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金剛になった女性 - 鎮守府Aの物語

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--- 10 想う日々




 金剛は期間限定で第一艦隊旗艦(総務第一秘書艦)兼、総秘書艦(五月雨の代理、妙高から交代)になった。


 普段の提督は都内にあるIT企業の会社員である。彼の鎮守府へのその週の出勤スケジュールを把握するに、月水金土の4日、月水金は午後、土は丸一日とのこと。金剛は職業艦娘のため常に鎮守府内に待機しており、その週は木金土と出撃任務のため日本を離れて南東へ行く。
 そのため直接に提督の秘書として働けるのは実質月・水の2日だけだ。


((秘書というからには提督のスケジュールを把握しておかないといけまセン。少しでも長く側にいるために、駅まで迎えに行ったほうがよいのデショウか?))


 あの日からマンツーマンであるが、提督と少しずつ身の上を話すようにし、お互いのことを知るようになってきた。提督と話すようになって、金剛は少しずつ明るい雰囲気を出すようになってきた。まだ他の艦娘とは思うように話せないが、それでも大きな進歩だ。


 提督と話していて安心できるのは、なによりも提督は自分の話し方を笑わない。真面目に聞いてくれる。聞き取りづらくて聞き返す際も、うまい聞き返し方をするので気にならないのだ。未だ日本語に慣れない文法や話し方がある際は、提督が教えてくれる。


 これまでもボーイフレンドはいたことはあったが、ここまで親身に優しく接してくれる人、異性に出会ったことはなかった。27歳になって金剛は初めて激しく心揺さぶられるものを感じ始めていた。


 傍から見ても、金剛は提督に気があると周りの艦娘らは気づいていたが、そっと見守ることにしていた。(提督は金剛の気持ちや周りの配慮など気づいていなかったが)
 教育秘書艦や協力関係にあった一部の艦娘たちから余計なこと言うなと止められているのだ。




 その日も提督と話すのが待ち遠しく、金剛は提督を駅まで迎えに行くことにした。お昼少しまえに提督は駅に到着すると鎮守府に連絡があったから、お昼を一緒に食べられればと考えていた。


 駅に着いてしばらくすると、提督らしき人物が改札を抜けて近づいてくるのが見えた。
「て、提督・・・く?」
 勇気を出して少し大きな声で呼びかけようとしたが、やめた。語尾が消えるような声になった理由は、提督のとなりにいた少女が目に入ってきたからだ。


 彼女は早川五月、艦娘名を五月雨という。
 鎮守府開設時から提督とずっと一緒にいた中学生の女の子だ。鎮守府外のためか、紺の制服を着ている。
 歳の離れた兄と妹、下手をすると父と娘の雰囲気を出す二人だが、金剛は気づいた。今はまだ、仕事で繋がった仲の良い男性と女の子という感じだが、少しの間しかあの鎮守府にいない自分なんか太刀打ち出来ない、いや。あの鎮守府の中で提督に気があるかもしれない他の艦娘たちでも入り込めない繋がりがあるのがはっきり感じ取れた。
 その少女は年若く、きっとまだ恋に恋する年頃なのだろうが、提督を見る笑顔がまっすぐなのだ。性格をねじ曲げていた自分にとっては、あまりにもまぶしすぎた。


 きっともし、何かの間違いで自分や他の艦娘が提督と思いを遂げてしまったとしたら、まだ若い彼女は心が千切れるくらいに落ち込むかもしれない。自分らが、彼女の貴重な青春時代のひとときを、下手をすると未来を奪いかねない、と勝手に想像する金剛。
 余計な心配しすぎるところも金剛が暗くなった後に生まれた性格の一つなのだ。


((私は大人デス。大人なら大人らしく、未来ある子供を見守るべきデス。あと1ヶ月切ってマス。だから私の方こそ貴重な思い出としてとっておきマス))
 他人の恋路を邪魔したくない金剛は身を引いた。金剛は、自身が恋していることをまだハッキリとは自覚していなかったが、他人に興味を持てるようになったからこそ五月雨をひと目見ただけで、彼女の様子がわかるようになっていた。


 思わず隠れてしまっていた金剛だったが、気持ちを少し整理できたのか、出て行って提督と五月雨の二人に話しかけた。なお考える時間が少し長かったのか、提督と五月雨は少し過ぎ去っていたあとだった。そのため後ろから声をかける形になった。


「Hello! 提督、五月雨。二人を迎えに来まシタ。」
「お、金剛か。ちょうどよかった。さっきの電車内で五月雨とたまたま会ってさ、少し時間あるから
お昼食べに行こうと話していたんだ。金剛もどうだ?」
「金剛さん、一緒に行きましょ!私も金剛さんとお話できたらな〜って。」
 やはり眩しい五月雨。
「OK。私もそろそろ提督以外の人と話せるようになりたいデス。あとすこしなので、Let's Tryします。」
 少し前まで暗い雰囲気だった金剛が話しかけやすそうな雰囲気になっており、提督も五月雨も安心感を得ていた。