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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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あなたと会える、八月に。

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◆2

 その指輪をロザリアは、ゼフェルから渡された。
 ジュリアスと、初めてホテルの同じ部屋で過ごした八月から半年後−−聖地に住まう人々にとっては一週間後のこと、突然ゼフェルがカタルヘナ家の館へ、エア・カーに乗ってやってきた。
 「ゼフェル様!」
 ロザリアは、カタルヘナ家内の聖堂前へ乗り込んできたエア・カーに近づくと、運転席のドアの前に立ちはだかった。
 「また執務の途中で抜けていらしたのかしら?」
 微笑みながらロザリアは言ってみる。礼儀にかなったお辞儀をするより、そういう接し方のほうがゼフェルには気楽らしいから。
 「『また』は、ねーだろー?」
 そう言ってエア・カーから出てきたゼフェルの姿を見てロザリアは、はっとして一歩下がった。八月に海で見るような私服ではない−−執務服のままだ。もっともゼフェルの場合、執務服にしても活動的なものだから、聖地の外で出歩いていたとしてもさほど違和感はない。
 とはいえ。
 「今日はよ」綺麗に包装された小箱を、まるで大きな荷物を担ぐように肩の辺りまで持ち上げながらゼフェルはロザリアを見る。「正式な使いとして来たんだ……女王陛下の」
 そのとたんロザリアがざっと身を引き、腰を落として最敬礼する。その様子を見てゼフェルが思わず「すげぇ……」と感心したように呟いたので、せっかく『女王陛下からの正式な使い』として敬意を表したロザリアを呆れさせる。
 「……堅苦しいこたぁ、いいや」
 頭を下げたままのロザリアの前に屈むとゼフェルは、ぽんぽんと肩を叩いてロザリアに顔を上げさせ、ぬっ、と持っていた箱を突き出した。
 「これ……は?」
 「女王陛下からの……えーっと……どう言やいいんだ? おめーとジュリアスについちゃ」
 「……は?」
 「ま、何はともあれ、祝いの贈り物、だそーだ。開けてみなよ」
 言われてそれを受け取るとロザリアは、軽くゼフェルに会釈して立ち上がり、箱の包装をほどいた。
 「まぁ……!」
 それは指輪だった。全体としては決して華美ではないものの、いぶし銀のような色合いで少しだけ凝った意匠の施された台に、大粒の深い蒼色の石が嵌め込まれている。
 「嵌めてみろよ、サイズが合わなきゃ調整するからよ」
 「え……ゼフェル様が?」
 「作ったのはオレ」少し誇らしげにしてゼフェルは自分の胸を親指で指す。「候補の石を提供したのがルヴァとオリヴィエ。デザインしたのはオリヴィエで、リュミエールもなんやかやと口出ししてたぜ。で……」
 ゼフェルはそこまで言ってロザリアを見る。
 「この石を選んだのは女王陛下だ」
 驚きの表情をそのままにロザリアが指輪を嵌めてみると、ほんの少し緩めではあったもののそれは、ロザリアの髪や瞳の色によく合って、しっくりと収まった。思わず手をかざし、うっとりとした表情でその指輪を眺めていたロザリアは、はたと気づいて、ニヤニヤと笑っているゼフェルをきまり悪げに見た。
 「あの、でも……」
 「よーく合ってるじゃねーか」
 「ええ確かに」素直に頷いてみせてロザリアは続ける。「こんな素敵なものをいただけるなんて、とても光栄ですけど……」
 すっ、とゼフェルの前で跪くとロザリアは、指輪を外してそれをゼフェルに差し出した。
 「わたくし……このような立派なものを陛下から賜る身ではございません。御心だけはありがたく頂戴し……」
 ロザリアの言葉を遮ってゼフェルは続ける。
 「本当はちゃんとジュリアスを通じて、豪勢にやりたかったらしいけどよ、ジュリアスの野郎がそりゃもう陛下の泣き落としも効かねーぐらい頑固に断りやがって」
 言わずもがな……ロザリアにはその様子が、手に取るようにわかる。
 あくまでも、わたくしとジュリアスの間柄は内々のことであり、たとえば結婚とか、婚約したとか……そういうものではないもの。
 「でしたら」なおも指輪を高く掲げてロザリアは言う。「なおさら、受け取る訳にはまいりません。わたくしがジュリアスに叱られますわ、それに」
 顔を上げてロザリアは、ゼフェルを見つめる。
 「ゼフェル様はよくご存知のはず……わたくしが陛下に何の挨拶もせず聖地を後にしてしまったことを」
 「……なんかよ、カードの礼も兼ねてるって言ってたぜ」
 ロザリアの言うことはある程度予測済みだったのか、慌てることなくゼフェルが言う。はっとした表情のロザリアにゼフェルは、屈託のない笑みを見せた。
 「守護聖全員の前で見せてくれたぜ……エリューシオンとフェリシアの押し花のカード」
 「あ……」
 「すっげー、嬉しかったってよ。だから前から礼をしたかったって言ってた。そこへ、この話だ」差し出された指輪を軽く押し返しながらゼフェルは言う。「渡りに舟ってヤツじゃねーの? あっちはあっちでおめーのこと、気にしてたんだ。指輪ひとつ受け取ってやることで気が済むんなら、それでいいじゃねーか」
 ゼフェルにかかると、女王の話をするのにも万事この調子だ。だがその話の端々に、女王−−アンジェリークのことを大切に思っている気持ちが伝わる。
 だが確かに、そうまで言われて固辞するのも躊躇<ためら>われた。
 それに……飛空都市から出る前に、ジュリアスを通じて渡したあのカード。そんなに喜んでもらえただなんて。
 ふぅ、とロザリアは、肩から力を抜いた。抜いて指輪を持った手を胸の前に戻した。
 「……受け取ってくれるよな、ロザリア」
 「ありがたく……頂戴いたします」
 そうしてロザリアは、深く頭を垂れた。