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wishful thinking

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ゆさゆさと肩が揺さぶられる。

「起きて、アスカ」

ゆさゆさと意識が揺さぶられる。

「遅刻、するから」


あ、そうだった今日日直だった。

「アスカ、……起きてる?」

「あー……いあいおはよ」
「うん。おはよ」

レイは私が起きたのを確認すると、ドレッサーに向かって髪をとかしだした。初めて会った(見た?)時は随分さっぱりとした色気のないショートだったけど、今ではもう肩より大分下まで伸びた。アルビノらしいプラチナがふわふわと揺れている。
昔は短くて誰も気付かなかったが、伸ばすと緩やかに毛先にカーブが付いていた。あたしはその淑やかさを「いいな」と言ったけど、レイはあたしの毛先を指に巻いて顔を真っ赤にして「……まっすぐな方がいい」と呟いた。あたしだって純粋な日本人みたいなまっすぐ髪じゃないんだけど。

どうやっても仲が良くはなれなかったあたしたちが、あの瞬間仲良くなった。友達になれたんだと思う。少なくともあの瞬間から、あたしの中の順位はレイが1位になった。

「…アスカ」
「んあ?あら可愛いじゃない」
「そ、かな」
「はいはいとりあえず背筋ピンて」

鏡で後頭部を見ようと、レイが左右に揺れる。今日は頭の上側の髪だけをリボンで結んでいる、エヴァに乗らなくなってから、レイはすっと背が伸びた。性格は『無愛想』から『極度の人見知り』位には良くなったけど、その分猫背がひどい。もったいない。あたしは全然伸びない。うらやましい。
そういや、うちの駅の前にかわいい店がやっと出来たので(ネルフの方まで行けばそれなりに店はあったけど)こないだの放課後にあたしとレイと、ヒカリと行ってきた。細々としたかわいらしい小物がキラキラ所狭しと並んでいて、結局3人で色違いでお揃いの時計を買った後、ヒカリとあたし『レイの高校デビュー記念』にキラキラよく光る、でもちょっと大人っぽいペンダントをあげた。シンプルに少し薄い青の宝石が付いただけのトップだけど、使い回しがきくと思って。
鎖が細いので日常的にも使えるし、日本の高校にダンスパーティーがあるのかはわからないけど、そのくらいなら申し分ない感じ。レイは「お守りだから」と言って、普段から制服の下につけてくれてる。

妹はいないからわかんないけど、いきなり妹が出来たみたいで毎日が楽しかった。
二人ともシンジが好きだって、二人ともわかってる。(というかあたしがやっとバレた)だけどだからどうだって感じでもなく、出し抜くわけでもなく(あたしは出し抜かれていいんだけれど。さっさとつき合えと思う)日々が穏やかに過ぎていく。

「アスカ、髪」
「うわー」

ぐしゃぐしゃというかもうホウキみたいだ。あたし別にパンクの人じゃないんだから、おっ立てなくていいのに。レイは髪を伸ばして、あたしは髪を切った。自分が思ってた以上に、あたしは『エヴァにのること』に固執してたらしい。
エヴァが凍結された日、多分人生で一番寂しがった。
失恋じゃないけど。

その日は気を使ってくれたのかミサトも早く帰ってきた。
ヨーロッパのとは少しばかり風味の違うビールを水代わりに、ミサトにぽつぽつと話してたら、髪を切ろうみたいな流れになった。どうしてそうなるのかはわかんないがそういうもんらしい。流石に不器用な上に酔っ払いのミサトに切ってもらうのは怖かったし、自分で切ろうにも後ろは見えないし、シンジを叩き起こして切ってもらった。
星がきれいな夜だった。

「なんで、俺なの」

と言いながらも、さっきまで寝てたとは思えない程リズミカルにはさみが動く。ベランダの床に、少しずつ髪が落ちていく。昔のレイよりちょっと長いくらいにしてもらう。

「あんたが一番器用じゃない」
「…そうかもしれないけど」
「あんたの指とセンスと実力は信頼してるってことよ」
「………。」

こいつはレイが好きだから、不本意だろうけど。

さっさとレイとくっつけばいいのに、何故かいろんな人に遠慮して未だにだんまりだ。中学の時は、否応なしにあたしと夫婦扱いされてしまったので、高校にあがってからはなるべく寄りつかないようにしていた。
そもそもネルフの監視がべったりつかないのであれば、あたしはヨーロッパに帰ろうと思ってた。エヴァ自体が極秘機密の固まりみたいなもんだから、口外されたくはないらしい。来日前と同じ待遇ならともかく、流石に軍隊あがりみたいなのに毎日監視されるのはイヤだから、監視の話が出た時点でおとなしくこっちの高校に入ることにした。



あっと言う間に制服着て、朝ご飯は…いいや、中休みに食堂いこ。
びっくりするくらい軽い革靴を履こうとしたら、食パンくわえたレイもついてきた。

「あんた日直じゃないでしょ」
「アスカと一緒に、いく」

どうでもいいけどこの子、なんで素の食パンそのまんま食べれるんだろう。
昔はほとんど何も食べられなかったけど(同室になった初日はまだ薬をざらざら飲んでたけど、最近はほぼ飲んでいない。初日に夕飯食いっぱぐれたあたしがコンビニのパンかじってるのを見て、欲しそうだったから半分こした。消化器官がほぼ使われてなかったからかまだ消化のいい物しか食べられないけど。)最近は少しずつ食べるようになってきた。赤城博士曰く『以前は食べたいとも思わなかったけれど今は違う。欲求は人を変えるのよ、科学の力なんか思いも寄らないくらいに。』だそうだ。
そんなもんだろうか?

今日のレイは大荷物だ。

「今日アンタ帰りは?」
「ん、今日はなんにもない」
「あれ、そうなの?荷物多いけど」
「授業で、使うの。今日からテニス、やるから。」

ああ、そうだ前半クラスは後期からテニスだ。
この残暑厳しい中でテニスはちょっとごめん被りたい。でもあたしは後半クラスだから、後期(というか年末)にプールだ。髪きったからまだ良いけど、それでもどっちもどっちだな、うまくいかないな。

「あそ、日焼け止め欲しけりゃ取りにきなよ」
「うん。休み時間に行く。帰り、一緒に。」
「あたし今日日直だから、迎えにきてよ」
「・・・うん!」
「ていうかあんた、マイラケット持ってたのね」

担いだスポーツバックは、ラケットの形にふくれている。
この子そんなにスポーツ好きだったかしら?

「伊吹二尉がくれたの。」
「・・・はあ」
「大学で、やってたけど新品だから、て」

まあ確かに、テニスサークルとか入りそうではあるけど。
しかしそんなのがあるんなら貸してくれても良かったじゃないかと思ったが、いかんせん片目では球技がびっくりする程やりづらい。当然ながら結果は散々だった(さすがに目のことがあるから成績に響きはしないだろうけど。)。それでマイラケットなんて持ってた日には惨めにも程があるから、やっぱりいらなかったわね、うん。

まだ玄関には人気がない。朝練もそろそろ終わるだろうから、今だけの静寂だとは思うけど。

「じゃ、あたし職員室行くから」
「うん。・・・あとでね」

白い髪をふわりとゆらして、レイは階段を上っていった。
一日が、はじまる。


作品名:wishful thinking 作家名:ik_brtr