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空跳ぶカエル
空跳ぶカエル
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わたしは明日、明日のあなたとデートする

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 最初は自分が置かれている状況が掴めず、なぜ私がこんな狭い部屋のベッドに寝ているのかわからなくて呆然としていたが、室内の電話機がさっきからしつこく鳴っていることにようやく気づき、受話器を上げた。
「福寿様でいらっしゃいますか。恐れ入りますが、もうチェックアウトの時刻を過ぎているのですが」
 申し訳なさそうな電話の声で時計を見ると、既に十時を十五分ほど回っていた。この部屋に着くなり食事もせずに寝てしまったのが午後七時を少し過ぎた頃だったはずだから、なんと十五時間も泥のように眠っていたことになる。
 フロントに詫び、すぐ出る、と言って電話を切り、大慌てで身支度を整えた。そういえばお腹もぺこぺこだ。
 ホテルをチェックアウトして、すぐ目に留まったお好み焼き屋さんに飛び込んだ。
 準備中、の札こそ下げていたものの、まだ開店準備の途中だった親父さんに、とにかく今できるのをすぐ!と頼んで、結局豚玉を二枚も食べた。考えてみれば、この前に食事したのは、こちらの世界に来る前の夜八時頃が最後だったので、まさにもうかれこれ二十二時間ぶりの食事だった。

 食事が終わったらもう昼近かった。午後三時半頃には「調整」が入るはずなので、どこに出かけてもその時刻には京都市動物園に戻される、ということなのだろうか。
 いや、そもそも百年間、宝ヶ池の裏山から動かなかった「ゲート」が違う場所に、しかも時間帯まで大幅にズレていたことを考えると、私が知っている法則などはもう通用しないのかもしれない。
 この状態では、「計画をたてて行動する」ということが何もできない。

 結局、「調整」が入ったのは、その日の午後五時を回ってからだった。
 もしかしたらもう元の世界から振り落とされたのか?と思いかけたが、あの高校生を思い出して「調整」は必ずあるはず、と思い直し、そんなこんなで午後三時を回ってからは不意に消えても大丈夫なように、あまり人目に付かない場所にいることばかり考えていたので、本当に疲れた。
 しかもだ。目の前の景色が瞬時に切り替わり、森の中にいることがわかったときは、てっきり最初にこの世界に出てきた時と同じ京都市動物園に移動したのかと思っていたが、実際は神社の境内にある森の中だった。
 通りに出ても場所がわからず、通りがかりの人に尋ねて、ようやくここが河合神社だということがわかった。道も聞いたが、京福電車の出町柳駅がすぐ近くにあるらしい。叡山電車はこの時代は京福電車だったらしい。
 念のため日付と時刻も尋ねたら、一九八三年八月二日午後四時十分と教えられた。
 日付はちゃんと一日過去に進んでいる。年まで聞いて、かなり怪しい人と思われただろうが、もうなりふり構ってはいられない。
 とにかく出町柳から京阪電車で三条まで戻ろうと思ったのだが、出町柳に京阪電車の駅がなくて愕然とした。そういえば昨日、京阪三条駅が地上駅になっていたのに驚いたが、よく思い出すと地上を線路が走っていたのに、三条からさらに北に向かう線路がなかったような気がする。
 とすると、バスか。出町柳駅の近くでバス停を探すと、三条河原町経由で京都駅行きの表示があるバス停があった。

 バスは河原町通りを南へ走っているようだった。私は右側の席に座っていたので、道路の反対側を見るともなしに見ていた。すると道向かいにある茶色の壁のビルから高校生らしい少年や少女たちが大勢出てくるのが見えた。その中に、昨日(明日か)私に声を掛けてきた高校生の男の子がいた。どうやらここが彼が通っている予備校らしい。女の子と一緒に歩いている。
 私は思わず苦笑いをした。彼が昨日怪訝な顔をしたのは、この日に女の子と「デート」しているところを私に見られたことを知っていたからだろう。いずれにしろこの先、彼とはどこかで接触することになるはずだ。私の名前まで知られているのだから。
 向かいの歩道を歩いている予備校生たちは、私が乗っているバスを見て指差したり口々に何か言ったりしている。この路線のバスに乗る子が多いのだろう。中には走り出す子もいた。この先にバス停があるらしい。しかし、昨日会った彼は特に歩調を早める気配はなかった。
 すぐにバスが止まった。「府立医大病院前」というバス停だった。さっき走り出した予備校生達の何人かはバスに乗り込んできたが、昨日の彼は乗ってこなかった。

 三条河原町でバスを降りた。
 もう五時を回っているので、宿を確保しないままあちこち行動するのは問題がありそうだった。このまま何日か、当てのないまま過去に日付を遡り、事態が変わるのを待つしかないのだろうか。
 そのまま三条大橋の方向に歩き、橋の手前からふと川岸を見ると、今日も変わらず等間隔に並んでいるカップルの一組がちょうど立ち上がり、川岸から立ち去ろうとしていた。今だったらあそこに座れるかもしれない。
 そう思った私は、足早に三条大橋の手前を右手に折れ、川岸に降りる階段を下りた。平日のためか幸い、一組分のスペースはまだ空いていて、そこに座ることができた。
 座ってから、一人でここに座るのはひどく場違いだ、ということに気づいた。
 でもいいや。別に条例で「鴨川の川岸はカップル以外は座ってはならない」と決められているわけではあるまいし。
 座って見る景色は二十歳の時に高寿と並んで見た景色と同じだった。高寿につきあって欲しいと言われたのはここだった。今この瞬間も、この川岸のあちこちで同じような会話をしているカップルがいるんだろうな。何十年の間に、鴨川は何組のカップルの成立を見守ってきたのだろう。
 そう考えると、私は一大決心をして「運命に逆らうんだ」なんて高志に犯罪行為までさせてこっちの世界に来たけれど、「運命」の方は私のことなんて気にも留まらないほど小さなことで、私がこんなに足掻いていることなんて知りもしないように思えた。
 数日後には、結局元の世界に戻ってしまって、照れ笑いしながら高志と会うことになるのだろうか。
 それならそれで良い、と思った。やるだけのことはやったのだし、その結果、高志に再び会うのならそれも悪くはないな。高寿にも高志にも会えない結果になったとしても、後悔だけはすまい。自分の意志でしたことなのだから。

 私が物思いにふけっているうちに、隣のカップルは立ち去ってしまったらしい。
 空いたスペースに別のカップルが座ろうとしていた。
「信じられへん。おばさんが一人で座ってるで」
 女の子の声がした。彼女は声を潜めているつもりらしいが、地声が大きいのかよく聞こえてしまっている。
「ええやんか。別にアベック専用って条例があるわけちゃうし」
 これは男の子の声。こちらは彼女の声が私に聞こえてしまっていることを承知した上で、わざと私に聞こえるような話し方をしている、とわかる声だった。
 ごめんなさいね、くらいのことは言ってやろうかと隣を見たら、男の子の方は昨日三条大橋で声を掛けてきた例の高校生だった。一緒にいる女の子も、さっき予備校の前で一緒に歩いていた子だ。こんなところで接触したのか。