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ライフゴーズオン

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青いキングダム


鬼龍院羅暁の野望が潰え、纏流子が神衣鮮血を失いながらも地上に帰還した数日後、本能字学園――校舎は破壊され荒れ果てたままであったが――の校庭には全校生徒が集結していた。
「生徒会長、鬼龍院皐月様のお言葉である!」
風紀委員長・蟇郡苛の大音声はいつもの通り。そう、学園施設が荒れ果てたままなのと皐月以下全校生徒が一様に無星の制服を纏っていること以外は、ほんの少し前と変わらないいつもの集会と同じだった。
「生徒諸君、この度の戦い大儀であった。改めてこの鬼龍院皐月、礼を言う」
眉根を寄せず穏やかな表情ではあるが依然として凛とした皐月の声は、全校生徒をどよめかせるに値するものだった。絶対的な学園の君臨者で、最下級の無星であれば視線を合わせることさえ畏れ多いとされたほどだった生徒会長が、全校生徒に頭を下げたことなどこれまで一度たりともなかったからである。しかし続く言葉の衝撃に比べればまだあまりにもか弱い衝撃でしかなかった。
「本能字学園は、三月末日を以て閉校とする!」
どよめきがぴたりと止んだ。想像を上回る衝撃を受けると人間は無反応になる。生徒会四天王および裁縫部部長・伊織糸郎、そして纏流子と満艦飾マコ以外の全員にその現象が起きていた。
「え、えーっ! 閉校ってことはこの学校なくなっちゃうってことだよね、どうしよう流子ちゃん、マコ高校中退になったらどこの学校にも入れてもらえないよー!」
「マコ落ち着けって、まだ話は終わっちゃいねえよ」
「静かにしろ満艦飾、皐月様のお話はまだ途中である!」
流子にたしなめられ蟇郡に怒鳴られ、マコは口を尖らせながらも静かになった。一息分の間が空き、再び皐月の声が校庭にこだまする。
「一、二年生については他校への編入を斡旋する。正式な手続きについては順次進めていくので各々連絡を待て。また、学園閉校に伴い本能町も閉鎖する。住居移転についても追って手続きを取るのでこちらも連絡を待て」
氷が溶けるように生徒たちのひそやかなざわめきが流れる中、流子はふっと笑みを浮かべた。
「全く、鬼龍院皐月ってのはすげえ女だよ」
「なんか他人行儀だよ流子ちゃん。皐月様は流子ちゃんのお姉さんじゃない」
皮肉気にひとりごちた流子にマコが不思議気に問うた。
「そうじゃねえ、感心してんだよ。本能字学園は姉さんの王国だったんだ、王様のいない王国ならなくなっても不思議じゃない。でもここで鍛えられた奴らなら大概の場所でやってけるさ。だからお前も心配すんな」
「りゅーこちゃぁん、もし学校離れちゃったとしても、わたし流子ちゃんの親友だからね、ずっと、ずっと親友だからねえ!」
「纏! 満艦飾! 何度も言わせるな、皐月様のお話の途中だ!」
流子に縋り付く、というより絡みついているマコに再び蟇郡の怒号が飛んだ。
「一週間後授業を再開する。それまでは仮校舎設営のため校舎及び敷地内の立ち入りを禁じる。本日の全校集会は以上だ。解散!」
「か、解散!」
マコを怒鳴った直後に皐月より下された解散宣言を蟇郡は慌てて繰り返した。流子とマコも生徒たちの下校の列に加わった。校門付近で流子は振り返り、皐月がいた高台を見たが、すでにそこには皐月の姿はなかった。
「はあ、おなかすいたねー流子ちゃん。お昼はきっとコロッケだよ」
「ああ、楽しみだな。今日は中身に何入れてんだろな」
マコの声に再び外へと歩き出す流子の鼻先を一陣の風が掠めた。街頭の時計はもうすぐ正午を指すところ、心なしか、まだ感じられるはずのない満艦飾家の台所のにおいがしたように流子には思えた。


作品名:ライフゴーズオン 作家名:河口