敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
ファイナルカウントダウン
「やられた……」とシュルツは言った。「なぜだ、あとほんの少しだったのに……」
彼が見るモニター画面の中に敵の戦闘機。銀色のやつの〈二番機〉だ。垂直降下で真上から砲台のある穴にめがけてミサイルを射ち、引き起こす。
制動。しかし間に合わずに地面に激突してしまえ――と思いながら見ていたが、その願いは叶わなかった。そいつはあともう少しのところで、機首を起こして上昇に転じる。
「なぜだ……」
とまた言った。あの戦闘機が射ったのは核ミサイルに違いないが、シュルツが今いるこの基地は〈反射衛星砲〉の砲台から遠く離れて置かれている。ゆえにあそこで核が弾けてもここが炎に呑み込まれることはない。
しかし、もちろん問うたのは、『どうして核攻撃を止められなかったのか』と言ったことではなかった。位置を知られてしまった以上、遅かれ早かれ砲台は殺られる。それはわかりきったことだ。問題は、どうして〈ヤマト〉を撃つ前に、砲を潰されてしまったのかだ。
本当にあともう少しだったのに。〈最後のカガミ〉となるだろうあの衛星が〈ヤマト〉めがけてビームを反射できる位置に辿り着くまで十数秒。その秒読みをコンピュータが行っている。カウントダウンはまだ進行中だった。
「あと十五秒」と砲手が言った。
何を今更、と思いながら、シュルツはそちらに眼を向けた。モニター画面の中に〈反射衛星砲〉。その砲身の先端が赤く光を放っている。発射まであとわずかと言う徴(しるし)だ。
「え?」と言った。「殺られたんじゃないのか?」
「まだです」とガンツ。「核は起爆していません」
「何?」
と言った。そこで気づいた。核ミサイルは当たったが、しかし爆発はしていない。起爆したなら一瞬の閃光の後に火球が膨らむはずだ。そこに〈小さな恒星〉が生まれたのかと言うようなものが――。
しかし、それが起きていない。核爆発が起きてないのだ! 『不発か?』とシュルツは思ってから、『いいや違う』と考え直した。
レーダー画面の中で敵戦闘機どもが砲台に背を向けて八方に散っている。『もうここには用はない』と言わんばかりだ。それどころか『この場から早く遠くへ行かなければ』と考えてでもいるような。
「あと十秒」と砲手が言った。
「時限信管でしょう」とガンツ。「命中してしばらくしてから起爆する仕掛けに違いありません。でないと、核爆発にやつらも呑まれてしまいますから。やつらが充分離れた場所まで逃げるだけの時間を置いて、そこでピカドンとなる……」
そう言う間も砲手は秒を読んでいる。九、八、七……。〈ヤマト〉めがけてビームを放つ準備は完全に整っていた。空の上では最後の衛星が四枚羽根を微調整して、〈ヤマト〉の胴体中心部に必殺の一撃を撃つべく狙いを定めている。後はその秒読みがゼロになりさえすればよいのだ。
それだけなのだ。それだけで、この勝負は逆転のサヨナラ勝ちで終わるのだ。砲手が「六、五……」と秒を読む。戦艦三隻を殺られはした。ビーム砲台もおしまいだ。それでも、それでもこちらの勝ちだ。褒められた勝ちではなくても勝ちなのだ。
シュルツは叫んだ。「いつだ! いつ起爆するのだ!」
「四……三……」と砲手。
「わかりません」とガンツ。「しかし……」
「二……」
「そうだ!」
と言った。あと二秒。たったあと二秒間だけ、核が弾けてくれなければいい。やつらの弾頭のタイマーがそうセットされてればいい。ただそれだけでこちらの勝ちだ!
「一……」と砲手。
「頼む!」
と、シュルツは声の限りに叫んだ。あと一秒。ただそれだけで……。
「ゼロ」
と砲手は言った。
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之