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空跳ぶカエル
空跳ぶカエル
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わたしは明日、明日のあなたとデートする

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 私がそう尋ねると、高志はデスクに設置されている大型のディスプレイの電源を入れ、最近あまり見なくなったキーボードを出して何か操作し始めた。
「今までにわかっていることを全部、パラメータにして僕らが作っている方程式にぶちこんで、それで予測したのを今、見せるよ。この数日でものすごく進歩したぞ」
 やがてディスプレイに、ふわふわと波打ちながら浮かぶ二枚の半透明の膜が現れた。
高寿がディスプレイを指差しながら説明する。
「こっちのブレーンが俺たちの宇宙、こっちは『京都』の宇宙」
「こんなの、私がこないだ高志から話を聞いて想像したのと変わらないんだけど」
 高志が苦笑する。
「傷つくなぁ。これでもこの絵、ありとあらゆるパラメータを突っ込んで、それをうちの教授二十人が一生働いてやっと買えるようなコンピュータに計算させたんだぞ」
「わかったから続けて」
「えっと、宇宙はもちろん三次元空間に時間が加わった四次元の時空なんだけど、空間を二次元に落として絵にしている。で、千年前からスタートするよ」
 ディスプレイの右下に、-1000と数字が表示されている。
 高志がキーボートで何かのキーを押すと、離れた位置に浮いていた二枚の膜が互いにゆっくり接近していった。やがて二枚の膜は重なり合い、何事もなかったかのようにすれ違って離れていった。二枚の膜が遠く離れたところでディスプレイの動きが止まった。ディスプレイの右下を見ると、そこには+200と表示されていた。
「え?これだけ?」
 私が思わず拍子抜けしたような声を出すと、高志は振り向いてにやりと笑った。
「これだけのわけがないだろ。これを計算させるだけで俺の月給くらいの経費がかかるんだぜ。それでこれだけだったら金返せ、だよな」
 そう言いながらキーボードを操作している。
「まずはスローで動かしてみるよ」
 ディスプレイに再び二枚の膜が表示され、さっきと同じようにふわふわ漂うように接近していった。重なり合う直前で動きがほとんど止まったように遅くなった。さらに高志がディスプレイを指で触れると、画面が一気にズームし、二枚の膜のごく一部が画面一杯に表示されるほどの拡大表示になった。
 二枚の膜はほとんど並行に見えるが、徐々に並行のまま接近し、やがて上側に見えている、さっき高志が「僕たちの宇宙」と説明した膜から「京都」と説明した膜に向かって、細いパイプのようなものが伸び、瞬時に「京都」の膜に接した。画面はそこで止まった。
「これが最初の二つの宇宙の接触。このパイプのようなものは二つの宇宙を繋ぐ『ブリッジ』と呼んでいる。このブリッジが繋がった場所が『ゲート』だね」
 高志がそう説明した。画面の右下を見ると、-200と表示されている。
「『京都』と繋がったのは二百年前が最初なの?」
 私が意外そうな声を上げたので、高志は手を止めて振り返った。
「実は、この二百年前というのは、こちらで設定した初期条件なんだ。はっきり記録に残っている『京都』が確認された年は、母さんも知ってるとおり百年前なんだけど、それより前にそれらしい痕跡はないかと思って、研究室の教官も学生も総出で史学の前田教授の研究室に調べに行ったんだ」
「で、前田先生の研究室で持っている古い文献を片っ端から読みあさったわけ。前田先生には、我々だけでやりますから先生の手は煩わせません、なんて断っていたんだけど、よく考えたら俺たち、古文書なんて読める人間は一人もいないよな。結局、前田先生はもちろん、教官も学生も総出で文書を読むのを手伝ってくれた。というより、文書は前田研究室のみんなに読んでもらった、って感じかな」
 相変わらず、そうやって人を巻き込むのは得意な男だね、あんたは。
「でも、大勢で一気に探したおかげで面白い記録が見つかった。二百年前の東都のはずれにある白羽という土地の領主の記録に、十日間行方不明になって帰ってきてから領主の娘を薄いガラス板に閉じこめる妖術を使った農民の話があったんだ」
 私を子供のような悪戯っぽい顔で見た。
「それって、カメラでその領主の娘とやらを撮影したように思えない?」
「うん。確かに。その頃向こうは二百年未来になるもんね」
「この記録を見つけたものだから、その前後は集中的に探したんだけど、残念ながらめぼしい記録は見つからなかった。それは二百年前に一度だけ『京都』とこちらが繋がったことを意味しているのかもしれないし、そもそもその時繋がったのは『京都』ではない別の宇宙という可能性すらゼロではない。でも、とにかく俺たちは、その時に『京都』と初めて繋がり、その後は今と同じように五年ごとに約五十日間繋がるようになった、と仮定したわけだ。そして、その仮定が再現できるようなパラメータを、この二枚の膜に与えてシミュレーションをしたってわけ」
「なるほど。それを動かして、二枚の膜が将来どうなるか調べてみるわけね」
 そこは納得したが、私はふと気になったことを高志に尋ねた。
「そういえば、その農民はどうなったの?」
 高志は私を見て肩をすくめた。
「妖術を使って人々を拐かした、という罪で斬首刑になってる」

 高志がキーボードを操作すると、二枚の膜が再びゆっくり動き出した。
 膜は間隔を保ったまますれ違うように動き、私たちの宇宙の膜から『京都』の膜に向けて、定期的に「ブリッジ」がぱっ、ぱっ、と瞬時に伸びて『京都』の膜に繋がっていた。
「このブリッジができる周期が五年、ブリッジが繋がっている時間が約五十日、というわけ」
「うん。わかる」
 ブリッジは二枚の膜の間に一定のリズムで、スパークのように出現と消失を繰り返していた。
 やがて二枚の膜の距離が微妙に離れ出す頃、高志がキーボードを操作して、再生をさらにスローにした。するとスパークのように繋がったブリッジの『京都』側の接点がゆらゆらと小さく動いているのがわかった。
「この動いているのが不安定、ってこと?」
 私がそう聞くと高志はそう、と頷いて再びキーボードを操作した。すると『京都』の膜にブリッジが接している様子が拡大表示された。
「表示の形式を変更した。この膜の横方向が『位置』を意味している。つまり本来三次元の宇宙空間を一次元に簡略化している、ということ」
「そして、膜の縦、つまり奥行き方向は『時間』を意味している。どっちが過去でどっちが未来か、というのは意味がないのだけど、要するにどちらかが過去で、その反対方向が未来を意味している。もちろん『京都』の時間軸でね」
 そう説明すると、高志はシミュレーションを再生した。
 私はブリッジが「京都」の膜に接している場所を集中して見ていた。するとその「接点」は小さくブルブルと震えるように膜の上を移動し始めた。最初は小さな動きだったが、しばらく見ているとやがて唐突に大きく振り回されるように動き、やはり唐突にふっと消えた。
 シミュレーションを止めて高志が言った。
「これが、二つの膜がすれ違ってしまった瞬間だよ」
 画面を止めたまま、高志が再び二枚の膜の全体が見えるまでズームアウトした。すると確かに最初に見た、二枚の膜がすれ違ってしまった瞬間であることがわかった。