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ライフゴーズオン

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真夜中の玉子


黒井戸滝司は鬼龍院家の筆頭執事として長い間働いてきた。当主のため、鬼龍院家のため、彼らが代々受け継いできた使命のため。
しかし仕えてきた当主・鬼龍院羅暁の代にて果たされるはずだった使命は羅暁の実の娘である皐月と、生き別れたもう一人の娘流子によって阻止され、羅暁は自害した。残されてしまった我々はどうなるのか。黒井戸始め使用人は囁きあった。
皐月の反逆はひそやかに計画されてきたため使用人のほとんどが羅暁に従っていた。とは言え羅暁が受け継いできた使命についてきちんと把握していた使用人は一握りに過ぎない。殆どは何も知らずに従ってきただけの者たちだ。当主が皐月に代わったところで引き続き忠実に従うだけだろう。
しかし側近となると話は違う。特に黒井戸は羅暁に近しい場所におり、このまま安閑と現職に留まれるはずもない。かと言ってこの年齢で一体どこに行けというのか。
結論を出せないでいるうちにその日はやってきた。

「本日より鬼龍院家の筆頭執事は揃だ。黒井戸、長らく鬼龍院家によく仕えてくれた。暇をやろう。少しゆっくりして、次の人生を歩め」
成人にも満たない現当主は黒井戸の雇い止めを通知した。
「そんな、皐月お嬢様、私は今まで忠実にお仕えしてきたつもりです。まだまだお勤めする気持ちはございます」
「お母様に忠実に、な。実に忠実だったよ。命令とあらばお父様を殺そうとする程度にはな」
ぎくりとした黒井戸の背中を冷汗が伝った。確かに羅暁の命令で、皐月の父親であり羅暁の元夫であった装一郎をカーチェイスで追い詰めて事故と見せかけて殺した。実際は装一郎に一杯食わされ、結果的に死を偽装する手助けをしてしまったのだが、結果よりも行動が今は問われている。父親を殺そうとしたお前を許さない、と皐月が滲ませた意思に黒井戸は知らず膝を震わせていた。
「皐月様、その件に関しまして今更申し開きは致しません。鬼龍院家を守るためには綺麗事だけでは到底足りません。手を汚す者が必要なのです。お家の不利益になる場合はお嬢様のお父上であろうとも消えていただかなければならない、そうして守らなければならないほど鬼龍院家とは偉大なる存在なのです。そう、私はただ忠実に仕えてきただけで」
「笑止」
羅暁の死後、今まで張りつめていたものが切れたのか険が取れて優しくなったと使用人の間でも評判だった皐月の表情と声音が、以前のものと同じ冷徹さを帯びた。
「お母様もかつての私もこう言っていた。『人間は服を着た豚だ』と。しかしもうお母様はいない。人間はもはや服の奴隷ではない。服を着た豚はこの家には要らない」
冷たい口調の中の燃えるような激しい意志に黒井戸はただ気圧されるばかりで、膝の震えは全身へと広がっていた。
黒井戸の動揺を意に介さず、皐月はこれ以上の反論は認めないと言外に匂わせながらも、傍目には長年の労をねぎらっているようにしか聞こえない程度の柔らかさで最後の言葉を掛けた。
「今までご苦労だった。執事としてはお前は実に優秀だった。次の勤め先もじきに見つかるであろうよ」

日もとっぷりと暮れた頃、少し大きめのトランク一つに私物を収め黒井戸は鬼龍院家の屋敷を後にした。次の就職先も見つかるだろうと皐月は言ったが、住み込みの執事だった黒井戸はこれから実質ホームレス生活を余儀なくされることになる。
「この先、どうしたものか」
とぼとぼ歩いては立ち止まり、また歩いては溜め息をついた黒井戸の視界に人影が映った。
「こんばんは、黒井戸さん」
柔らかくも芯のある女性の声だ。しかし本来ここにいるはずのない人物の声でもあった。
「ほ、鳳凰丸っ……!」
羅暁の秘書であった鳳凰丸礼だった。神羅纐纈のコアとして取り込まれたのち、神衣鮮血の疾風閃刃によって纐纈から分離され放り出された彼女は普通の人間であれば生きていないはずだった。
そう、『普通の人間』であれば。
「皐月様に放逐されたようですね。無理もない、あの方がお父上を殺そうとしたあなたを手元に置いておくわけがない」
「お前、まさか、生きて……」
「ご覧の通りですよ。私がこうしてここにいる以上、羅暁様の御意志も生きている。まだすべてが終わったわけではないのです。御協力いただけますね?」
穏やかな口調と微笑み、何も知らない者が見れば可愛い女性にしか見えないだろう。しかし鬼龍院家の奥深くに関わり仕事をしてきた黒井戸には彼女が何者か、そして自分に何をしようとしているかよくわかっていた。
「御協力、いただけますね?」
鳳凰丸は上着のポケットから布を取り出した。小さなタキシードの形をしたそれはみるみる大きくなり、黒井戸の身長の倍ほどにもなった。布型COVERSの袷の向こうに広がる謎の空間から赤い糸が黒井戸へと延びてくる。
「ヒイッ……うわ、わ、わああああ!」
赤い糸は黒井戸を絡めとると収縮し、黒井戸を呑みこんだCOVERSは布型から人型になった。
「まず一人、とは言えまだまだ足りませんねえ。羅暁様、必ずわたくしが御無念お晴らし致します」
鳳凰丸は人型COVERSを従え、夜の闇へと姿を消した。


作品名:ライフゴーズオン 作家名:河口