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【弱ペダ】ぼくのすきなせんぱい

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『巻きちゃん、元気か?』
「何の用だヨ。毎日毎日電話かけてきやがって」
 巻島裕介は不機嫌な声で電話の向こうに答える。機嫌を損ねるくらいなら応えなければいいのに。一応向こうの話すことを聴いているらしい。律儀な人だ。傍で巻島の対応を洩れ聞いていた小野田坂道は、くすりと笑う。
 巻島さんは、親切な人なんだなぁ。今日も後輩の買い物にわざわざ付き合ってくれている。
『インハイで俺と勝負するのだからな! 万全にしておけよ。風邪などひくんじゃないぞ』
「お前はお母さんか!」
 風呂のあとは髪の毛をちゃんと拭けだの、バランス良く栄養を摂れだの、ストレッチを欠かすなだの、携帯から大きな声が聞こえるのを、巻島がうるさそうに怒鳴って切った。
「悪ぃな」
「どなたですか?」
 つっこんで聞いてもいいものか、迷う間もなく問いが口をついて出た。しまったと思ったがもう遅かった。
「あー。別のガッコの奴ショ」
 がりがり、と頭を掻きながら少し逡巡して答えてくれる。だが、壁を感じる。坂道にとってはもっとも関わりの深い先輩だ。個人練習で一緒に山を登っている時は楽しいし、頼りになるし、良いのだが、普段はそれが嘘のように距離がある。出来ればもっと近付きたい。ええと、何かもっと喋らなきゃ。
「やっぱり強い人は、スゴイですね」
 坂道の言葉に、巻島がきょとんとした。
「ライバルでもありながら、ああやって気遣う電話をかけてくるなんて。勝負する相手の力を認めているからこそ、全力をもって迎え撃つ。それが礼儀。いや、それはもう厚き友情ってやつですよね!」
 大好きなアニメの中の登場人物を思い浮かべて、ぐっと拳を握った。
「厚き友情? んなもンねーショ」
 え、でも。坂道の言葉を巻島がムッとした顔で否定する。
「山のてっぺんを獲る。俺が。一番に。その邪魔をするヤツはライバルショ。敵だ。クライマーに限らず、ロードレースを走るやつは皆そう思ってる。誰にも前は走らせねぇ、ってな。だから競争するんショ。そんなヤツラが大勢居る中で、何度も見かけるやつがいる」
 ふと巻島が口を僅かに緩めた。
「しつこく何度でも勝負するヤツがいる。いつも顔を突き合わせるから、挨拶くらいはするっショ。だけど、誰だろうと俺の前は走らせねェ。それだけショ」
 巻島はそう言い置いて、スポーツショップに入っていく。少し怒ったような言い方だが、微かに親しみの色もあったような気がする。憧れの巻島にそこまで言わせる電話の主は、どれだけすごい男なのだろう。
「どーした?」
 ついて来ない坂道を、自動ドアの向こう側から巻島が気遣うように見てくる。僕は……。
「あ、いえ」
 ごす。
 店に入ろうとした坂道のこめかみを、反応し切れなかった自動ドアのガラスが挟んだ。
「あっ! あわっ? いたっ!」
 この店の自動ドアは反応が遅いらしい。古いのだろうか。少し開いたと思ったら、すぐに閉まって来るガラス戸に頭の両脇を何度も挟まれて痛い。
「またオモロイことしとるな。落ち着きや、小野田君」
 かっかっか、と鳴子章吉が笑いながら自動ドアに近付く。ぐいぐいと無理矢理扉を開けてくれたお陰で、やっとまともに反応してガラス戸が開いた。
「有難う、鳴子君」
 鳴子に手を引かれて、よろよろしながら店内に足を踏み入れる。巻島が呆れたような顔をしていた。恥ずかしすぎる。
「普通は挟まれないだろ」
 巻島の隣に立っていた今泉俊介が、しょうがないな、と苦笑いを洩らした。
「大丈夫か?」
 あー、と巻島が戸惑った顔で聞いてくる。呆れられてる。こんな調子で今日の用事、上手く済ませられるだろうか。
「ハイ! スイマセン、お待たせしちゃって……」
「いや、それなら良いショ」
 行くぞ、と踵を返して巻島が階段を上がり始めた。
「今日はシャツの替えやな」
 鳴子も目的が決まっているらしい。坂道も練習用のウェアをもう少し揃えるつもりで来た。練習で使うウェアは、上のジャージに関しては自分の好きなものでも構わないし、総北高校の銘が入った練習用のジャージを買うことも出来る。一方下のレーシングパンツとやらは個人の好みで良いらしい。
 ウェルカムレースのすぐ後位までは学校指定のジャージで誤魔化していたが、それも練習で何度も転んだりペダルやギアに引っかかったせいで、早々に穴が空いてしまった。
「何したらこんなにすぐ穴が空くの?」
 部活なのだ、自転車競技部に入ったのだと何度説明しても理解してくれない母に文句を言われた。その段階でもう説明そのものを諦めたかったが、恐る恐る専用のウェアを買いたいと言ったら、「最近のアニメ部は着る物まで揃えるの? 随分大げさなのねぇ」などと更に不思議そうな顔をされた。そう返されて、母がこの先正しい認識をしてくれる日など来そうにないと、へんな確信を持ったくらいだ。どう理解したのか判らないが、それでも専用のウェアを買う資金を貰えたのは有り難かった。
 坂道も最初は『寒咲自転車店』に行けばどうにかなるのではないかと思っていた。一着目のレーサーパンツは良く判らずにそこで買ったからだ。今回もそのつもりだったが、同級生であり同店の看板娘であり、かつ自転車競技部のマネージャでもある彼女によれば、一般的なスポーツショップに比べて品数が少ないと言う。取り寄せも頼めるがいずれにせよ定価のみで、大型スポーツショップのように割引出来たりするわけでもない。特別に拘るブランドや商品ではなく、更に練習で繰り返し使ってすぐにヘタれてしまうものならば、取り扱いの広いスポーツショップの方がお財布にも優しい、と薦めてくれた。
 その買い物に会員であり、かつこの時期だけの割引券を持っているという巻島が同行することになり、それを話したら今泉と鳴子まで増えた。どうせならと杉元も誘ったが断られてしまった。彼はどうやら行きつけのショップで揃えることにしているらしい。
 目当てのフロアで鳴子と今泉は早速自分の目的の品を見に行った。二人ともアンダーシャツと言うのを見に来たらしい。体操着の延長みたいな格好でも良いかと思っていた坂道には、まだまだ未知の世界だ。
「なんや、スカシ。俺の真似すんなや」
「そりゃお前だろ。寄るな、また勘違いされる」
 店の中でもお構いなしに言い争いをしている。寄ると触ると喧嘩ばかりの二人に、行動が似ていると言ったら一緒にするなと怒られそうだ。最近は学校内で自転車競技部期待の一年生「コンビ」として見られているのが、甚だ不本意らしい。
「小野田、こっちっショ」
 ぎゃあぎゃあとやかましい二人を見送っていると、巻島がついてこい、と手招きをした。部活の一環だけれど、練習でもなく学校での姿でもない巻島を見るのは初めてだ。なんだかドキドキする。変なの。
「俺が先に目ェつけとったんやぞ、横取りすんな」
「知るか。俺が先に手に取ったんだ。お前は子供用で十分だろ」
「子供ちゃうわ。ボーボーの大人やっちゅーねん。証拠見せたろか! 鳴子章吉様ご開帳やで!」
「バカか! 見たくねーよ!」
 シャツはすぐ裏の棚だ。イヤでも鳴子と今泉の喧嘩が聞こえてくる。
「しょーがねーな、アイツら」