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らんぶーたん
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小説インフィニットアンディスカバリー第二部

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第二部 エピローグ




「カペルが、新月の民……?」
 唐突に告げられた真実に、頭がついていかない。だが、自分の言葉がカペルを傷つけたのだということだけは、はっきりとわかっていた。先ほどまでの夢の感触が抜けきらない感覚に、今もまだその中だったらと思わざるを得ない。膝に力が入らず、突き倒されたまま、爆散した鎖の雨の向こうに消えていくカペルの背中を見ていることしかできなかった。
 たちの悪い冗談だろ?
 そう言いたかったが、それがどれだけ最低なことなのかは考えるまでもない。
「なるほど、ね」
 誰かの手が肩に触れる感触が逃避を許してくれない。自分に現実を見ろと何度も忠告してくれたドミニカの手が、同じ熱を放ってエドアルドの心を揺さぶった。
「もしかしたら、とは思っていたんだ。ケルンテンで透明化したリバスネイルと遭遇したとき、その存在を教えてくれたのはファイーナだった。リバスネイルが見える力は月印のものじゃない。だとしたら……ってね」
 嘘じゃない。
 カペルは、新月の民なんだ。
 現実の感触を持って飲み下したそれが、腹の底を冷たくする。
「俺は、なんてことを……」
 自分のことばかりでどうしようもなくなってしまった俺をそれでも仲間だと言ってくれたあいつを、知らなかったとはいえ、俺は……
「カペルはカペルよ」
 アーヤがふいに言った。
「だってそうでしょ! これまで一緒に戦ってきたじゃない。新月の民だからってそれは変わらないわ! そうでしょ、ドミニカ!」
 新月の民であったとしても、カペルを受け入れて欲しい。そう懇願する瞳は揺れていたが、アーヤの声音に迷いはなかった。
 その彼女の頭を、子供をあやすようにぽんとたたくと、ドミニカは皆を見回した。最初は驚いていた皆だったが、その視線を受け止めたときには一様に優しく笑っていた。
「アーヤ、行ってあげな」
「うん」
「ま、待ってくれ!」
 カペルの元へ行こうとしたアーヤを引き留め、エドアルドは言葉を継ごうとした。
「俺は……俺は……」
 だが、アーヤのようにまっすぐな言葉が出てこない。
 カペルに謝りたい。だが、どんな顔をして会えばいい。あいつの、おそらく一番深い心の傷を抉るようなことをした自分が、どんな顔をして会えば……。
 言いよどんでいると、アーヤはそのままカペルの元へと向かってしまった。
「アーヤは行ったよ。あんたはどうするんだい?」
「俺は……カペルに謝らないといけない。自分のためにも……シグムント様への恩に報いるためにも、あいつと一緒に戦っていきたいんだ。だけど」
「だったらやることは一つしかないだろう」
 ドミニカは変わらず厳しい一言を投げかけてくる。ずっとそれに反発するしかできなかったエドアルドだったが、それも今は違って聞こえた。
 今はそれが、胸の奥に響いて残る。
「ああ、そうだ」
 やることは一つしかない。ドミニカに引き起こされ、皆の顔を見回すと、エドアルドはアーヤの後を追った。
「まったく、世話のやける英雄様ご一行だね」
 苦笑して聞こえたその言葉を背中に聞きながら、エドアルドは胸の内の迷いを消し去った。
 月印が怖くても、俺は戦う。恐怖という弱さに打ち勝てなくては、シグムント様にだって愛想を尽かされるだけだ。
 俺は、解放軍の一員として戦っていくんだ。


「言っちゃった……」
 衝動に駆られて告白をしてしまったカペルは、皆の輪に戻ることも出来ず、その場を後にした。岩陰に隠れ、皆が見えなくなった瞬間に後悔が押し寄せてきて、頭を抱えてしまう。
 越えられたと思っていたんだ。新月の民とコモネイルの間に引かれた、一本の線を。
 新月の民は役に立たないと言われ、その線がいまだ目の前にあることを思い知らされた。エドアルドに悪意があったわけじゃない。だからこそ、その根が深いことに気付かされる。
 間に引かれた一本の線。僕はまだ足もかけていなかったのだ。
「ああ、どうしよう……いてっ!」
 唐突に後ろから頭をはたかれ、カペルは思わず呻いてしまう。
 振り返ると、そこにはアーヤがいた。なんだかご立腹のご様子だ。
「なにウジウジしてるのよ」
「え、だって……」
「この私が、月印程度でうろたえるちっちゃい人間だなんて思ってないでしょうね」
「て、程度って……」
「そりゃ、ちょっとは驚いたけど」
「でも、なんだか怒ってるみたいだし」
「怒ってるわよ、当たり前でしょ!」
「やっぱり……」
 そのつもりが無かったとはいえ、結果的に皆を騙していたのだ。居心地の良さが執着を生み、失うことを恐れさせて、本当のことを伝えるのを後回しにしてきたつけ。
 皆と旅をするのも、ここで終わり、か……。
「なんで黙ってたのよ!」
「それは……」
「あんたの一番大切な秘密、なんで私に黙ってたのよ!」
「……え?」
「順番が違うでしょ! まずは私に打ち明ける。みんなにぶっちゃけるのはその後でも出来るでしょ!」
「怒ってるのって……そこなの?」
「めちゃくちゃ大事なことでしょ!」
「あの、月印のことは……」
「だから、そんなちっちゃなことはどうだっていいの!」
 ちっちゃなことって……。あの、アーヤさん、僕にとってはすごく大きなことなんですが……。
「いい? 今度こんなことがあったら、まずは私に話すのよ」
「アーヤ……」
「返事は!?」
「は、はい!」
 怒りながらも少し照れくさそうにしているアーヤを見ていると、自分の悩みが本当に小さなもののように思えてきて、カペルは思わず笑ってしまいそうだった。
 結局、新月の民に対する差別というものに一番こだわっていたのは、自分なのかもしれない。確かに、コモネイルと新月の民の間に引かれた一本の線はある。だが、所詮それは線なのだ。越えられない壁でもなければ、底の見えない谷でもない。その線を互いに踏み越える小さな勇気があれば、乗り越えられる。手を伸ばせば、その手を握りあうことだって出来る。
「ありがと、アーヤ」
 簡単なことにも気付けない愚鈍さが僕にはある。たぶん、みんなにもある。だから、気付けることの喜びに、気付かせてくれる人と出会えた幸運に、カペルは感謝の言葉を捧げた。
 赤らんだ頬を隠すようにアーヤは視線を外すと、後ろに向かって声を上げた。
「ほら、そんなところに隠れてないで、こっちに来なさいよ! 言いたいこと、あるんでしょ!?」
 そう言われ、岩陰から現れたのはエドアルドだった。気まずそうに顔を伏せ、「もう、何やってるのよ!」とアーヤに背中を押されながら、エドアルドはカペルの目の前までやってくる。
 ついさっきのことを思い出すと、カペルも気まずくて黙ってしまう。でも、黙っていても仕方がない。心の間にある一本の線。それを踏み越える勇気を……。
「エド、さっきはごめん」
「なんでおまえが謝るんだ」
「だって……」
「おまえは謝ってばかりだな」
 それで力が抜けたのか、エドアルドは少し恥ずかしそうに笑った。
「俺にも謝らせてくれ。……俺は完璧になりたかったんだ。シグムント様のようにな。そんなことを考えている内は、どうしたって完璧になれるはずなんてないのにな。