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敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯

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コスモゼロ



艦底部の〈タイガー〉専用デッキと比べて、はるかに狭い格納庫。二機並んで置かれているのは、銀色に光る戦闘機だった。主翼も尾翼もたたみ込んで、もはや折りたたみの傘をすぼめたようになってる機体が、カタパルトへ送るためのリフトに固定されている。狭い庫内はその二機だけで一杯だ。

「これがわたしと隊長が搭乗する機です」山本が言う。「九九式支援艦上戦闘機。数年前から試作型が〈コスモゼロ〉と呼ばれていたものが、つい最近制式採用されました」

「へえ」と言った。「〈コスモナインティナイン〉じゃダメなの?」

応えず、「この機体は〈タイガー〉と違い、艦の後方上部にある発進台を用いて離着艦します。旧戦艦〈大和〉では観測機のカタパルトがあった場所です」

「せんかんやまと」

「はい。その形に合わせて船を設計しなければならない事情があったために、このようなやり方を取らなければならなかったと聞いております」

「だからなんで……」

「〈ゼロ〉と〈タイガー〉では機体の性格が大きく異なります。〈タイガー〉は基本的に船を護るための戦闘機で数を多く必要としますが、〈ゼロ〉は攻撃を旨とするため最小限でいいわけです。〈ヤマト〉の任務はイスカンダルへ行くことですので、防御が優先されるわけです」

「そういうことを聞いてんじゃないけど」古代は〈ゼロ〉と呼ばれた機体を眺(なが)めた。どことなくエビやシャコかヤゴの類(たぐい)に翼を生やしたように見える。「つまり、これって、攻撃機だよね。戦闘機じゃないよね」

「戦闘攻撃機ですよ」

「まだ〈タイガー〉の方がいい」

「隊長はこちらに乗ると決まってるんです」

「それだよ」と言った。「さっきの見たでしょう。ああなると思ったよ。おれが隊長になれるわけないじゃないっすか」

「わたしに敬語を使う必要はありません」

「だって、おれなんかがんもどきだし」

「今は航空隊長です」

「だからさ……」

「艦長がお決めになられたことです」

「艦長が決めた? ってなんなんだあの艦長は。艦長が死ねと言ったら君は死ぬのか」

「もちろんです」

「いや……」詰まった。「あのさ」

「なんでしょう」

黙って次の言葉を待ってる。古代は困った。少し考えてようやく言った。

「この船の航空隊長って、いちばん最初にカミカゼ特攻させられる役って意味じゃないよね?」

「なんですかそれは」

「だってこの船、気味が悪くて……本当にあの沈没船まんまな形してるわけ?」

「そうですが」

「おかしいでしょ。それってさ、水に浮くための形だよね。宇宙を飛ぶ形じゃないよね」

「そう言われると困りますが」

「言われないと困らないの? 君らおかしいよ、やっぱり。まるで玉砕覚悟っていう感じ……ほんとはこの〈ヤマト〉って、船ごとどっかへ特攻かけるための船じゃないんだろうね」

「イスカンダルへ行くための船です」

「ははは」笑った。「冗談だろう」

「冗談ではありません」

「だってまさか、そんなこと、本気で考えてるなんて――」

「古代一尉」と言った。「発言にはお気を付けになられるべきと思います。今はわたしがいるだけだからいいですが、他の者の眼があるときに不用意なことは言わない方が」

「おれは本来この船に乗る人間じゃないんだよ」

「理解しております。ですから申し上げたまでです」

古代は黙った。山本も口をつぐんでいた。しばらくの間沈黙が流れた。

古代は首を振り、それから言った。「おれはこんなもん乗れない」

「あなたは腕がいいはずです」

「そういう問題じゃない。わかってるはずだ」

「いいえ。あなたも軍人ならば戦うべきです」

「ほんとの隊長みたいにか」

「どういう意味かわかりませんが」

「おれが言うのは、『これにほんとに乗るはずだった人間みたいに』ってことだ。あのとき、おれを護るために、無人機に突っ込んだ……」

「坂井一尉は、〈コア〉を護るためにそうしたのです。あなたのためではありません」

「同じことだ! おれにもあれをやれって言うのか!」

「そんなつもりはありませんが」

「ははは」笑った。「やっぱり、カミカゼ特攻機じゃないか。冗談じゃない。おれはイヤだ」

「古代一尉……」

「やめろ! おれはそんなんじゃない!」

「あなたの他にいないんです」

「なんでだよ! タイガー乗りがいくらでもいるだろ!」

「そういう問題ではありません。わかってるはずです」

「わかるかよ! どうしておれってことになるんだ!」

「ですからその……」と言ってまごつく。ちょっと詰まったようだった。

「ほら見ろ。ほんとの隊長が死んだからだろう。なんでおれが代わりなんだよ」

「艦長がお決めに……」言いかけて〈まずい〉と思った顔になる。

「ほうら見ろ」とまた言った。「やっぱり思ってるんだな? おれのせいでほんとの隊長が死んだんだと。だからおれにも死ねって言うつもりなんだ」

「そんなことは……」

「そうだ」と言った。「あの下にいたやつら……」

「古代一尉。あれはあなたのせいなどでは……」

「みんな思ってる。そうなんだな? この船のクルーみんながみんな。隊長だけじゃない、沖縄の基地で千人が死んだのはおれのせいだって。おれがあんなカプセルを拾ってこなければ……」

「違います! 誰もそんなこと思ってません!」

「いや、思ってる! 思ってるんだ! そうでなきゃ――」

「古代一尉!」

「やめろ! ごまかそうとするな!」

「あの〈コア〉には地球の運命がかかっていたんです!」

「それがなんだ! 知ったことか! おれになんの関係がある!」

「地球のためだったんです! 人類を救うためにああしたんです!」

「同じことだろうが! これならおれはあのとき死んだ方がよかった!」

「そんなこと言わないでください!」

山本は叫んだ。もはや悲鳴だった。涙をこぼし、顔を覆ってうつむいてしまった。

「お願いだから」首を振りながらつぶやいた。「あなたにそう言われてしまったら、死んだ人達が哀し過ぎる……」

「その……」

と古代は言った。しかし後が続かなかった。嗚咽(おえつ)を漏らす山本にかける言葉もなく、ただ庫内を見渡した。しかし銀色の戦闘機しかない。

泣き声がいくらかおさまったところで言った。「あの艦長は何を考えてるんだ。おれが〈タイガー〉のパイロットから認められるわけがないってわからなかったのか」

「わたしにはわかりません」

「それに、これだ。とにかくこんなの、おれに乗れるわけがない」

「いいえ」と言った。「一尉には、まずこの機体のシュミレーターによる訓練を受けてもらいます」

「はあ」と言った。「シュミレーターね」

また思った。ほんとにあのヒゲの艦長とかいうの、何を考えているんだか……。