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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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あなたと会える、八月に。

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◆6

 「くく……」
 わたくしは笑う。
 確信している。昨日の様子を思えば、彼もまたわたくしのことを知らないに違いない。そして今ごろ彼もこの事実を知って驚いているかもしれない。しかもたぶんあちらには、ご丁寧にわたくしの顔写真が添付されていることだろうし。
 わたくしはわたくしに対し嗤う。
 彼には気の毒なことをした。彼にとってわたくしは出会ってからまだほんの少ししか経っていない。初めて会ったときは幼子だったのに、どんどん成長したかと思えばいきなり真顔で抱いてほしいと言われたなんて……本当に、お気の毒!
 恥ずかしさを通り越して今はもう、嗤うしかない。
 年の離れた妹。
 まさにそう。そうだわね。



 ふと笑うのをやめてわたくしは、書面の中のあなたの名前を指でそっとなぞる。
 今、聖地は何月なのだろう。
 あなたにとっての本当の八月はもう過ぎてしまったかしら。あなたの、そしてわたくしの立場を考えれば、あの海辺のようには過ごせないだろうけれど、あなたの時の流れに合った八月に、あなたの誕生日を祝えたら素敵なのに。
 だって、わたくしは約束したのだもの。八月十六日にはあなたの誕生日をお祝いすると。それはもう果たすことのできない約束だと思っていたけれど、まさかこのような形で続けられるかもしれないとは。
 もっとも………あなたはきっとわたくしに対しても容赦せず、試験−−どのような内容かは知らないけれど−−を遂行するだろう。
 だからわたくしもそれに応えよう。
 完璧な女王候補として振る舞い、女王になってみせる。
 そしてわたくしは、あなたと同じ時の流れの中で、あなたの八月を祝い続ける。
 あなたという存在がこの世に生を受けた、その佳き日のことを。





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