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飛空都市の八月
飛空都市の八月
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あなたと会える、八月に。

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第7章 20歳



◆1

「潮風ってぇのは気持ちいいモンだな」
 エア・カーから降り立つと、ゼフェルはぐーっと背筋を伸ばして深呼吸する。深呼吸したものの、ふと振り返って後部座席の窓に顔を突っ込んだ。
 「おい、リュミエール……大丈夫かよ」
 「は、はい……ちょっと……酔いました……」
 中から、弱々しく発せられた声と共に押し開けられたドアを、ぐいと引っ張って大きく開くとゼフェルは、リュミエールの腕を掴んで外へと引き出した。
 「がんがんプールで泳ぎまくってる奴が、まさかこんなに乗り物酔いする質だとは思わなかったぜ」
 「そうだな」途中から、疲れた躰を寛げるよう後部座席をリュミエールに譲って、助手席に座っていたジュリアスも、車外へ出て立ち上がった。「しばらく風に当たれば治まるとは思うが……」
 そこでジュリアスはふっと微笑む。
 「海に来ればきっと、そなたが一番元気になるであろうし」
 そう言われて、髪の色ほどではないにしろ青白くなってしまったリュミエールの頬が、微かに緩む。
 「はい……」
 「良い、早く部屋で休め」
 荷物を引き取りに来たボーイが心配げにリュミエールの様子をうかがっていたが、ジュリアスが手を軽く横に振ったので、荷物のみを持ってロビーの方へと向かう。その後をジュリアスとリュミエールが続いたが、ふとジュリアスがゼフェルのいないことに気づいて振り返ると、当人のゼフェルはきょろきょろと辺りを見回しながら歩いてくるので、ずいぶん間が空いてしまった。
 「何をしている、ゼフェル」
 それほど大声を出したつもりはないが、ジュリアスの声はエア・カーの駐車場の中で響き、少しだけ不服そうな表情になってゼフェルが駆けてきた。
 「ちっ、うるせーな。ロザリアのエア・カーがないか、見てただけだ」
 「……たぶんロザリア自身が運転をしては来ないと思うが」
 そのジュリアスの言葉に、ゼフェルは口を尖らせる。
 「何だと?」
 「病身の父親と一緒だから、コラと一緒に付き添いをしなければならない。だから昨年も大きめの車に乗って、運転手がついていた」
 「……そっか」
 履いてきた膝までの綿パンツの両脇のポケットに手を突っ込み、パタパタと裾をはためかせながらゼフェルは、視線を足元に落とした。
 「それなら、仕方ねーな」
 ゼフェルとロザリアは、ことエア・カーについては話が合った。だからロザリアが乗ってくるエア・カーに興味があったのだろう。ジュリアスは苦笑して、横にいるリュミエールに目を転じると、そのエア・カーから降りたとたん−−海辺の空気に触れたとたん−−まさに『水を得た魚』のように元気になりつつあるリュミエールが、駐車場から海を臨み、一点を指さした。
 「……あれですね、ジュリアス様!」
 その指先は、海上に浮かぶようにして建っている、あの小屋に向けられている。
 ホテルの建物の下、仄暗い駐車場から、一気に強い陽射しの差し込む辺りまで出てきて少しでも海に近づきたいと言わんばかりに踏み出していくリュミエールの後を追い、その日の光の眩しさに目を細めつつ頷いてジュリアスが答える。
 「そう、あれだ」
 「大丈夫。ジュリアス様なら必ずあそこまで泳げます」
 にっこりと笑みつつ、けれどきっぱりとリュミエールが言った。
 「心強いな」
 リュミエールの勢いに笑いながらジュリアスは、小屋を見つめる。



 昨年の八月の後−−聖地の時間で言えば二週間前の日の曜日。前もって約束はしていなかったのだが、と言いながら館へやってきたジュリアスを、リュミエールは喜んで出迎えた。
 だがリュミエールとしては、ジュリアスが土の曜日−−『八月』−−をどう過ごしたのか、はたしてあの『家族』……いや、あの『子ども』ことロザリアと海で会えたのか、気になっていた。プールで泳がせてくれと言われたものだから、同じく水着に着替えてプールサイドまで来たものの、結局聞けずじまいだった。もっとも、こうして泳ごうとする気力のあることからしても上々の休暇を過ごせたのだろう、とは思う。
 そしてそのようなリュミエールの心中を、察したはずもないだろうけれど、唐突にジュリアスが言った。
 「途中でロザリアに、さんざん悪態をつかれながら海岸へ強制送還されてしまったのだ」と。
 一体、どのようにしてロザリアが、いくら細身だとはいえ、大の男であるジュリアスを『強制的』に海岸へ返してしまったのかとリュミエールは思ったけれど、ジュリアスはそれ以上のことは言わず、こう続けた。
 「しかも、そなたに『もっとしっかり鍛えてください』とお願いしなくては、などと申したぞ」
 思わずリュミエールは微笑む。何故なら憤然とした口調ながら、そう言っているジュリアスの表情がとても楽しげだったからだ。
 けれどそれを、本人は自覚していない。
 「何が可笑しい」
 「いえ」笑うことは控えたもののリュミエールは、こくりと頷いた。「わかりました。それならば何としてでもその小屋まで泳ぎ着いて、ロザリアの鼻を明かさねばなりませんね」
 「そうなのだ」我が意を得たりと言わんばかりにジュリアスは続ける。「しかし、海には波と潮の流れがあって手こずった……ああそれと」
 至極真面目な顔でジュリアスは言う。
 「水が塩辛い」