、危険すぎてとても需要が見込めるとは思えない。能力の規模、力ともに高い水準を誇っているアークメモリが不適格のレッテルを貼られた要因はこれにあったんだ」
「・・・・・・」
翔太郎は、自分たちの近くにそびえる帆船を見上げる。
プシューっ!!
不意に帆船から空気の抜けるような音が聞こえる。
すると、その帆船は(どういう動力かは不明だが)いきなり宙に浮かび上がった。そして、
「・・・・・・っ!? あれは!!」
その帆船の至るところについている、排気口のような巨大な突起から銀色の煙がもくもくと上がるのがみえた。
さきほどの進化の煙。
帆船は人型のアークドーパント時の比ではないほどの大きさの排気ダクトから、銀色の煙を大量に排出していた。
「が!? うぐぅぅぅ!!」
突然真倉が苦しみ出した。
みると、治りかけていた真倉の右腕のドーパント化が、再び侵食し始めていた。
「マッキー!」
「いけない、暴走したことによってドーパント化の侵食速度が格段に上がっている!」
若干焦り声を上げながら、フィリップは状況を分析する。
「このままでは風都全域を覆うのにあと数分とかからないぞ!!」
「・・・・・・」
翔太郎は周りを見渡す。
街では再びドーパントし始めている人間が苦しそうにしていた。
「・・・・・・・うぐっ! ぐあぁ・・・・・・っ!!」
自分の横には、今も半分意識を失いながらも、侵食に歯を食い縛って耐えている真倉がいた。
プシューっ!!
そして頭上には元の姿など微塵もなくなってしまった、一人の男がいた。
「・・・・・・ふざけやがって」
翔太郎は聞こえるかどうか声で呟く。
「翔太郎?」
「・・・・・・フィリップ、助けるぞ」
翔太郎は上を向き、巨大な船を睨みつける。
「あんなメモリに、あんなメモリのために! これ以上、この街で悲しい涙を流させるわけにはいかねぇ!」
そして船を睨みつけながら吠える
「真倉を、宮部を、街の人々を! みんなを助けるんだ!!」
だから、と言葉を区切り翔太郎は、

「―――半分力を貸せよ、相棒」

この世で最も信頼できる男に手を伸ばした。
「・・・・・・ふ。今さら愚問だね」
そんな翔太郎にフィリップは小さく微笑む。
「君がそう問えば僕は何度でもこう答えよう。君が望むのならば、力はいつだって貸してやるさ。なんたって、」
フィリップは言葉を切り、

「―――僕たちは、二人で一人の探偵だからね!」

街が涙を流したときに、必ず吹く一陣の風。
この街を訪れた歪んだ狂気がその風によって、今まさに洗い流されようとしている。