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糸魚川 翡翠
糸魚川 翡翠
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囚人と青い鍵 1

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1 突然の青い男(翡翠side)


空がうっすらと白む午前5時。
普段はそんなことないのに、なんでこんな時間に目が覚めたんだろう。
嫌な予感しかしないが、私がとる選択肢は一つ。
二度寝してや…

ーピンポーンー

誰だよこんな時間に!?

「何ですか」
「宅急便でーす。」
「は?」
「だから、宅急便です」
のぞき穴(というのだろうか)から覗いてみるに、本当に宅急便らしい。
「はいはい」
ガチャ。仕方なくドアを開ける。
「じゃあ、サインのほうお願いします。」
「あ、はい。」
「ありがとうございましたー。」

何も頼んだ覚えはない。親戚や友人から何か送ると言われたわけでもない。差出人も不明だ。第一、届く時間がおかしい。
確か、こういう勝手に送られてきたものの場合、使っても何しても法的責任は発生しないんだよな…。

…しかしやけにデカいなこの箱。置き場にも困るから、取りあえず開けてみるか。

「やっと出られたーっ!ありがとうございますマスター!命の恩人です!あー、やっと体を伸ばせる。」

はぁっ!?何が起きてるんだ!?
あまりの事態に声が出なかった。
何でこんなのが家に送られてくるんだよ!?
てか箱に人入れて輸送すんなよ!
まずマスターって何だよ!?

突っ込みたいが突っ込みどころが多すぎてまずどこから突っ込めばいいんだよ…。

「お近づきの印に、アイス食べませんか?」

そう言って、箱から出てきた得体の知れない青い男はリビングへ向かい、冷凍庫に手をかける。

「人ん家の冷凍庫勝手に開けんな!てかなんでアイスなんだよ。」
「ごごっ、ごめんなさいマスター!あの、アイスはその、美味しいから、というか僕が好きだから…」

青い男はしゅんと小さくなった。
なんだ、こいつ意外と可愛いかもしれない。

「あの、マスター」
「翡翠」
「へ?」
「糸魚川 翡翠。私の名前。で、あんた誰?」
「カイトです。あの、ボーカロイドです。」

あぁ、あの巷で流行りの。言われてみれば、目の前の男と同じ格好をした人が描かれたパッケージを見たことがあるかもしれない。

待てよ、あれは確かPCソフトだったはずだ。
なんで今目の前にいるのは人間なんだ?

「ボーカロイドって、確か歌わせるソフトじゃないの?」
「新型なんです。」
「は?」
「だから、僕は新しく開発された、人型ボーカロイドV20なんです。で、あなたは僕のマスターなんです。」
「勝手に決めるな!まず私、あんたのこと注文してないし。」
「マスターは、新型ボーカロイドのモニターなんです。」
「つまり、新商品を使ってみて、改善点等ありましたら意見してくださいってことか。って、ずいぶん勝手だな。」
「そう…ですね。」

カイトの表情が陰る。私はそれに気づかないフリをして続ける。

「モニターってことは、必ずしも使わなきゃいけない訳じゃないんでしょ。勝手に送られたんだし、別に売ったっていいんだし。とりあえず私は寝るから。」

「マス…ター…」
泣きそうな顔をするカイト。そんな顔をされては、流石に良心に刺さる。
あぁ、こいつを追い出す理由をつくるのもめんどくさい。
静かであれこれ考えてしまう一人暮らしにも、疲れてきたし。

「はぁ。ここを出たところで行くとこ無いんでしょ。いいよ、しばらくここにいな。私やっぱ二度寝するから、7時半に起こしてよ?学校あるから、時間忘れないでよ。」

「はい!マスター」
向日葵みたいな笑顔しやがって…。
可愛い奴だな…って何考えてるんだ私は。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「マスター、マスター?」

あの青い男、カイトだっけ。
あいつは夢じゃなかった、のか。

「マスターっ!おっはようございまーすっ!!」

なんだこいつ鬱陶しいな。

「朝ですよー、7時半ですよーっ!起きてくださーいっ!」

余計起きたくなくなるんだが。

「マスターマスターマスターマスターっ!」

これは起きない方が面倒なパターンか。仕方がない。
大学もあることだし。

「マスターやっと起きたぁっ!」
ぎゅーっ

は?え?
…ええええええええっ!?
「なんだよいきなり抱きつくな!」
状況を理解するのに数秒かかった。そして暑い。重い。

「え、だってマスターが起きたから」
「理由になってない!まず降りろ邪魔だ。ベッドから降りられない。」

「だって、マスターが寝ちゃうと暇でつまんなかったから…」
「お前は犬か!」
「わん」
「鳴けとは言ってない。」

うるさいカイトを適当にあしらって、私は大学へ行く支度をする。基本的に横にいる分にはいいんだが、唯一こいつがいるとできないことがある。

「あのさ、ちょっとあっち行っててくれる?着替えたいの。」

「あっ…はいっ!すみません!」

赤面するカイト。中学生か。いちいち反応が可愛……
あぁもう!

朝からいろんなことがあったからだろうか、服を裏返しに着てしまいそうになったり、リップがはみ出そうになったり、なんだか落ち着かないみたいだ。
ふと時計を見ると、8時15分になろうとしている。
「やばっ!カイト、私出かけてくるから、お留守番お願い!誰が来ても家に入れないでよ!あと、リビングと私の部屋以外入らないこと!」
「はい、わかりました!気をつけてくださいね、マスター」

作品名:囚人と青い鍵 1 作家名:糸魚川 翡翠