瀬戸内小話3
フェティシズム
白い指先は、決して柔らかくなどない。
刀よりも何倍も重い輪刀を振り回すその指は、無数の細かい傷とともに節くれだっていて、この男の青い炎のような一面を垣間見せる。
「……鬼よ、しゃぶるな」
それまでひとの好きにさせていた男が、呆れたように呟く。
「減るもんじゃねぇだろ?」
その長い指先を丹念に舐めるのが、とても好きだった。唯一、この氷の面に隠された本質が剥き出しになっている部分だから。
「ふやける」
「んなことねぇから、安心しろ」
指先と爪の間を擽り、関節を齧る。指の又に溜まる唾液が、掌を伝い落ちる。
それにほんの少しだけ、綺麗な顔が歪む。
「……元親」
彼は何も言わない。ただ、名を呼ぶだけ。
親指から人差し指、中指と丹念に嬲っていけば、ゆっくりと手首から剥がれ落ちていく。
風鈴の音が水音に混じる、静かな部屋の中。
「元親…」
濡れた指先が、人の髪を梳いた。