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サバ系男前彼女と肉系不憫彼氏

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魔除け的な



日曜日の午前。
天気が良い。
遙との待ち合わせの場所である駅の改札の外に凛はいた。
ひとりではなかった。
高校生らしい女子ふたりと話をしていた。
ふたりとは面識がない。さっき声をかけられたばかりだ。
一緒に遊びにいかないかと誘われている。
逆ナン、というやつだ。
これから遙とデートだし、そうでなくても彼女たちと一緒に遊ぶつもりはない。
だから、凛は断ろうとした。
そのとき。
「おい」
遙の声がした。
いつのまにか近くまで来ていたようだ。
美人といえる顔にあるのはいつもの無表情。
クールな視線が、凛を逆ナン中の女子ふたりの顔の上を走った。
それから遙は凛を見た。
「このふたりも一緒に行くのか?」
「あ、いや、それは」
違う、と凛は続けようとしたが、その寸前に女子ふたりが言う。
「ううん、違うの!」
「私たちはちょっと話しかけてみただけーだから」
「うん、そう、だからもういいの」
「じゃあねー」
早口で口々に言うと、さっさと去っていく。
しばらくして、「やっぱ彼女いたかー」「あー、イケメン彼氏ほしー」という声が聞こえてきた。
「……行くか」
そう凛が言うと、遙は無表情のまま、うなずいた。
歩きだす。
「さっきの」
遙が凛のほうを向かずに、進む先を見て、言う。
「逆ナンか?」
「おまえがその言葉知ってんのが、驚きだ」
「バカにするな。それぐらい知ってる。で、もしかして逆ナンはあれが初めてじゃなかったりするのか?」
「……どうでもいだろ、そんなこと」
凛は遙のほうに向けていた眼をよそにやった。
実は逆ナンはあれが初めてではなく、過去に何度も経験したことがある。
けれどもそれを彼女である遙に言いたくなかった。
自分はなにも悪いことをしていないのだが、なんだか気まずい。
凛と遙は駅から出た。
街は初冬の薄い陽の光を浴びている。
「おまえは顔がいいのが取り柄だからな、モテて当然か」
「顔だけが取り柄みてぇなこと言うな」
「学校でもモテるのか?」
「……うちは男子校だ」
「それでもモテているんじゃないか?」
「……」
クッソー! と凛は胸のうちで叫んだ。
なんで鋭いんだ。
恋愛系には鈍感なくせに、そのせいで付き合うことになるまで自分はかなり苦労したのに、なんで、今、こんなに鋭いんだよ!?
遙が指摘したとおりだ。
凛は男子校の生徒から告白された経験もある。それも複数からだ。
特に鮫柄学園文化祭の水泳部伝統の冥土喫茶でメイドコスをさせられてからしばらくは告白が相次いだ。
あれは凛の中では黒歴史となっている。触れたくない。触れられたくもない。
「凛、携帯、貸せ」
「ああ?」
遙が手を差しだしてきたので、凛はわけがわからないものの自分の携帯電話を出し、遙の手のひらに載せてやる。
「携帯、忘れたのかよ。って、いつも忘れてるよな」
今すぐどこかに電話をかけなければいけない用でもあるのだろうか。
ちょうど良い機会だ。説教をしておこうと凛は決めた。
「携帯してなきゃ携帯電話って言わねーだろ。ちゃんと持ち歩け。存在を忘れるな。おまえが家にいて、しかも、おまえが着信音が聞こえる範囲にいなけりゃ電話がつながらないなんて、ただのメールもできる固定電話だろうが」
しかし、その凛の説教を遙は完全に聞き流しているようだ。
遙は凛の携帯電話を眺めている。
どう使えばいいのかわからない様子である。
凛の中のお兄ちゃん気質が触発され、遙に携帯電話の使い方を教えてやろうとした。
だが、そのまえに遙が立ち止まった。
そして、携帯電話を使い始める。
電話するのではない。
カメラ機能を使っている。
ってか、なんで自撮り!?
そう凛は胸のうちで驚きの声をあげた。
遙は凛の携帯電話で自分を撮影していた。
なにやってんだ、なんでそんなことしてんだあああ!?
さっぱりわけがわからない。
遙は撮影が終わると、画像を確認し、それから携帯電話を凛のほうに差しだした。
「これを待ち受けにでもしておけ」
そう言われつつ、凛は自分の携帯電話を受け取った。
さっき遙が撮影していた画像を見る。
「なんだ、これ」
画像の遙が眼光鋭くこちらを見ている。
「こんなの待ち受けにしたら、オレは携帯見るたび、おまえににらまれなきゃならなくなるだろーが!」
「おまえ、自分の学校の生徒にモテるのを避けたいんだろう。だったら、それぐらいが魔除けにちょうどいい」
「自分で魔除けとか言うのかよ……」
天然すぎる遙の言動は凛の予想の範疇を大きく超えてくる。
それでも、自分は遙が好きなのだ。
本当に、どうしようもない。
「とにかく、これを待ち受けにするのはイヤだ」
「じゃあ、どんな画像だったらいいんだ?」
そう遙に聞かれ、とっさに凛は自分の希望を素直に口にする。
「笑顔!」
「無理だ!」
驚異の早さで遙は言い返してきた。
「……まあ、そうだろうな」
凛はガックリ肩を落とした。
すると、遙は凛の手から携帯電話を取りあげた。
「しょうがない。努力してやる」
えらそうに告げ、遙はふたたび凛の携帯電話で自分を撮影し始めた。
少しして、携帯電話が凛に返される。
凛は画像を確認した。
「……たしかに笑ってるが……」
画像の遙は笑っている。
だが、それは、凛に勝負を挑んでくるときのような、不敵な笑みだ。
凛の希望とは大きく異なる。
しかし、たしかに笑っている。
というか、これ以上のものは望めそうにない。
「わかった」
凛は潔くあきらめ、不敵に笑う遙の画像を待ち受けにすることにした。



後日、凛の携帯電話の待ち受けを見た生徒たちから、松岡凛には美人だがドSっぽい彼女がいる、というウワサが鮫柄学園に広がっていった。