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敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯

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返信



「〈ヤマト〉から入電です」

〈あさぎり〉艦橋。オペレーターが告げた。

「『まだやるか。これ以上は死人が出るぞ』です」

「ふむ」

と永倉は言った。スクリーンには望遠で捉えた〈ヤマト〉の映像が映っている。反重力兵器に覆われてもはや動きを止めた船体。その艦首から片側の錨の鎖が伸びている。こちらも残り二隻とは言え、続けようと思うなら他に手がないわけではない。だが――。

「確かに死人は出せんな」

と言った。永倉のその言葉を待っていたように、艦橋の中の誰もが息をついた。

「状況を終了する。反重力感応器を解除しろ。〈ヤマト〉に電信を打て。『お見事でした。ここは敗けを認めましょう』と」

言いながら、口が笑いの形に歪むのを抑えることができなかった。実のところ、こうなることを自分は望んでいたのではないかと思った。内心望んでいた通りの結果で終わるのならば、それに尽きることなどあるか。

命令だから〈ヤマト〉を捕まえようとした。それに手を抜く気などなかった。が、実はその後で、〈ヤマト〉を逃がすつもりでいたのだ。懲罰を受ける覚悟のうえで――部下にもそれは話してあった。

当然だろう。〈ヤマト〉を軍部に渡したら、〈メ二号作戦〉ということになる。そんな狂った作戦を実行させるわけにはいかない。

永倉は部下達の顔を見渡した。誰もが親や妻子を持ち、放射能の混じった水を地球で飲ませてしまっている。ゆえに気も狂わんばかりの思いで、なんとかせねばと思っているのだ。それも、一日も早く。

希望が〈ヤマト〉だけならば、狂気と知れた作戦に巻き込ませるわけにはいかない。とは言え、その一方で、磨いた腕を試してみたい考えもあった。自分が持つ艦隊が、実戦に於いてガミラス艦を果たして捕らえ得るのかどうか。訓練ではわからぬ何かを〈ヤマト〉と機略で知られる一佐は示してくれるのではないか――。

期待は見事に叶えられたと言うべきだろう。元より、この艦隊は〈ヤマト〉のような大型艦を捕らえることを想定しない。ゆえに勝ち敗けは問題ではない。百の訓練に優るものをこの一度のゲームで相手は与えてくれたのであり、これは必ず単なるデータ以上のものとなって後の実戦の役に立つ。そのためにもこれ以上の対戦を続けてせっかくの経験を積んだ部下を死なせるわけにはいかない――。

そして、理由は他にもあった。これは今後の士気に関わることなのだ。

自分が部下として預かる艦隊員の誰もがあの〈ヤマト〉には、己の兄や弟や、親しい者が乗り込んでいるかもしれぬと考えている。あれにはオレの友が乗って、〈イスカンダル〉とやらへはオレを救うためにも行こうとしているかもしれないのだと。

誰もがそう考える。そう考えずいられる者などただのひとりもいるはずがないし、本当に身内が〈ヤマト〉に乗っている者も何人かいるだろう。互いにそれは極秘であり、今は調べようもないが。

なのに、どうして今ここで部下に〈ヤマト〉の乗員を殺せと言えるか。〈ヤマト〉に砲を撃ったなら、撃たせた砲手の心は傷つき、兵として使えぬようになってしまうかもしれない。他の者にも影響し、士気の大きな低下を招きかねないのだ。

いや、『かねない』どころではない。間違いなくそうなるだろう。前線に赴く前からこの艦隊は前線に行けない艦隊になってしまうではないか。

事情は〈ヤマト〉の沖田も同じはずだった。ここで殺しをしたならば必ず旅に影響する。『まだやるか』と問うてくるのはだから沖田の永倉への目配せなのに違いないのだ。『互いに特務指揮官同士、部下の精神衛生により気を配らねばならぬ身だろう。どうする、士気を落としていいのか』という――。

永倉にはそれがわかった。どうするもこうするもない。この敗北は自分には願ったり叶ったりでさえあるのだから。

〈ヤマト〉を逃がせば懲罰は必至。しかし、この結果ならどうだ。残る二隻もエンジンはすでに限界であり、どのみちもはや無理は利かない。〈ヤマト〉の乗員を殺すわけにもいかず、戦艦相手に殺し合いではそもそも勝ち目はないと判断したと言えば、上に申し開きもできる。〈ヤマト〉が去っていってしまえば、頭のネジが飛んでいる会議室のヘボ将棋指しどもも〈メ二号〉の誤りをあらためて認めることになるだろう――。

「通信長」永倉は言った。「あらためて〈ヤマト〉に電信だ。『必ずの帰還を祈る』と」

「はい」

その後は、もう堪えきれなかった。クックッと声を出して笑い出したが、それは副長も同じだった。それは艦橋に広がって、やがて全員が声を上げて笑っていた。