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かじみちつめ

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20XX/11/22



医局にいる加地は帰る準備をしていた。顔に表情は浮かんでいないが、いつもよりも動きが速い。
「あれ、加地先生、今日はお急ぎですか?」
同じ外科の医師が声をかけてきた。
「……別に」
一瞬ためらったあとにそう短く答え、スーツ姿に青いマフラーを巻いた加地はカバンを持って自分のデスクから離れた。
「じゃあ、お先」
加地は部屋の外へと歩いて行く。早足だ。
さっき声をかけてきた医師はなんとなくその加地のうしろ姿を眺めている。
そんな彼に、加地が部屋から出て行ってから、別の医師が話しかけてきた。
「今日、もうひとりの加地先生が帰ってくるらしいよ」
「あー、なるほど」
ふたりは顔を見合わせて笑った。

加地は自宅のドアの鍵を開けて中に入る。
玄関には灯りがつき、女物の靴があった。
それを見て、加地はほっとする。
廊下を進んでダイニングルームに向かう。
ダイニングルームにも灯りがついていて、そして、ソファには人がいる。
未知子が加地のほうを向き、手をあげた。
「よっ、おかえりー!」
陽気に告げるとともに、笑顔をはじけさせた。
加地は自分の中からわいてくる嬉しさを抑えようとして、でも、抑えきれずに、表情を崩した。
笑って、言う。
「ただいま」
それから。
「おかえり」
加地の声は優しくなった。
未知子は満足そうに笑う。
加地は未知子へと近づきつつ問いかける。
「世界一周オペの旅は楽しかったか?」
未知子は豪華客船で行く世界一周百日間の旅に船医として同行していたのだ。参加者は定年後の年配の者が多いし、客が船から降りて各国の観光地に行っているあいだ未知子はその国の病院を見学していたらしい。それに、未知子は行く先々で事件が起きるタイプなので、腕を振るう機会は何度もあっただろう。
「うん、楽しかった!」
子供みたいに明るく答えたあと、未知子は続ける。
「話すと長くなるから、そのまえに、背中に隠しきれない物が見えてるよ?」
「あ、ああー、うん」
バレバレなのは自覚していたものの、いざとなると、やっぱり、なんだか照れくさい。
加地は背中のほうにやっていた物を未知子のほうに差し出す。
バラの花束だ。
未知子はソファから立ちあがり、加地に近づいた。
「今日って、なんか記念日だっけ?」
「今日は十一月二十二日だ」
「うん」
「……だから、いい夫婦の日だ!」
照れくさすぎて苦い顔をして加地が言うと、未知子は吹き出した。
「あなた、そーゆーのホントに好きね。誕生月は年に一回しかないけど誕生日は年に十二回あるって言って、月命日みたいなやつとか」
「月命日言うな」
「でも、まあ、嬉しい」
未知子は加地から花束を受け取った。
「ありがと」
しっかりと加地を見て、笑顔で告げた。
加地は不意打ちをくらった気分になる。
嬉しいと言ってもらえて、笑顔で感謝してもらえて、嬉しい。
顔が異常ににやけてしまいそうになるのをどうにか抑えながら、加地は幸せを噛みしめていた。




作品名:かじみちつめ 作家名:hujio