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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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あなたと会える、八月に。

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◆10

 ディアによれば、自分を含め守護聖についての資料も、この手元にある書類のように渡されているという。
 ロザリアは知っただろう……私の正体を。
 『八月』以外の私のことを。
 だが私は、ここでは『八月』の私を見せる訳にはいかない。私は女王陛下の光の守護聖であり、守護聖を束ねる首座である。
 それ以外の、何者でもない。



 いつまでも共に過ごせるとは思わなかった。
 いつかは別れなければならないと思っていた。
 私は歳を取らぬ。一方で六歳だった少女は十六となり、私に抱いてほしいと願った。もっともそれは一過性のものであり、聖地に召されることがなければ、たぶんそのまま時は流れ、やがてそなたたちは歳を取らぬ私を不思議に、不審に思うようになるだろう。
 だから、その瞬間がやってくるまで、私はあの心地良い中で過ごしていたかった。
 まさかこのような形で終止符を打たれるとは思わなかったけれど。



 明後日、彼女ともう一人の少女がこの聖地へやってくる。
 二日経つから、十月生まれのロザリアは十七歳になっている。
 私は見極めなければならない。
 そなたか、それとも、もう一人の少女か−−この宇宙を統べ、その運命を委ねるべき女王たる者を。
 その目に一点の曇りもあってはならぬ。
 だから私は『八月』を忘れる。すべてが決まるまで……そなたを忘れる。
 そのような私を、そなたは冷たいと思うだろうか?
 ……否。
 そなたこそが、私を忘れて女王試験に臨むだろう。
 優雅に微笑み、その名を高らかに告げ、真っ直ぐ私を見るだろう。
 そうであることを私は願い、そうであることを私は確信している。



 だからあの海岸へ行くことは、もうないだろう。
 そこまで思ってふと、あの『海』のメロディが頭を巡る。彼女にとっての一年−−私にとっての二週間の間に、何とか時間を捻り出してピアノの練習をしたものを。
 それに、もうひとつの課題も……。けれどそれをこなす必要はなくなった。



 そうして私の『八月』は、永遠にあの海岸で置き去りにされる。





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