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空跳ぶカエル
空跳ぶカエル
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わたしは明日、明日のあなたとデートする

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「じゃあ、中学を卒業するとき、それでもまだパパと暮らしたかったら、パパとママにそう言ってくれ。そしたらちゃんと美由紀がしたいようにさせてあげるから」
 ということは、美由紀にはまだ早いと思ってはいたけれど、ちゃんと話しておかなければ。美由紀はわかってくれるだろうか。
「美由紀。それともうひとつ」
 少し明るくなった顔の美由紀が、なに?という顔を向ける。
「パパだっていつか再婚するかもしれないんだよ?」
 美由紀の顔に不安が走った。
「もしかしてパパ、つきあってる人がいるの?」
 高寿は笑いながら首を振った。
「ううん。今はいないよ。でも、いつかパパもいい人ができて再婚するかもしれない。もちろんパパは美由紀と仲良くできないような人を選ぶつもりはないよ。でも、美由紀は、自分は邪魔に思われてないって、信じることができる?」
 美由紀はしばらく固まっていたが、こくっと頷いた。よし、第一段階はクリア。
「それともうひとつ。美由紀はパパとママが別れたのは、ママが浮気したからで、だから悪いのはママだと思ってるだろ」
「うん。だってそうじゃん。パパとママが離婚する一年も前からあの男とママがつきあってたの、わたし知ってるもん」
「うん。確かにそれは事実なんだけどな。でも、それでもパパがぜんぜん悪くない、ってことではないんだ」
「どういうこと?」
「パパにはずっと好きな人がいたんだ」
 驚愕、という表情で美由紀が目を瞠った。
「パパがもっと若い頃にすごく好きになった人がいて、別れてからもずっとその人のことを忘れたことはなかった。ママと結婚したときはその人のことを忘れられると思ったんだけど、まあ、つまり、結局はダメだったんだ」
「その人とはどうして別れたの?」
「それはこの話には関係ないし、さすがにそこまでパパも話したくない。そもそもこの話をしているのも『恥を忍んで』、ってやつだから。できればまだしたくなかったくらいだから」
「・・わかった。それで?」
「それで、パパにずっと好きな人がいる、ということを、ある時ママに知られてしまったんだ」
「・・・うん」
「その時、ママがすごく傷ついたのはわかるだろう?」
「・・・うん」
「ママが今の新しいパパとつきあい始めたのは、それから後のことなんだよ」
「・・・うん」
 これまでうん、うん、しか言わなかった美由紀が、高寿に質問してきた。
「パパはその人とは会ってなかったの?」
「別れてから一度も会ってないよ」
 正確には別れた後、十五歳、十歳、五歳の愛美には会ってるんだが、とても説明しきれないので。
「死んじゃったの?」
「死んだわけじゃないけど、もう会いたくても会えないんだ」
 すると美由紀が突然、顔を上げて高寿を見た。
「パパ。もしかして、そのパパが好きだった人って、エミのこと?」
 ああ、さっきの翔平といい美由紀といい、なんでみんなこうもカンが良いんだ。
「ああ・・・まあ、そうだ。エミのモデルはその人だよ」
「そのこともママは知ってるの?」
「うん、知ってる」
 すると美由紀は、テーブルに食後のオレンジジュースがあることに今初めて気づいたように、グラスに手を伸ばしながら言った。
「そうかあ。だからママ、わたしが家であれを観るのを嫌がるんだ」
「そうだね。パパがあの映画を創っているときは、ママからはパパが自分を捨てて昔の恋人の思い出に浸っているように見えただろうね」
 実際は、あの時高寿は、あの映画を制作することによって、愛美との思い出を清算するつもりでいた。五歳の愛美を助けることで二人の「運命の輪」は完成した。完成して高寿は、その輪の外側に出てしまった。そして結婚もして娘もできた。
 だから今の家族と生きるために、完成した「輪」を映画という形にしてしまうことで完結させよう、という気持ちでいたのだが、美由紀の母親に愛美のことを知られていたことを知らなかった。彼女が何によってそれを知ったのかは、話してくれないので未だにわからない。
 彼女に知られている、ということを知っていれば、高寿はその気持ちをきちんと説明しただろう。しかし高寿はそのことに気づかないまま制作に没頭し、気がついたときにはすべてが手遅れになっていた。

「どう?ママだけが悪い訳じゃないってことを、わかってもらえたかな?」
 美由紀が黙ってオレンジジュースを飲み終えるのを待って、高寿は聞いた。美由紀はその高寿の質問には答えず、グラスの中の氷を口に入れた。
「パパも、わざとではないけれど、ママを酷く傷つけた。もちろんママもパパをお返しに傷つけた。二人ともそうなる前は仲良くしようと努力したんだけど、結果的には残念なことになってしまった」
「美由紀にはママだけが悪い、って今まで見えていたと思う。他の周りの人も、ほとんどの人はそう思ってる。だからママはその分、辛い思いをしていてパパを恨んでいると思う。でも、美由紀にまで嫌われてしまったら、ママはきっととても寂しいと思うよ。ママのしたことは、決して褒められることじゃなかったかもしれないけどね」
 美由紀がそっと指先で目を擦った。
「ママを許してあげられる?」
 目を擦りながら美由紀が言う。
「まだわかんない」
「そっか」
「でも、ちょっとだけママを嫌いじゃなくなった」
「そっか」
 それでいい。後は多分、時間が解決してくれる。
「それでな、今話したことは、パパとママの間のことなんだ。美由紀のことは、それとはまったく別のことで、美由紀はパパにとってもママにとっても同じ娘だ」
「うん」
「だからパパが美由紀を決して邪魔には思わないのと同じで、ママも決して美由紀を邪魔には思わないよ。それは保証する」
「わたし、トイレ行ってくる」
 唐突に美由紀が席を立ってテーブルの間を歩いていった。
 高寿は今までの会話を思い返した。これで大丈夫かな。でも高校からは美由紀を引き取ることも考えておかなくてはならないだろうな。
 美由紀には自分たちのせいで辛い思いをさせて本当に申し訳ない、と高寿は思う。
 せめてこれからも、美由紀を全力で守ってやらなくては。

 トイレから美由紀が戻ってきた。高寿は、美由紀の目が赤いことに気づかないふりをして言った。
「今日の話、十二歳に話すようなことじゃないことも話してしまったけど、手に負えないことは負えないで良いから、とりあえず覚えておいてほしい。それで中学を卒業する頃、また気持ちを聞かせてほしいな。その時は美由紀のしたいようにさせてあげることは約束する」
「じゃあ、もうひとつ約束して」
「なに?」
「パパにいい人ができたときは、わたしに会わせて」
「美由紀の面接をパスしないと、パパはその人と結婚できない、ということ?」
 美由紀は笑いながら、でも真剣な目で頷いた。
「そういうこと」
 高寿も笑って、しかし真剣に頷いた。
「わかった。約束する」