二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

金剛になった女性 - 鎮守府Aの物語

INDEX|15ページ/18ページ|

次のページ前のページ
 

--- 13 海の上で想う




 その日提督は宿直の日であり、鎮守府内に泊まっていた。その日は職業艦娘が数人と、同じく交代勤務のため夜勤をしている通常の艦娘が数人残っているだけだった。
 提督が宿直室から出て買い物をし、本館へ戻る途中、道路を挟んだ向かいにある工廠と出撃用の水路のあたりに人影があるのが見えた。




 金剛は総秘書艦の仕事を適度にこなし(五月雨の不在時の代理)、提督の指示どおり出撃任務からは少し離れて待機と称して休む日々。前回の出撃の時に起こした問題、その時演習のためにできなかった艤装の動的性能変化、それを残り約2週間で今度こそやると、証明したいと思っていた。


 総秘書艦の権限を利用して金剛は夜間に工廠から自分の艤装を運び出し、出撃用の水路から海上に出て行った。出て行ったはいいが、今は夜。近隣には民家もあるため、砲撃の轟音をたてすぎるのはよくない。やれるとしたら、ごまかしが効く1〜2回。


 いざやろうと思った時、何を想えばいいのか困った。
 前に提督が自分に対して言った、艤装は元の自分を取り戻すきっかけになれれば、と。その一言が妙に頭の片隅に残り、ちらついていた。


((元の私、ヴィクトリア、ってなんデショウ。私、いつから暗く、ネガティブになっていたんデショウか。なんだかもう思い出せない。))


 海上は静かだった。ほのかに吹く風が気持よく、思いを巡らせるには良い気候でもあった。


 金剛ことヴィクトリアが日本に初めてきたのは、成人してからだった。それまではずっと母の故郷であるイギリスで過ごした。イギリスにも艦娘制度と艦隊はあったがその時は興味がなく関わろうともしなかった。日本に来て、どうやら深海凄艦の侵攻が頻発している国だということを知る。
 日本語には全然慣れておらず、それを心配した父からの勧めもあり、特に会話をしなくてもすみそうな艦娘になることにした。通常の艦娘ではなく、職業艦娘だ。格段に高い給与が出る。試験があったが頭のよいヴィクトリアは難なく合格し、そして艤装との同調の試験。
 ヴィクトリアは、かつてイギリスで建造され旧日本海軍の一級の戦艦になって活躍した「戦艦金剛」のあらゆるデータがインプットされた艤装とフィーリングがあった。合格圏内の高い同調率を示し、その日からヴィクトリアは艦娘名、戦艦金剛の一人として、他にも数人いた金剛担当者とともに日本国の職業艦娘として登録された。


 その後ヴィクトリアは金剛としていくつかの鎮守府に配属され、戦うこと数年経った。日本語は少し覚えてきたがいまだにうまく話せず、話したくても怖がっていた自分が続いた。
 勝手の知らない日本にきて接するのは父だけ。他に長時間触れ合う人がいなかったため性格は次第に暗くなった。父や母の前でだけは明るく振る舞えたが、外は怖かったため感情を出せなかったのだ。
 これまでの鎮守府では、艤装が旧日本海軍の軍艦のイメージだからとして、編成が史実にそったものばかりされてきて随伴艦のメンツも固定されていた。普通なら仲良くなれそうものだが、不幸にも史実に沿って編成された各鎮守府の艦娘の誰もが、自分とウマが合わない性格や態度の人間ばかりで、打ち解けられないでいた。
 各鎮守府の艦娘に対する扱いは大体、兵士・コマ扱いだったり、良くて、明るい雰囲気のアットホームな職場ですと称するような、単にまとまりがないだけの個人主義の普通の会社のような集まりだったりして、人単体としては興味が無く居させるだけのところもあった。各鎮守府の提督は皆優秀だった。優秀すぎて本業そっちのけで艦隊運営に力を注いでいる人もいた。
 鎮守府Aのような待遇は(探せば他の鎮守府でもあるのだろうが)初めて経験するのだった。


 今この鎮守府に来て自分は少し変われた。それは提督・・・と比叡達、他の艦娘のおかげだ。
 比叡は姉妹艦であり、(勝手に)ライバルであり、きっとあの鎮守府にはこれからも欠かせない存在だ。
 一方の自分はどうか。3ヶ月の所属契約であと2週間。戦力として期待され、一応その目的を果たせた。だがそれだけだった。あの鎮守府では、戦闘以外で思わなければいけないことが存在したのだ。それは自分の恐怖、苦手意識を克服しないとやっていかれない、仲間との協調。


 あの鎮守府に来て自分のトラウマに、昔から抱えてきた恐怖に向き合わなければいけなかったが、提督がそれを少しずつ直してくれた。
 そしてそれらの要素の先にはあの鎮守府に配備される、本来の形の艤装がある。あれを使いこなせないまま、契約が終わっていいのか。プライドが許さない。


((頭が痛いデス・・・比叡のように何も考えず、気楽に過ごせたらどんなによいデショウ。))
 比叡には比叡の事情はあるだろうが、金剛はそこまでは含めなかった。


 せっかく数キロ離れた海上に出てたのに思い込むだけで、結局一発も砲撃をしないまま帰還した。工廠に艤装を戻そうとその方向に歩き始めたら、そこには提督がいた。


「!!て、提督・・・なぜここにいマスか? す、すみまセン。勝手に艤装を付けて海上に出てしまいまシタ。」
 金剛はまたしてもやらかしてしまったと思い、提督にひたすら謝った。
 またあの時の、強い口調の提督に叱られる。そう思ったら心臓が縮むような感じを覚えた。どんなふうに叱られるのだろうと心配する金剛の想像を裏切るかたちで、提督は声をかけた。


「ご苦労様。夜の海上警備大変だっただろう。本来なら身軽な艤装の駆逐艦や軽巡の子たちにさせるんだけど、あいにく人がいなくてねぇ。艤装重いのに戦艦の君に出てもらって申し訳ない。ありがとう。」


 いや違う。なんでそんな勝手な想像で言うのか。


 見当違いなことでにこやかに自分に感謝をする提督に何か反論しようとしたが、提督が話し続けたので金剛は言えなかった。
「感謝を込めて、金剛。あなたには臨時で砲撃の訓練を許可する。これ、提督としての特別許可だよ。後追いで近隣には説明するから。おもいっきりやってしまおう。」
 片手でOKサインを出して言う提督。


「え・・・デモ・・・なんで?私は・・・」
 金剛は何か言おうとしたが言葉が続かなかった。
「いいから。」
 提督はそれだけ言って金剛の弁解を何も聞こうとしなかった。