敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯
ワープテスト・ブリーフィング
「ではこれより、ワープテスト実施についての注意事項の確認をする」
〈ヤマト〉第二艦橋。大スクリーンを背に真田が言った。第一艦橋の下に置かれたブリーフィング・ルーム――作戦などの指示や説明を、必要な者を集めて行う部屋だ。航海部員の島・太田・森以下のクルーと、真田の本来の部下である技術部員、そして徳川以下の機関室員が主に集められていた。
中に藪の姿もあった。彼は不安げな表情で真田の言葉を聞いている。
「〈ワープ〉、すなわち空間歪曲航法とでも呼ぶべきこれは、地球の船ではこの〈ヤマト〉が始めて持つものであり、ゆえにこれから行うテストがあらゆる点で最初の試みということになる。航海の成否を分ける最も重要なテストであるので、各員が互いの仕事の重要性を理解し合い力を合わせて事に臨んでもらいたい」
「はい!」
全員が声を合わせて力強く返事した。藪ひとりがギョッとして、息を詰まらせたようになった。
「では各員の役割だが、まず島操舵長。君は……」
スクリーンに映し出される画(え)を元に難解な説明がなされていく。全員が熱心に聞いている。その中で藪ひとりだけ途方に暮れているようだった。
「ワープの原理は、宇宙空間を一枚の紙のようなものと考えてそれを折り曲げ、重ね合わせて穴を開ければ間の空間を通ることなく近道をすることができるというものだ。これを二次元の紙でなく三次元の宇宙空間でやるわけだが、失敗すればまさに紙のように宇宙を引き裂いてしまうことになるかもしれない。また、こちらに穴を開けても、目的地である反対側に出られずに超空間に永遠に閉じ込められるといった失敗も考えられる。また、宇宙空間に小型のブラックホールを現出させるということだから、この〈ヤマト〉がその力で潰れてしまうということも……」
藪の顔がひきつった。ちょっとこの人、普通の顔してとんでもないことサラサラと話していたりしはしないか? と、そんなふうに感じている表情だった。他の者は真剣な顔で聞いているが、真田の言葉に特に疑問を感じているようすはない。
「それから徳川機関長、ひとつ留意していただきたい点があります。『〈ワープ・波動砲・またワープ〉と連続して行うことはできるか』という問題です。もしこれができるようだと、冥王星の前にワープして星ごと基地を吹き飛ばし、すぐサッサとマゼランへ向かえるようになるわけですが」
「わかっているが、あまり期待しないでほしい。それをやったら機関がもたないと思うよ」
「わたしも同意見ですが、それぞれの間にどの程度の間隔を開ける必要があるかを知るのも重要ですのでお願いします」
「了解した」
「では次に――」
と言って真田は藪に眼を向けた。
「藪一等機関士。そうか、君は直前に補充になったクルーだったな」
「はい」
「エンジン始動の際はよくやってくれた。今回の君の役割は万一の際の消火作業だな。訓練もなしに取り組ませることになってしまって申し訳ない。またあのロボットに君のためのマニュアルを読ませて補助に付けよう。頑張ってくれ――機関長、彼のことはお願いします」
「うむ」
言って徳川は藪の肩に手を置いた。頷いてみせる。
「大丈夫だ。みんなが付いてる」
「はい……」
「うん」と真田も頷いた。「ブリーフィングは以上だな。では、わたしは艦長に呼ばれているので」
作品名:敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯 作家名:島田信之