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靴ベラジカ
靴ベラジカ
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魔法少年とーりす☆マギカ 第三話「ジュネーヴ・ルビー」

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ときわ町中央通り。
東と西、外交の玄関口であった港町時代のレトロモダンを色濃く残す優美、ときわ町の栄華の残滓である。
交通量が多く、普通車の車列を切り裂いて行き来する、古き良きサロンの様な趣のクラシカルなトロリーバス。 それはときわランドマーク目当ての観光客のみならず、貧富の差を超えた地元住民達の足でもある。
とある停留所に向かうセーラー服4人。 そんな光景も、ときわ町の通勤通学ラッシュではごく日常的なものだ。

 「特徴を覚えていないのでは仕方ありません、口惜しいですが回収は諦めましょう」
 「はあ。本当にごめん、ごめんね…」
魔法少年の先輩にトーリスは詫びるしかない。 連絡通路に戻った時には、もうグリーフシードは影も形も無かった。 総出で辺りを探したがそれも徒労に終わり、結局意味の無い消耗だけが成果となってしまったのだ。
ティータイム― と言ってもローデリヒはコーヒー派のようだが、兎に角、勉強会の息抜きの為に彼が持参した、甘味と濃厚さが過ぎる手作りチョコケーキの後味。 ローデリヒにとっては単に、好物を味わう幸せを共有した、彼ら【魔法少年十字軍】の結束を確かめる些細な儀式の痕跡であったとしても。 それがトーリス自身の手落ちの重みを、必要以上に強調してしまっていたのかもしれない。 仲間に恩を何一つ返せない無力感。 やや青みを帯びた碧眼には、そればかりが浮かんでは消えていく。
 「じゃあ私はこれで。 フェリクスちゃん、トーリスさん、何かあったら呼んでね」
進路の途中でエリザベータは一礼し、道路沿いのマンションへ去って行った。 先の戦いで自分がどんなに力を振り絞っても倒せなかった相手を、仲間達はいとも容易く滅ぼした苦い記憶。 自分の力はあんな美人の女子にすら負けるなんて。 何の特技も無い少年にとってその劣等感は手痛いものに違い無い。
 「弱くても強くても、トーリスはカッコイイから俺はいいし」
らしからぬ親友のフォローが沈んだ気持ちに染みる。 辺りはもう暗く、中央通りから数本進んだ道にもう繁華街の雑踏はなかった。 安かろう悪かろうのときわハイツとは格の違った、閑静な高級住宅街。 丁度夕食時である今頃は人通りも無く、品の良いガス灯風の街路灯は、さながら整列した蛍のように、立ち並ぶ豪邸を控え目に浮かび上がらせる。 少年達が真新しいバスシェルターに辿り着くとほぼ同時に、撹拌されていた逃げ水は、ときわトロリーバスの車体にすり寄った。
 「疲れているでしょうし、今日のパトロールは止めにしましょう。 では」
屋根のない二階客席への階段を登り、踊りでローデリヒは一礼した。 トロリーバスは次の停留所へ向けて走る。 眼鏡の少年は暫く二人を目で追い、やがて適当な席に腰掛ける。 次第に小さくなる斜影。 バスシェルターにはトーリスとフェリクスの二人のみ― いや、いつの間にかそこに居た、時刻表前のベンチに胡坐をかく野球帽の若い男。 それが二人に馴れ馴れしく、なおかつ他人事の様に世間話を不意に投げ打つ。