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空跳ぶカエル
空跳ぶカエル
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わたしは明日、明日のあなたとデートする

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1.愛美



 ノックの音がしてドアを開けると早苗さんが立っていた。撮影のスケジュールがタイトに組まれた中の貴重な休みで正直なところ疲れていたが、つきあいが長い記者なので私は彼女に笑顔を向けた。
「ご無沙汰してます。今日はお忙しいところ、お時間を取らせて申し訳ありません」
 三十代も半ばを過ぎただろうか、初めて会った頃よりスーツのサイズも若干大きくなったような気がするが、柔らかい笑顔は変わらない人だ。
「ごめんなさい。実はこれからデートの予定が入っちゃって。だからそんなに長く時間を取れないかもしれないのよ」
「ああ、大丈夫ですよ。今日はそれほど込み入ったことを伺うつもりもありませんでしたから」
 とにかく、彼女を部屋に招き入れ、ルームサービスでコーヒーを頼む。
 あまり広いと却って居心地が悪いので安い方のスイートルームに滞在しているのだが、それでも四人くらいがゆったり座ってお茶できるくらいのソファーとテーブルがある。そのソファーに彼女を招き、冷蔵庫から買っておいた抹茶ロールを出してテーブルに出した。
「あら、そんな。私、今日は手ぶらで来てしまったのに」
 と彼女が恐縮する。
「いいわよ。たまには。気にしないで」
 ルームサービスのコーヒーも来て、テーブルが少し華やかなムードになった。
「さ、いただきながらお喋りしましょ」

 抹茶ロールを一口食べて、早苗さんが目を丸くした。
「これ、美味しいですね〜」
 しまった。コーヒーじゃなく抹茶にすべきだったかな。
「うん、美味しいでしょ。でも、もっと美味しい店もあったんだよ」
「え〜?どこなんですか?」
「うーん、その店はもうないの」
「そうなんですか〜。残念ですね。行ってみたかったな〜」
「私ももう一回行きたいなーって思ってるわよ」

「そうだ。あまり時間もありませんよね。少しお伺いしても良いですか?」
「もちろんいいわよ」
 コーヒーはコーヒーで合うな、と味わいながら答えた。
 彼女はバッグから手帳を取り出し、腕時計のボイスレコーダーをオンにした。私もコーヒーカップをテーブルに置き、チェアーに座り直して質問に備える。
「まず、今回は二年ぶりの映画出演になるわけですが、撮影は順調ですか?」
「ええ、順調よ。年を取るとスケジュールがきついのには参るけどね」
「あら。福寿さん、まだまだお若いですよ。今回は主人公の美穂子の三十歳から五十歳までを演じられるんですよね」
「そう。三十歳の美穂子の撮影はまだなのだけど、きっと大変すぎて特殊メイクになっちゃうわよ」
 ほんとは心労のせいで三十の割には老けている、という設定なのでそれほど物凄いメイクは必要ないはずなんだけど。
「そんなことありませんよ。だって四十歳の美穂子ならそのままで演じられそうじゃないですか」
 自分でも自信はあるが、それでもやはり嬉しい。
「ありがと」
「逆に五十歳の美穂子を演じるときは老けメイクが必要ですって」
「わかったから、話を続けてよ」
 彼女は笑顔を浮かべて手帳に目を落とす。
「美穂子って、二十歳の時に恋人を亡くしちゃうんですよね」
「正確には、美穂子の身代わりに異次元に閉じこめられちゃうわけね」
「生きてるのに会えないって、もしかすると死別より辛いですね」
 彼女は、原作をカフェで読んでいて号泣するという恥ずかしい目に遭ったらしい。
「映画でも、あの二人はもう会えないんですか?」
 彼女がソファから身を乗り出して詰め寄ってきた。
 生きているのに会えない。その言葉がチクッと棘のように心に刺さって、私は少しの間、言葉を失った。意識が遙か過去に飛ぶ。

「・・・福寿さん?」
 彼女が訝しげな目で、見上げるように私の顔を覗き込んでいた。
 何の話だっけ?
 ああ、そうだそうだ。あの二人が会えるかどうかだっけ。
「えっとね。原作ではあのまま二人は永遠に会えないのだけど、映画はすべて原作と同じとは限らないよね」
 彼女が目を輝かせたように見えた。
「でも、映画が原作のどこをどう改変するか、それは私から教えるわけには」
 私が全部言い終わらないうちに彼女が遮った。
「もちろんそうですよね。私、映画を楽しみにしています」
 それから頭をペンでこりこりと掻き、姿勢を正した。

「すみません。私の個人的興味が先走っちゃって」

「実は今、うちのメディアで福寿さんの総合特集をやろうということになっていて、そのために時間をかけていろんなことを伺いたいと思っているんです」
「私、今の会社に勤めて福寿さんの担当、みたいな形になってから十年しか経ってないので、その前のご活躍は一人のファンとしてしか存じ上げていないんですよね」
「それでこの際、福寿さんはあまりプライベートなことを表に出されない方ですけど、できるだけそのあたりも含めた取材をしたいということで、今日はそのさわりのようなつもりなんです」
 ここまで一気に喋って、早苗さんは私の反応を確かめるように少し上目遣いに、でもまっすぐ私の目を見た。
 私はその真面目な目を見て思わず茶化してみたくなったが、その気持ちを抑えて(でも表情には少し出てしまったかも)、姿勢を正した。
「はい。何でも聞いてくださいな」

「えっと、私、福寿さんのことを調べていて気づいたことがあるんです」
「おや。それは何でしょう?」
 少しおどけて返してみたが、彼女の口調は変わらない。
「福寿さん、二二三八年、つまり今から十五年前から急に出演のペースを落とされましたよね。二二二五年にデビューされてから二十八年の、その、えっと、何というか」
「・・・スキャンダル?」
「あー、はあ、それの前後でも年に二本から三本の出演ペースは変わっておられないのに、三十八年を境に、急に二年から三年に一本というペースに激減しているんです」
 一呼吸おいて、
「この時期に特にスキャンダルとか、つまりオファーが減る要因は見あたらないんです。出演された映画は相変わらず着実にヒットしていますし」
 私の目を見てきた。
「この時期に福寿さんの方で何か心境の変化とかがあったのでしょうか」
 私は、途中から彼女の声を聞いていなかった。いや、聞こえてはいたのだが、心は過去に見た光景を見ていた。
 轟音と共に激しく揺れる世界、瓦礫の山と化した街、充満する呻き声や悲鳴、四方八方で立ち昇る火と煙。そして瓦礫と炎の中から聞こえた微かな鳴き声。しがみついてくる小さな身体。抱きしめたときの頼りない手応え。
 この時刻に襲来することがはっきりわかっていても我を失うほどの恐怖の中で、私が自分を保っていられたのは、強い明確な目的があったから。

「・・・さん、福寿さん?」
 我に返った。現実に戻った私の目に、心配そうに顔を近づけてきた早苗さんの顔が大写しに映った。
「大丈夫ですか?顔色、悪いですよ?」
 心配そうに彼女が言う。
「ごめんごめん。ちょっと考えごとをしていたみたい」
「あの、私の質問がいけなかったんでしょうか」
 彼女の言葉に笑って首を振った。
「いいえ、違うのよ。ごめんなさいね」
「でも、」
となおも心配そうな彼女を遮る。