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空跳ぶカエル
空跳ぶカエル
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わたしは明日、明日のあなたとデートする

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2.愛美



 ホテルの外に出ると、高志の車が停めてあった。高志が助手席のドアを開けてくれて、私がシートに収まってからドアを閉め、車の後ろを小走りに走りながら運転席に乗り込んできた。
 まもなく、車が音もなくするすると動き出す。
「この時間じゃ渋滞に巻き込まれるかもしれないな」
 と呟きながら、高志は忙しくグリップを動かし、車は他の車の列を縫うように進む。
「ねえ高志」
 いつものことだけど、つい口に出してしまう。
「ナビに家を指示しているんだから、何もしなくても自動運転で安全に走れるのに」
 高志は手を止めずに返す。
「人間の作った機械なんて信用できないよ」
「だってそのナビ、あんたの研究室が開発に協力してるんじゃなかったっけ?」
「ああ、回路の一部だけね」
そこでようやくグリップから手を放し、こちらを向いてにやりと笑った。
「だからよけい信用できないんだよ」
 高志は私の息子で、父親は誰あろう高寿だ。
 勘当される覚悟で産んだのだが、両親は意外に冷静に受け止め、最大限のサポートをしてくれた。おかげで私は高志を育てながら演劇学校を卒業することができた。
 幸運なことに卒業と同時に映画出演のオーディションに合格し、デビューすることができたのだが、その時、子供のことを隠していたことは失敗だったかもしれない。
 いや、私は隠すつもりなどなかったのだが、私を清純派として売り出したかった所属事務所が、子供の存在を隠して活動することを選択したのだった。
 デビューして三年後、マスコミに高志の存在がバレてしまった。事務所はともかく、私の方に隠す意志があまり強くなかったので、むしろ三年も隠せた方が不思議なくらいだったが。
 それまで私は巷で「処女説」が流布されるほど徹底した清純派として世間に受け止められていただけに(まあ当時の私は高寿以外に男性を知らなかったので、半分くらい当たってたようなものだけど)、この「隠し子騒動」はファンに大きなショックを与えたらしく、連日マスコミが立ち回り先や自宅にまで押し寄せ、大きな騒ぎになった。
 私が記者会見で高志の存在を隠していたことを謝罪したこと、五年前に命を賭けて愛した男性がいたことを説明したことが功を奏したのか、一時は芸能活動からの引退も覚悟したほどだったのに、仕事のオファーは途絶えなかった。
 ただ、父親を明かすことだけは私が断固拒否したため、しばらくの間、私の周囲のありとあらゆる男性を疑う報道がされた。所属事務所の社長、共演した男性俳優、演劇学校の同窓生、果ては卒業した中学校の教師までが疑われ、彼らには多大な迷惑をかけてしまった。

「母さん、今年は『京都』に行くの?」
 手動運転が許可されていない高速道路に入り、手が空いた高志が聞いてきた。目線は前方を向いたままだ。
 「京都」、というのは時間の流れが逆になっている、つまり高寿の世界のことだ。「となりのせかい」と子供のころは呼んでいた。しかし、こちらからあちらの世界に行き来する「ゲート」は、あちらの世界で「京都」と呼ばれている都市にしかないので、「となりのせかい」は一般的には「京都」といえば通じている。
 私は首を横に振る。
「もう行かないつもり」
 高志は、そうかー、なんて気のない相槌を打ちながら車を運転している。
「もう高寿はいないし。そんな『京都』に行っても意味ないよ」
「それに今年はまだ『京都』へのゲートが開いていないからね」
「そうなのよ。こんなことは初めてなんだって。でも、昨日ゲート自体は開いたから、もう三日もすれば観光客も通れるようになるらしいよ」
「母さん。その見通しはね。俺の研究室が調査した上で管理局に報告してるんだよ」
「あら。そうだったっけ」
「俺も昨日、調査で行ったよ。ゲートの前後を調べただけだったけどね」

 「京都」への旅行が許可されるのは、五年に一度、四十日間だけだ。それはこちらの世界と「京都」が繋がるのが五年に一度だけだからだ。実際は年によっても違うが、だいたい五十日前後は繋がっている。しかし繋がりの始めと終わりは接続が不安定になるため、管理局が安全を確認した上で一般人が通行を許可されるのが四十日間、ということになっている。
「五年前もそうだったけど、今回も不安定だよな」
 高志が呟く。
 そうだ。五年前は接続が確認されてからも十日以上も不安定で、結局旅行が許可されたのは二十二日間しかなかった。私は「京都」行きを迷っていたが、許可された二十二日間には仕事の関係で都合がつかず、元々どうしても行きたかったわけではなかったので、結局断念したのだった。
「そうよ。どうなってるのよ」
 私は高志にその疑問をぶつけた。
「高志は専門家でしょ。どうなってるのか説明してよ」
 高志は大学で理論物理学を研究している。今回、准教授に昇任が決まったので家族でお祝いをしよう、というのがそもそも今私が高志の車に乗っている理由だったりする。三十歳を前に准教授に昇任、というのは異例の抜擢なんだそうだ。
「いやいや、俺だって何もわかっちゃいないよ」
 苦笑いしてる。
「でも、そうだな。ブレーンワールドって理論があって、俺たちはまさにそれを研究しているんだけど、その理論ではこの宇宙は高次元空間に浮かぶ四次元空間の膜みたいなものなんだ」
「・・・なにそれ。さっぱりわからない」
「そりゃ人間は高次元空間なんてイメージできないからなあ。俺だってイメージはさっぱりわからないからね。ただ計算するとそうなる、ってだけで」
「じゃあ、三次元空間に二次元の膜が浮いている様子を想像してみてよ。つまり目の前に紙切れが浮いてる、って感じ」
 私は目を閉じ、何もない空間に紙のような平面が浮いている様子を思い浮かべる。
「うん。想像した」
「その平面はふわふわ波打ったりしながら空間を漂っている」
 私のイメージの紙に動きが加わった。
「で、肝心なのは、空間に浮かんでいる紙は一枚じゃないってことだ。俺たち人類は、少なくとももう一枚の紙があることを知ってる」
「『京都』のことね」
「そう。二枚の紙は、お互いに近づいたり離れたりしながら漂っている。もちろんおそらく、紙はもっとたくさん、無数に存在する」
 うんうん。そこまではちゃんとイメージできる。
「そこでだ。近いところに浮いている紙同士は、接触することもあるわけだ。接触したときどうなるかは方程式の解き方によっていろんなことが考えられる」
「どんなことが?」
「極端な例だと接触した途端、紙が二つとも消滅してしまうって解もあるんだけど、それはまあ置いといて、別の解には二枚の紙を繋ぐ『通路』ができる、という可能性もある。それが多分、俺たちの世界と『京都』の間に起きていることだと思う」
「現実として『京都』に行けるわけだしね」
「そう。でもここからが面白いんだけど、二枚の紙はそれぞれがふわふわ動きながら漂っているわけだから、通路は常にできているわけではなくて、周期的に接触したときにできるわけだ」
「それが五年、てわけ?」