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靴ベラジカ
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魔法少年とーりす☆マギカ 第十二話

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敬虔なクリスチャンの両親を見て育ち、その両親が死の間際、自身の息子と目に見えぬ【天使】が契約を、 …後の、深緑の魔法少年がギルべぇと、魔法少年となる契約を交わさんとする直前に放った言葉。

 《お前は、神の御許にない、神の愛をまだ知らない人達にも、等しく手を差し伸べてあげなさい―》
その言葉は、深緑を帯びた黒き宣教者。 【魔法少年宗教裁判】なる、無慈悲で全ての希望も絶望も虚無にせんとする、淀み一つ許されぬ異端審問を執り行わんとするアントーニョの、この暴虐へ至った行動原理の核心。 そして、魔法少年として今この瞬間を生きる為、自らの第二の心臓、自らのソウルジェムを輝かせる祈り。
 更に遡り、短い人生を散らし、死ぬまで魔女と戦い続ける対価に、【呪いを祓い、魔性を滅ぼす力】を望んだ、この短い一年を突き動かした、運命の歯車の内大きな一つとして、今も確かに少年の胸中で稼働している。

 「何しても無駄や」
純銀の拳鍔を威圧的に打ち鳴らし、深緑のジェムの怪物は、目前で構える緋の魔法少年十字軍を冷ややかに見届ける。 青々と茂る大樹の葉の様な濃い草色がレーザー光の様に鋭くチラついた。 徐々に音量を上げ、接近してくるバラック階段の足音。 何物かは判らない。
 新手か。 だが、新手であろうとなかろうと、全魔法少年を殺すと声高に宣誓した自称御使いがやることなど決まっている… 早く、一刻も早くこの悪魔を、人々を幸せにするために紡がれたであろう、聖なる祈りと教えを穢す者を、魔法少年を倒さねば…!
 緋と深緑の相見える環状のキリングフィールド周囲には、藍を帯びた鉛色が巨大魔女を蹂躙し、次々と肉片となって爆ぜていく様が続けて繰り広げられている。 地上には魔性が食い散らかした血肉が所々に散乱するのみ、巨大猛禽魔女の姿は見当たらない。
 魔女達の手番は終わった。 これよりはときわ町の魔法少年達、平穏と日常を守る為、今も儚き命を薪にくべ、一心不乱に戦場を駆け抜け進軍する、【魔法少年十字軍】の手番!
 《アルバ・ディ・スカーレッタ(緋色の夜明け)!》
フェリクスは猛烈な魔法の緋を右手に収束させ金属床を殴打! 鋭利な無情の緋の波状が波打ち、ときわランドマーク展望台上を、起立する黒服を、千切れた暗闇から光が差す常盤の世界を眩しく穿つ! 緋に照らされ黒く映る深緑は猛攻を意にも返さぬ! 僅かに身を傾け、額のサークレットに瞬く深緑を騎兵の垂直突撃から守り、ただ一つ、アントーニョは銀の一振り、それも一メートルも無い一振りを生み、呟いた。
 《サン・アンジー・エレナ(エレナの聖釘)》
厳格な意匠の華奢な銀色、一振りの剣が深緑の魔法少年の手を離れ、猛烈な緋の大波を― 緋の魔法少年が繰り出した強大な魔性の全方位殲滅の業の一辺を… 純銀は容易く切り開き、モーセが起こした奇跡の一欠片の如く緋の大海を穿ち、華奢な孤立少年十字軍の右手魔法装甲を引き剥がし、装束を裂き右掌を貫通!
 「うわぁぁア!?」
魔法力の放出を中断、フェリクスは即座引き抜こうとするが、力が入らない。 激痛が走るが、この程度魔女の蹂躙に比べれば蚊に喰われた様なもの。 だが、一向に右手に魔法が巡らない。 消し潰された魔法装束も再構築が未だに始まらない。 止血も肉体の再構築も始まらず、刃の根元、柄の近くまで貫通した純銀を引き抜く事すらままならない!
 平時ならほんの僅かに痛覚遮断の魔法を使い、掌を穿った剣一本など容易く引き抜ける程度の負傷。 しかし肝心の右手に力が全く入らない。 魔法力も流れず、治療の魔法すら巡らないのだ! もがき苦しみながら純銀を引き抜こうとする左手から、肉が焼ける様な蒸発音。 柄から手を離すと、魔法装束の手袋は焼け焦げた様に解けており、一拍置いて復元された。
 不法投棄の塵山を見る目でアントーニョは冷ややかに告げる。
 「めっちゃ痛いやろ? 俺の、そないいう魔法や」
冗談交じりに、清く儚い殉教者達の聖なる軍団を騙る魔性の葬列。 脳裏に浮かぶ【魔法少年十字軍】への恨みも後悔も隠さない自称聖人は侮辱し、冷ややかに嗤った。