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空跳ぶカエル
空跳ぶカエル
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わたしは明日、明日のあなたとデートする

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「うん、あの時はね。理由はよくわからないけど、何というか『抜け殻』になっちゃったのよ。今から思えばちょっと鬱が入っていたのかも」
 彼女は黙ってじっと私を見ている。「理由はよくわからない」という嘘は見破られているだろうな。
「でも、あの仕事のペースでも食べるには困らなかったし、調子が良くなってからも、世間から忘れられない程度に仕事をしていけば良いかな、って思うようになってしまったの。だから仕事のペースは増やさずに現在に至る、というわけ」
 彼女は黙ってしまった。そんなに顔色、変わっていたんだろうか。
 気心が知れた相手なので油断してしまったようだ。

 沈黙が気まずくなりかけたとき、この空気を救うように私の腕時計が振動した。表示を確認して彼女に笑いかけた。
「ごめんなさい。高志が来たみたい。下のロビーで待ってるって」
「あ、そういえば今夜はデートだって仰ってましたよね」
 慌ててボイスレコーダーや手帳をバッグに仕舞い込む彼女を横目で見ながら、冷蔵庫を開ける。
「ほら、抹茶ロール、まだあるから持って行きなさいよ」
 彼女は一瞬躊躇って、頭を下げながら受け取った。
「今日は嫌なことを伺って申し訳ありませんでした」
「それが仕事でしょ」
「そうなんですけど・・・今度までに聞き方を考えてきます」
 まだ聞く気なのか。その時までに上手い答え方を考えておかなければ。
「ほんとは高志さんのことも伺いたかったんですけど、それはまた今度にします」
「うん。また今度ね」
「はい。よろしくお願いします」
 やっと笑顔になった。
 ドアの方に行きかけて、彼女は振り返って照れたような笑みを浮かべながら言った。
「白状すると十年ほど前は、高志さんのことをいいなぁって思ってたんですよ」
 へぇ。そんな雰囲気は感じなかったな。初耳だ。
「あらら。その時だったらまだチャンスがあったのにね」
「えへへ。私なんて、って躊躇ってるうちにチャンスがなくなっちゃいました」
「そんなこと言われてもなあ」
「もちろん福寿さんのせいなんかじゃありませんけどね。では失礼します。また宜しくお願いします」
 早苗さんはドアを開けて出て行った。

 私も急いで身支度をしなければ。
 髪のセットを確認しようと鏡台の前に座ったとき、自分の顔が視界に飛び込んできた。いつもより疲れ、老けているように見える。彼女が心配するわけだ。
 そう思った瞬間、私の意識はまた現実を離れ、過去へ飛んだ。

「ぼくたちはすれ違ってない。端と端を結んだ輪になって、ひとつにつながっているんだ」
「二人でひとつの命なんだ」
 あの時の高寿の顔、握られた手の感触、夜更けの空気感までが生々しく蘇る。
 うそつき。
 私はもう十五年も前に、その輪から放り出されてしまったよ。

 十五年前に震災の枚方からこちらの世界に戻ってきたとき、私は『輪』を出てしまったことを唐突に実感した。言い換えれば、それは「高寿との縁がこれで切れた」ということだった。
 それまでずっと、高寿と二人で作ってきた『命の輪』を完成させることを考えながら生きてきた。あの夢のような四十日間から高寿と私、それぞれの時間の中を生きて十五年後に互いの命を救うことでその輪は完成するのだと。それまでに何かあって自分がそれを達成できなければ、何もかも無駄になるのだと。
 ところが高寿の命を救って『輪』を完成させた瞬間、私はその『輪』から放り出されてしまったことを知った。その時のことは不覚にも想像したことがなかった。
 考えてみれば当たり前のことだ。輪を完成させると同時に時間は輪の外側に流れていくだけだ。けれど、その時に至るまで私はそれに気づかなかった。
 それに気づいたとき、いったい私は、何のためにこれまで頑張ってきたんだろう、って思った。何かに裏切られたような気持ち。
 「抜け殻」になっていたのはその時期だ。
 ・・・待てよ。もしかしたら今でも私は「抜け殻」なのだろうか。

 私が二十歳の高寿に最後にかけた言葉は、
「また明日ねっ」
 だった。
 その明日は私にはまだ来ない。

 ・・・ふう。いつまでも陰気な顔をしてるわけにはいかないな。メイクを直して、いい加減に行かなきゃ。
 私の「今」が待っている。

 ロビーに出て行くと、早苗さんが笑顔で高志と何か話していた。高志はこちらに背中を向けていて表情は見えないが、リラックスしていることが背中でわかる。その広い背中を見ると、さっきまでの鬱屈した気持ちが少しずつ消えていくのがわかった。
 彼女は近づいていく私に気づき、笑顔で会釈してロビーを出て行った。その動きから気づいたのだろう、高志がこちらを振り返った。
 一瞬、私が沈んだ表情をしていることに気づいたのだろう。彼の表情が曇ったが、すぐに仕方ないな、って感じに微笑んだ。私がたまにこうなることも、その原因も彼は知ってるから。
 この笑顔にはいつもちょっとドキッとする。似ている気がする。
 私が近づいていくと、高志は腰に手を当てて言った。
「じゃあ、そろそろ行こうか。母さん」