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地球最後の一日 番外編

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ある赤い星の喫茶店で、一人の男の子が声をあげた。

「俺、いつか ちきゅう って所に行くんだぞ!」

あまりにも大きな声だったからか、店にいた客が、白々しい目で見てくる。

「こ、こらアルフレッド!そんな大きな声で喋るな、ばか!」

俺は急いで、弟の口を塞ぐ。

「んんんー!ぷあっ、もう、いきなり何だい、アーサー!」

弟が、またも大きな声で俺の名を叫ぶ。

「だから!」

今度は、俺も叫んでしまった。

「すいません、お客様・・・・」

声が・・・、と申し訳なさそうに言ってくるウエイターに、いつからいたのか、マシューが丁寧に謝罪する。

「ごめんなさい、二人にちゃんと言いますので・・・」

こう言われると、どっちが兄か弟か分からなくなる。

「ごめんな、マシュー」

そう、兄である俺は、弟であるマシューに言う。

「ううん、大丈夫」

マシューは天使のような笑顔で、俺に微笑む。

本当によく出来た弟だ。

たまにどこに居るのか分からなくなるが・・・

「それにしても、アル。地球は、もう滅んでいて、行く事は出来ないんだよ」

「えー、何だいそれ。つまんないぞー」

アルの言いたい事は分かる。

青い、澄んだ星。地球。

太古から文明が栄え、色々な人が住んでいた、とされる星。

「・・・もう、教科書の隅の方にしか書かれてないからな・・・」

本当に残念だ。

「・・・でも、いつか俺は地球に行くんだ!」

「あーはいはい、精々頑張れよ。」

そう、軽く流そうとした。

どうせ無理なんだし。

「俺はビッグでダイナマイトな、HEROだからね!」

お得意の決めポーズで、アルフレッドは笑う。

その隣で、マシューは拍手する。

「ならば・・・私と一緒に行きませんか?」

誰かが言った。

その声は、アルフレッドでもマシューでもない。

黒髪に黒い瞳。透き通るような白い肌。

ここでは見かけない顔だちだ。

「お前・・・東洋人か?」

そう、俺はそいつに問う。

「ええ。最近こちらに越してきて・・・。この喫茶店で母と一緒にお茶をしていると、興味深いお話が聞こえたもので、つい・・・」

彼は、本田菊、そう名乗った。

「キク!君も地球に行ってみたいのかい!?」

目をキラキラさせて、アルフレッドが聞く。

「私たちのお祖父様、そのお祖父様が過ごしていた星・・・。いつかはこの目で見てみたい・・・」

菊は手にギュッと強く力を入れる。

こんなにも熱心な、そして決意したかのような顔。

同年代なんだろうか・・・。そんな奴は見かけなかった。

だからかもしれない。

彼に、こんなにも強く、心惹かれるのは・・・。

「き、菊・・・・」

「何でしょう?えーと・・・」

「アーサーだ。アーサー・カークランド。」

アーサー。慣れない発音に菊は苦戦しているようだったが、それでも覚えようとしてくれているみたいだった。

「俺とお前で・・・・・」

そこで口をつぐむ。

でも俺は、勇気を振り絞って、続く言葉を相手に告げた。

「地球、見に行こう!」

さっきまで『地球』という存在を否定していたのに。

笑えるだろう?

何て言えばいいかわからないが、菊に会った瞬間、俺は運命を感じたんだ。

ずっと昔、菊と約束した気がする。

また会おうって・・・・。

「・・・にほん・・・・」

思わず、俺は口にしていた。

その単語の意味なんて知らないくせに。

何故だか、涙が止まらない。

溢れて溢れて、止まらない。

「いぎりす・・・さん・・・」

相手も良く分からない単語をつぶやく。

そして菊も、俺と同じように、涙していた。

泣いて泣いて泣いて。

涙が止まるまで。体中の水分が一気になくなったような気がした。

アルフレッドやマシューは、困惑して、オロオロしている。

こいつらの兄貴のくせに、情けねぇな。

そのあと、少し話してから、菊とは別れた。

また、いつか会えることを願って・・・・。

その時はきっと、二人とも、宇宙飛行士になっているのだろうか。

この先の、具体的ではない、子供のような夢に思いはせながら、俺はアルフレッドとマシューの手を取り、家路についた。