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【Free!】昔の決意~遙×凛~

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誰もいないプールに、誰かが泳ぐ音だけが響く。

「はっ……はっ……」
一通り泳ぎ終えて満足したのか、青年はプールから上がる。



「……くそっ」
負けた。あいつとの勝負には勝ったはずなのに、全く嬉しくない。
『良かったな』
澄まし顔でそう言ったあいつの顔が頭から全く離れない。
良かったな……だと? 俺の気も知らないでよくも……

「ちくしょ……!」
思わず右の拳を地面に叩きつける。鈍い痛み。
左手で頭を抱えた。俺の隣で月の光を反射してきらきらと輝いている水すらも憎らしい。

「……凛」
入口から、声が聞こえた。
「おま……帰ったんじゃ……」
「また、来た」
遥は俺の目の前までやってくると、俺と目線を合わせるようにしゃがみこんだ。

「何の用だよ」
俺の問いには答えず、遥はほんの少し微笑んだ。そんな変化に分かってしまう自分に対するいら立ちと、他の何かで胸が締め付けられるように痛い。

「ずっと……会いたかった」
遥はそう言うと、自分が羽織っているパーカーが濡れるのも気にせず、ふわりと優しく俺を抱きしめた。
「会いたかっただと……!? ふざけんな!」
振りほどこうとするが、予想以上に強い力に、ただ手を宙に彷徨わすことしかできない。
「ふざけてなんかない。ずっと、ずっと会いたかった」
俺の肩に顔を埋めるようにすると、遥はか細い声で言葉を続けた。
「あの日、ずっと後悔してた。だから会いたかった。ずっとずっと待ってた」
「……なんだよ! なんでそんな事言うんだよ!?」
イライラする。遥の声も、抱きしめてくる腕も、伝わってくる体温も。何もかもが俺の心をぐちゃぐちゃにする。

「やめろよ! 離せよ!! 俺の気も知らないで! 俺が……日本を離れてまた戻ってくるまで、どんな気持ちでいたかも知らないくせに!!」
訳も分からず言葉を吐き出す。傷つけるように、もう二度と近づいてこないように。
「勝手な事ばっかいうな!! 俺が……俺が今までどれだけ……」
「凛……泣いてるのか……?」
いつの間にか遥は俺から体を離して、俺の顔を覗き込んでいた。

「は……?」
遥に指摘されてから気付く。確かに、頬を伝う水がある。
「な、泣いてねえよ! 髪の水が落ちてきただけで」
視線をそらし、慌てて頬を手でぬぐおうとするが、遥の手が俺の両手を掴む。
「んだよ! 離っ――!?」
唇に柔らかい感触。自分のすぐ目の前に目を閉じた遥の顔があって……
「……ごめん。我慢できなかった」
ゆっくりと遥は顔を離すと、ぱっと俺に背を向けた。
「なっ……なっ……!」
「あの日、最後に笑ってお別れできなくて、後悔した。また会えて、死ぬほど嬉しかった。凛に会った日からずっと凛の顔が頭から離れないし、思い出すだけで胸がドキドキしてたんだけど、今分かった。俺、凛が好きだ。多分、あの時から――」
「……いや、あのさ、えっと……」
頭が混乱する。何を言っていいのか分からなくなる。
「ごめんな。こんな事言って。でももう、凛の前には現れないようにする。本当に、ごめ――」
「あー、もう!! うるせえっ!!」
慌てて走り寄り、立ち去ろうとする遥に後ろから抱きつく。
「なんだよ!! 勝手ばっか言いやがって!! いい加減にしろよ!!」
「ごめ……だからもう近づかな……」
「ふざけんな!! 俺の方がもっとずっと前からお前のこと好きだったよ! 勝負の日、勝ったら言おうって思ってたのに言えなくて悔しくて!! なのに今更恋に気付くとか遅すぎんだよ! 馬鹿! ばーか!! 俺の方が大好きだよばーか!!!」
ありったけの力を込めて抱きしめる。
「凛……」
抱きしめていた腕を離して、叫ぶ。
「あ!? 文句あっか!! この鈍感!」
「……一つだけ」
遥は少し不機嫌そうに言うと、俺の方に向き直る。
「好きな気持ちは、俺の方が上」
「っ!?」
ぐっと強引に引き寄せられ、キス。
「…………」
どちらからともなく唇を離す。

「好きだ」
「俺もだよばーか」

遥の笑顔は、プールの水が反射する光を浴びて、かっこ良く、かわいかった。