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飛空都市の八月
飛空都市の八月
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あなたと会える、八月に。

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第5章 17歳 ◆27〜40



◆27

 飛空都市は今日も雨が降っている。
 激しいものではないけれど、晴れる日が少なくなり、やがて毎日降り続けるようになっていた。
 寮の窓ガラスを通してその様子を眺めていたロザリアは、くるりと振り返ると、自分の部屋とは異なり、赤い色合いのものの多いこの部屋のベッドを見た。
 定期審査のある月一度の土の曜日、ロザリアはこの部屋へ声をかけに来ていた。それはたいてい遅刻気味の対抗相手を引っ張り出すためなのだが、今日はどうもそれができそうにない。そう思うと、自然と自分の表情も暗くなっていくのがわかってロザリアは小さくため息をついた。
 ここしばらく、アンジェリークは体調を崩して伏せっている。大陸の育成はすでにほぼ同格、いや−−正直に言えばロザリアはアンジェリークに遅れを取っていた。アンジェリークの育成するエリューシオンは、ゆっくりと、しかし着実に成長していき、今ではロザリアの目で見ても活気のあふれた大陸へと変わっていた。むろん、フェリシアも成長はしているものの、依然として頭打ち状態は続いている。まだ育成し始めた頃は何もかもが不足していたからロザリアもあてがう力をすぐ判断できた。だが、ある程度育つと何をフェリシアに与えてやれば良いのかと惑うようになった。そこで改めて神官に尋ねてみたけれど「何の力を望めば良いかわからず……」と返された。
 フェリシアの民たちは、満足することに慣れてしまったのだ。いつもロザリアから与えられた力に頼り、望まなくとも得られることに慣れてしまって、望むことを忘れてしまった−−
 このままでは女王試験に負けてしまう。
 その嫌な予感に苛まれるようになった矢先のアンジェリークの不調に、ロザリアは返って苛立ちを感じずにはいられなかった。相手の健康管理の不行届きのせいで勝ったとしても、ロザリアには後味の悪い不快感が残るだけだ。だからどうにかアンジェリークには元気になってもらい、同等の立場で勝ち負けを決したかった。
 アンジェリークが横たわるベッドの脇につかつかと歩み寄るとロザリアは、その不甲斐ない躰にかけられたシーツを剥がそうとした。剥がそうとして、近づくロザリアを見上げたアンジェリークの顔を見てぎょっとした。
 真っ青だ。なのに頬だけが異様に赤い。思わず掌がアンジェリークの額へと動く。
 「……なんて酷い熱!」
 小さく叫ぶとロザリアは、隣室で控えているコラを呼ぶため行こうとした。ところが、ぐい、とロザリアの躰が後ろへと引かれた。見るとアンジェリークが両手でロザリアの腕を掴んでいる。
 「……ロザリア……」潤んだ緑色の瞳にロザリアの姿が映る。「ロザリアには……聞こえない……の?」
 「……何が?」
 そう問い返すとあからさまに落胆の表情が表れ、一気にロザリアを不愉快にさせる。
 「何が?」
 眉を顰めつつ再度尋ねてみたけれど、アンジェリークはまるで力尽きたかのようにロザリアの腕を掴んでいた手を離すと、もうロザリアに視線を合わすことなく呟いた。
 「……こんなに……聞こえて……いるの……に……」
 まるでうなされているかのようだった。だからロザリアは、熱が高いあまりのうわごとなのだと思った。
 「お医者様を手配していただくよう、ディア様に言っておくわ。それまでの間、この子を看てやって」呼んできたコラにそう告げるとロザリアは部屋の扉へと向かった。「とりあえず、わたくし一人で定期審査へ行くから、頼むわね」
 「あのロザリア様」コラがおずおずと声をかける。「あの」
 「何かしら? もう時間がないのよ」
 「あ、はい、それでは後で……」
 はっきりしないコラを少し気にしながらもロザリアは、寮を出て迎えの馬車に乗ると次元回廊の入口へと向かった。



 謁見の間へ行くまでの間ロザリアは、飛空都市よりもずっと激しい雨模様となった聖地の様子に身震いした。飛空都市ではそれなりに明るい表情で接してくれていた守護聖たちでさえ、明らかに緊張していた。それはエア・カーのことで親しく話すようになったゼフェルはもちろん、あの滝の上流での出来事以降、『八月』の海を知る唯一の人となったリュミエールにしても、いつもの穏やかな微笑みは消え失せていた。
 思わずロザリアは見つめる−−首座の守護聖、ジュリアスを。
 だが彼の表情だけは、いつもと変わらなかった。もっとも、いつも厳しい表情をしているのだから変わりようもないのだが、それでも、変わっていないものがあることでロザリアは少しだけ安堵した。
 ディアが現れた。
 ここしばらくディアは飛空都市を留守にしていたので、ロザリアがディアを見るのは久しぶりだった。そしてこの間、いったい何があったのだろうと思われるほどにディアの頬がこけていることに気づき、わずかな安堵もあっという間に消え失せた。
 「……アンジェリークはどうしました? ロザリア」
 「それが」
 ディアの問い掛けに答えようとしたそのときだった。謁見の間の扉が激しい勢いで開かれ、それが数人の叫び声と共に大広間に響き渡った。それと同時に、駆けてくる足音が近づいてくる。
 音の方へロザリアが振り返ったとき、それはすでにロザリアとディアの脇をすり抜け、高台にある玉座の幕のすぐ側まで来ていた。
 「……アンジェリーク……あなたっ!」
 ロザリアが叫んだのも無理はなかった。アンジェリークは、たぶん寝間着の上からガウンをはおっただけの格好で来ていたからだ。
 守護聖たちもその異様さに驚き、オスカーが引き留めようと前へ進み出たけれど、それをジュリアスが制した。
 その代わり、ディアがロザリアから身を翻してアンジェリークのもとへ向かう。
 「どうしたのですか、アンジェリーク」
 穏やかな、けれど凛としたディアの声が響き、幕を掴んでいるアンジェリークの手を見据えている。
 ディアを一瞬は見たアンジェリークだったが、次の瞬間、幕をさらにぎゅっと掴むとその向こうへ視線を転じ、叫んだ。
 「女王陛下! 聞こえないのですか、あの声が!」
 先程、アンジェリークの部屋で聞いた言葉と同じことを言っている。
 「……星の……星々の悲鳴が……聞こえないんですか……っ!」
 その場にいた誰もが−−ジュリアスすらも−−一斉に息を呑む音を、ロザリアは聞いた。そして、幕の向こうで、微かに−−極めて微かに動きが感じられた。
 「与える力が違いすぎます!」
 なおも叫ぶアンジェリークの言葉は、ロザリアのみならず守護聖たちをも驚愕させ、ディアでさえ目を大きく開いた。
 「均衡が保てない、堪えられないって星が叫んでいます! これ以上間違ったことをするのは、もうやめて!」