敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
第三次攻撃
『第三次攻撃? どういうことです?』
アメリカの代表者が藤堂に言った。他の者らも首を傾(かし)げている。藤堂は立体画像として映る彼らを見返し、それから言った。
「〈真珠湾攻撃〉ですよ。トラ・トラ・トラ――かつて日本はハワイにあったアメリカの基地を奇襲しました。第一次攻撃目標は港です。戦艦・空母を始めとする機動部隊を叩き、以後の戦争を有利にする目的があった」
『はあ』
と幾人かが頷く。皆が皆、『なんの話が始まったんだ』と言う表情だ。
「しかしこれにはもうひとつ、自分達の安全を図る狙いがありました。敵の力を奪っておけば後を追うにも追いようがなく、日本にノンビリ帰れると言う寸法です」
『ふうん』
「第二次攻撃で飛行場を潰す。これもやはり対艦攻撃機によって帰り道を襲われるのを防ぐためです」
『そうですか』
「ですが真珠湾攻撃の本当に本当の目標は、敵の補給施設でした。軍事物資をみんな丸焼きにしてしまえば、アメリカ軍は戦おうにも戦うことができなくなる。船に油を入れられず、銃も弾薬も食料もなければ、日本は何ヶ月もの間、太平洋で思う存分に暴れられる。ゆえに第三次攻撃によってそれを叩く――これを完遂することが最も重要であったわけです」
『トードー、あなたは何をおっしゃりたいんですか』
「ですから〈ヤマト〉が今やろうとしているのも、それと同じなのではないかと言うことですよ」藤堂は言った。「かつて日本は真珠湾で、三次目の攻撃をしなかった。一次と二次が成功した時点で戦果は充分とし、後は逃げるが勝ちだと言ってしまったのです。艦隊の提督は第三次攻撃の重要性を理解していなかった。軍と天皇陛下から預かり受けた艦隊の安全にしか興味がなかった」
『だから何が言いたいわけ』
「冥王星には〈ヤマト〉を待つ罠が張られていたのでしょう。〈ヤマト〉は二発の核によってそれを叩いたところなのかもしれません。沖田が並の指揮官ならば、それで戦果は充分として後は逃げようとするかもしれない。けれどもあの男のことだ。たとえリスクを冒しても、敵にトドメを刺そうとするのじゃないか……」
『はあ。ですがオキタと言えば、一年前に〈メ号作戦〉で敵に背中を見せた男じゃありませんか? どうもあなたの言うことは……』
そのようにひとりが言いかけたときだった。「長官!」と声がして、さっきの士官がまた飛んできた。
「〈ヤマト〉です! 〈ヤマト〉からの通信らしきものを受信しました!」
「なんだと?」
と言った。外国の者達も驚愕に目を見張っている。
「どうした! なんと言ってきたんだ!」
「それが――」
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之