敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
エコー
新見が〈ヤマト〉艦橋のメインスクリーンに出した立体画像。それは冥王星の内部をスキャンしコンピュータでグラフィック化したものだった。
妊婦の腹に超音波を当て、中の胎児を見るのと理屈は同じだ。実は〈ヤマト〉は海に潜っていた間に、海底に探査装置を置いてきていた。それが地中のエコーを捉えて〈ヤマト〉にデータを送ってきたのだ。
お寺の鐘を撞(つ)けばゴーンと鳴るように、星の地盤を揺るがせば地中をエコーが駆け巡る。ここで撞木(しゅもく)の役を果たしたのが、山本の機が〈魔女〉を討った際の核爆発の衝撃だった。それをセンサーで検出し、コンピュータで解析すれば、お母さんのお腹の中の赤ちゃんが男か女かわかるように地中のようすが知れる寸法。
核爆発、と言えばその前に〈タイガー〉の一機がドリルミサイル発射台に対して炸裂させていたが、そのときは〈ヤマト〉の周りでドカドカとミサイルが爆発していたために、地中のエコーは打ち消され、計測はまったく不能だった。
しかし二度目の核は違う。静かになった海底に残されていた計測器は〈魔女〉の断末魔の谺(こだま)をはっきり聞き取った。これによって得られたデータは、アリをガラスのビンで飼って巣穴を横から見るように星の内部を断面図に描くに充分なものだった。
そして、描き出されたのだ。星の地殻に掘り抜かれた長いトンネル。
冥王星の北極点近くから、固体メタンと固体窒素の岩盤の中を、スイカやミカンの皮の内側の白い部分に針を通していったように伸びている。
つまり、地下数十キロに水の海があるその間を。もう一方の口は白夜の地帯にあり、太陽と地球の方角を向いていた。
「長さおよそ三千キロメートル……日本の北海道から沖縄ほどの長さがありますね。これが遊星投擲装置に違いありません」
新見の声に皆が声を唸らせる。そうだ。もちろん海底に探知装置を置いたのは、これを知るためだった。
基地を探す計画は、決して古代ら航空隊のみに頼っていたわけではない。上空からの索敵をプランAとすればこちらはプランB。ふたつの手段で敵を見つける考えでいたのだ。とは言え、決してこちらの方が成功する率が高いと思っていたわけではないが。
だが実際に、見つけたのはこの〈エコー計測器〉の方だった。新見は言う。
「これは一種のカタパルトでしょうね。石をこちらの口から入れて、反対から射出する。トンネルを抜ける間に必要なスピードまで加速させる……」
「うん」と島が言った。「地球にも似たものがあるよな」
「ええ。おそらく、あれと似たような仕組でしょう」
と新見は言った。島が言うのは、戦闘機や小型宇宙船をスクランブル発進させる〈マスドライバー〉などと呼ばれる装置のことだ。が、それにしても冥王星のこれは長い。
「そして、ここを見てください。地中に大きなものがあります。エコーではおおまかな輪郭しかわかりませんが……」
あった。トンネルの出口近くに、地中に根を張る植物のようなもの。それがいくつも芋を付け、大きく膨らましたようになっている。
〈芋〉はひとつひとつが巨大だ。宇宙船を何隻も収容できるだろうほど――。
「間違いありません。これがガミラスの基地です」と新見は言った。
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之