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誘導弾【七人目のスタンド使い】

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誘導弾の刻む道




振り抜かれた拳はワイルド・ハーツのガードごと吹っ飛ばす。壁に激突して煉瓦が崩れる。
スタンドの受けた傷はそのまま本体に還元され、小柄な少女は一瞬で身体中から血を流した。小さく呻き声をあげ片膝を付く。

「大神ッ!」
「承太郎ッ!DIOから目を離すんじゃあないッ!」

大神に気を採られかけた承太郎を叱咤して、戦意の欠片も薄れていない瞳でDIOを睨めあげる。
対するDIOは悠然と笑みをはき、赤い瞳で大神と承太郎を見下ろしていた。
傍らには金色のスタンド「世界(ザ・ワールド)」が侍って攻撃の隙を窺っている。
時を止める能力を有する恐るべきスタンド。
花京院が命の最期に教えた能力を知覚出来ているのは承太郎だけだった。
吸血鬼の一撃一撃は、確実に大神と承太郎を追い詰めていく。

「死ぬんじゃねーぜ、大神」
「承太郎もな」

一時足りともDIOから目を離すことなく、呟き声で言い交わす。
たった二人、たった二人だ。
もしかしたら、たった一人になっていたかもしれない。大神が今、生きているのは単なる幸運と友情の積み重ねの産物に過ぎない。
アヴドゥルはヴァニラ・アイスの攻撃から三人を庇い、腕だけ残して居なくなった。
イギーは傷ついた体で渾身のスタンドを使い、力尽きてしまった。
全て、大神の目の前であっという間に起こったことだ。

(私を庇ってアヴドゥルとイギーは死んだ!私の目の前で花京院はDIOに腹を貫かれて息絶えた!ジョースターさんは、私の目の前でDIOに血を抜かれて……!ポルナレフすらッ!)
「これ以上、奪わせやしないッ!承太郎までも奪われてなるものかDIOォオオ!!」

大神の渾身の叫びに応じたようにワイルド・ハーツがカイロの闇の静寂を切り裂くように咆哮する。
スター・プラチナの拳が空を裂き、DIOに一撃を加えた。一瞬とはいえ出来た隙にを見逃すわけにはいかない。

「エンドレス・ネームレスッ!」

ワイルド・ハーツの背から飛び立つ大鷲が、DIOにまとわりついて攪乱する。

「貴様のような貧弱なスタンド使いごときが、このDIOの手を煩わせるんじゃあない!」
「畜生ッ!引き裂けワイルド・ハーツッ!」

解き放たれた狼男のようなスタンドの鋭い爪は、DIOの腕を切り裂いたが、すぐに吸血鬼の恐るべき回復力で傷は塞がった。
傷ついた腕をいとわず伸ばしたDIOの手が、ワイルド・ハーツの首筋を締め付ける。

「がッ!かは……ッ!」
「大神ッ!ワイルド・ハーツを引っ込めろ!」
「無駄無駄無駄ァ!承太郎の前に、鬱陶しい小バエから始末してくれるわッ!」
「スター・プラチナァ!」

承太郎は地面を蹴り、スター・プラチナの射程距離を詰めようと駆ける。スター・プラチナは拳を振り上げた。
しかし、行く手を阻むザ・ワールドは無機質な表情でスター・プラチナの拳を阻む。
拮抗する近距離パワータイプの攻防に、空気が張り裂けて音をたてた。

「ッ!一……一矢で良い…………っ、イギー……ッアヴ……ドゥル、か、花京……院ッ、ジョースター……さんッ、ポルナ、レフ!ち、力を、……!」

首筋に表れるDIOの手の跡が、ギリギリと肌に食い込み、気道を圧迫する。頸骨が軋む激痛。悲鳴が上がる。承太郎は大神の名を怒鳴る。
迫る死の恐怖のなかで、大神の脳裏に閃いたのは、母の言葉だった。優しい母、イタリア人と日本人の間に生まれ、父と恋に落ちたその母のお伽噺――。

(私の大叔父は……私の先祖たちは……!友のために、未来に何かを遺して死んでいったと……それは誇りだ……ッ!私の中に確かに流れる誇り高きツェペリ家の魂だッ!!)

「ポキリと、そのなまっちょろい首を捻りッ!折り取ってやろうッ!」

勝利を確信したDIOが歯を剥き出して残酷に笑う。
ぎりぎりと頸骨が悲鳴をあげる耐え難い激痛の中、大神は掠れる声で呟いた。

「だから……私だって……ッなにか、しなきゃ――恥ずかしくって……あの世に……行けないんだ……ッ!」

大神が目を見開いた瞬間、DIOの脳天が弾丸に撃ち抜かれる。二発、三発と続けざまに射出された弾丸は過たずにDIOの眉間、側頭、延髄を撃ち抜いた。
スタンドを掴むDIOの腕が弛んだ隙に、ワイルド・ハーツはそのスピードで抜け出して倒れ込んだ大神を支える。

「かは……!これは誘導弾……!?まさかッ!!」

DIOを執拗に狙う曲がる銃弾に連想される名前に、大神は驚きを顕に浮かべる。DIOもまた同じく思い当たったらしく、忌々しげに吐き捨てた。

「ホルホースかッ!」

本体の驚愕に一瞬ザ・ワールドの拳が緩む。スター・プラチナはザ・ワールド振り払い、DIOの頬を殴り飛ばした。

「オラァッ!」
「チィッ!」
「――――息が出来るッ!今ならッ!」

肺の中に入る呼吸を整える。ジョセフに才能があると褒められた、体に伝わる――『波紋の呼吸』。
コオオオオオと深く深く、大神の身に染み込む波紋はその体を癒し、力がみなぎる。堕ちた波紋戦士が死に際に託した、秘伝の呼吸。そして、ジョセフが伝えた山吹色。
承太郎は大神と視線を交わし力強く頷いた。ワイルド・ハーツは、その背を大神に貸し与える。

「グルル」
「ええ、乗るわ、ワイルド・ハーツ!」

ワイルド・ハーツの背に飛び乗った大神は、正しく神速の鏑矢となってDIOに飛び出した。

「荒々しくハーツ!!燃え尽きるほどバーニングッ!おおおおッ!刻むわ血族のプライドッ!『山吹色の波紋疾走(サンライトイエロー・オーバードライブ)』!!!」

太陽色の煌めく拳の鏃に、DIOはまさしく『恐怖』した。
しかし避けることすら、スター・プラチナと、エンドレス・ネームレスが赦さない。
小柄な少女の振り上げた鋭いアッパーカットは、過たずにDIOの顎骨を穿ち、溶かして吹き飛ばす。

「喰らって灰に帰りな!吸血鬼ッ!」

空に浮いたその体に間髪入れず、承太郎はスター・プラチナのラッシュを叩き込んだ。

「オラァッ!オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッッッ!!!」
「ばかな……このDIOが……!このDIOがァァァァ!!!!」

断末魔の叫びをカイロの闇に響かせて、邪悪の帝王は動かなくなった。
大神はようやくDIOから視線をはずし、スタンド弾が来ただろう方角を見る。視線の先、路地裏の角にほんの一瞬、煙草の火がくゆって消えた。

「承太郎……」

承太郎は一瞬大神と目線を交わし、深く学帽を被り直した。

「DIO……てめーの敗因はたった一つだぜ。たった一つの簡単(シンプル)な答えだ……」

承太郎は万感の思いを圧し殺した言葉を告げる。大神も、動かない吸血鬼を見下ろして承太郎に声を重ねた。

「てめーは俺たちを怒らせた」
「あんたは私たちを怒らせた」

にやりと何処かでホルホースが笑んでいるような気がして、大神も薄く唇に笑みを乗せた。



承太郎エンド