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空跳ぶカエル
空跳ぶカエル
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わたしは明日、明日のあなたとデートする

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 私はそのためにムチャをして、そして一人息子を向こうの世界に捨ててまでこちらの世界に来る必要があった。きっと高寿は、「終わる」ために、この映画を創る必要があったのだろう。

 やがて場面は、走る叡山電車のシーンになった。
 蝉が鳴く音が聞こえる。これは夏のシーンらしい。
 画面は車内に移り、ドアにもたれて立っているケンジを捉えた。
 電車が宝ヶ池駅に停車する。その時ケンジは誰かを捜すように駅のホームに視線を彷徨わせた。この時、ケンジは切ない顔をした。
 やがてドアが閉まり、電車が発車する。ケンジはさっきと同じようにドアにもたれて立ち、窓の外を見ていたが、その目はもう決意に満ちて未来を見つめているように思えた。これがラストシーンだった。
 映画は終わり、エンドロールが始まった。エンドロールが流れる画面の隅で、最初のエミがアパートに立ち寄ってから電車に乗り込むシーンが再び流れていた。

 このラストシーンのケンジの表情が、今の高寿の意志なのだろう。

 私は映画が終わった後も、ずっと考え続けていた。映画を思い返し、私と高寿の四十日を思い返し、私の三十年を思い返し、そして高寿の三十年に思いを馳せた。
 高寿が私との思い出を「清算」し、私を「終わる」のに、二十七年もかかったことに、私は高寿に感謝すべきなのだろう。未来がない私によくぞ二十七年も縛られ続けていてくれた、と。そして、その「清算」を、こんな美しい映画という形にしてくれたことにも感謝したい、と思った。
 これで私も終われる。この時代に来れて、この映画を観ることができて良かった。
 もうこれで、いつ「調整」が来てどの時代に飛ばされても良い、と思った。
 これで私は、「運命に勝った」ということになるのだろうか。

 気がつけば夜も遅くなっていた。
 「調整」がいつ来るかわからないけど、とりあえず宿を取っておくべきだろうか。
 でもその前にお腹がぺこぺこだ。昼前から何も食べずにここにいたのだから、お腹が空いていることにも気づかないほど、一生懸命「心の整理」をしていた、ということなのだろう。
 この先何があるかわからないけど、なんにしても腹ごしらえをしなくては。
 私は立ち上がってバッグを手に取った。

 ネットカフェから電話であちこち探した挙げ句、四条烏丸の近くのホテルを取れたので、私は地下鉄で移動してホテルにチェックインしてから何か食べようと街に出た。
 夜も遅くなっていたので飲み屋以外はあまり開いていなかったが、新京極で小さな小料理屋を見つけて入った。私より一回りくらい年上らしい年配の女性が一人でやっている店で、私が入ったときには他に男性客が数人いた。彼らは常連客のようで店主と親しげに喋っていたので、私は頼んだご飯と肉じゃがを黙って食べていた。お腹がふくれるとやはりお酒が飲みたくなり、サバの味噌煮と日本酒を頼んだ。
 この味噌煮、美味しい。私はサバの味噌煮を箸でほぐすのに夢中になってしまった。

「どちらから来はったんですか?」
 突然、店主に話しかけられた。
 サバの骨についている身をほぐすのに夢中になっていたので、不意を突かれてちょっと驚いた。いつの間にか他の客は帰ってしまったらしく、客は私だけになっていた。
「遠いところから、です」
 あれ、こんな会話、つい最近あったな。
「遠いところって、外国どすか?」
「もっともっと遠いところです」
 二合くらい飲んでるけど、けっこう酔ってるのかしら。なんだか歌うような調子になっている。
「あらあら、それはたいへんどすなぁ。それでいつまでいはるんどすか?」
「さぁ?」
 首をかしげて続ける。
「今もうすぐにかもしれないし、何日後かもわからないし、つまりわかりません」
「あらあら、それはえらいことどすなぁ」
 店主は柔らかくそう言って自分の仕事をさりげなく続ける。
 私は何となく、この店主ともっと話したくなった。
「ねえ女将さん、私、ここに昔の男に会いに来たんです」
「あらあら、それで会えたんどすか?」
「うーん、会うべきなのかどうか、わからなくなりました」
「あらあら、それは困りましたなぁ」
 この女将さん、面白いな。何を言っても「あらあら」だって。いつかみたいにこの場で私に「調整」が入って消えてしまっても、「あらあら、驚きましたわ」とか言ってそうな気がする。
 私はこの女将さんが妙に好きになってしまい、ちょっと甘えてみたくなった。
「ねぇ女将さん、私、どうしたらいいんでしょうか」
 すると女将さんは、少し首をかしげながら私を見て、にっこり笑った。
「さぁねえ、それが運命なら会えるのとちがいますか?」
 そうかぁ。どこまでいっても「運命」なのか。
 でも、そんなものなのかもしれないな。